「電通は『人生100年時代』の『学び直し』の機会と銘打ち、この夏から早期退職者を募集しました。応募が100名に届かなければ中止する予定でしたが、結局、230人もの応募があったのです」(電通中堅社員)
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広告業界の“巨艦”電通が揺れている。11月11日に発表された1~9月期決算は収益が前年同期比9.4%減、営業利益は半減し185億円となった。
「コロナ禍で広告需要が落ち込んだことが主因ですが、元からテレビなどの広告収入がジリ貧のうえ、財務も厳しい。また“五輪採用”として契約社員を数百人採用しましたが、契約が延長になって人件費が重荷に。『正社員にしろ』という要求も出始めている」(同前)
2002年に汐留に建った電通本社ビル
苦境の中、電通は40~59歳までの社員2800人を対象に早期退職者を募集した。社員が独立し、“価値発揮”する場として来年1月に「ニューホライズンコレクティブ合同会社」を設立。退職者はこの会社と最長10年の業務委託契約を結び、兼業も可能となる。
「電通は40歳以上の中堅社員の年収が残業代や成果報酬を含め1500万~1800万円にのぼる。コネ採用したお荷物社員を整理する目的もあります」(同前)
電通は今回、72億円の「早期退職加算金」を計上。1人当たり約3100万円の計算となる。
「退職金は基本給5年分です。また、会社は今回の退職者に『平均で社員時代の50~60%の報酬を支払う』と発表しましたが、実際には独立から1~3年目までは80%、4~6年目は75%と段階的に減らし、一方で成果報酬を上げていくスキームです」(同前)
「飲み会が一切ないので、経費も相当浮いているはず」
こうした“リストラ”がなぜ必要なのか。会計評論家の細野祐二氏が解説する。
「この10年で巨費を投じて買収した海外子会社の利益率が悪く、かつての実質無借金経営から借入金が6000億円以上に膨らんでいる。また営業活動による現金収支も激減しており、収益が上がらない状態。人件費を大きく落とす必要がある」
さらにコロナ禍において、社員の仕事に対する意識も大きく変わっている。若手営業社員が語る。
「朝から晩まで自宅でネット会議ですが、実は営業もすべてリモートで完結すると全社的に気付いた。打ち合わせの名目で行われていた飲み会が一切ないので、経費も相当浮いているはず。まとめて支払われていた交通費もなくなり、その都度精算になる予定です」
〈取り組んだら放すな、殺されても放すな〉……社訓「鬼十則」も消える?
電通が所有する東京・汐留の地上48階建ての本社ビルにもこんな影響が。
「ビルに人がいないので、新たな借り手を探した。しかし、賃料が高いだけではなく、来客数を計算してエレベーターをやたら多く設置した“電通仕様”の設計なので借り手がつかない。そのため子会社を本社ビルに集約し、賃料を取る計画です」(ベテラン社員)
さらに電通は、社の“DNA”とも言うべき有名な社訓「鬼十則」まで“リストラ”することに。
〈難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある〉〈取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……〉といった社訓は、5年前に新入社員の高橋まつりさんが過労自殺した際、大きな批判を浴びた。
「来年、『ノーススター/8ウェイズ』という新社訓が発表されます。『ただ横文字になっただけじゃないか』とシラける声も社内にはありますが……」(同前)
8項目からなる新社訓には〈変わり続けられるからうまくいく〉、〈残念なことに、困難は私たちを成長させる〉などと記されている。「鬼が笑う」?
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年11月26日号)