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中国外相の〝妄言〟に沈黙の茂木氏、会見形式を優先させ国益損なう - 樫山幸夫(元産經新聞論説委員長)


(btgbtg/gettyimages)

中国の王毅外相と茂木外相による先日の共同記者発表が波紋を呼んでいる。

王毅氏が尖閣諸島は中国の領土であるかのような妄言を弄し、茂木外相がそれを聞き流していたからだ。一言も反論しなかった茂木外相に怒り心頭の自民党部会が、抗議の決議文を突き付ける騒ぎになっている。

茂木氏が口をつぐんでいたことについて日本政府は、日中双方が一回ずつ発言するというルールに従ったと説明しているが、形式にこだわって実質を省みなかったといわれてもやむをえまい。国益を危うくする信じがたいミスというべきだろう。

共同会見の席であろうと、どこであろうと、礼儀を損なうことであっても、主張すべきことを主張するのが冷徹な国際政治ではないのか。

米中首脳は、人権で激しい応酬

 今回の日中外相共同記者発表の模様をみていて、あらためて思い起こしたことがある。

古い話で恐縮だが、話は1997年にまでさかのぼる。この年の10月29日、ところはホワイトハウスに隣接するオールド・エグゼクティブ・ビルの講堂。国賓として訪米した中国の江沢民国家主席とクリントン米大統領(いずれも当時)の共同記者会見だ。

少し長くなるが、そのハイライトを再現してみよう。

両首脳の冒頭発言が終わった後、1989年の天安門事件についての質問が出た。

江沢民氏は「国家の安全を脅かし、社会の安定を損なう政治的騒乱に対して必要な措置をとった。党と政府はこの判断が正しかったと確信している」と従来の中国の主張を繰り返し、丸腰の学生ら多数を殺害した弾圧を正当化した。

この発言を受けて、クリントン大統領は、自らに対する質問ではなかったものの、すかさずマイクに歩み寄り、「この問題で、我々の間には明らかに考え方の違いがある。この事件と、それに続く活動家への容赦のない措置で、中国は国際社会の信頼を失った」と手厳しく反論、非難した。

主席は大統領の発言が終わるのを待ちかねたように再び口を開き、「民主主義、人権、自由は、それぞれの国家の状況に従って他国から干渉されずに検討されるべきだ。滞在中の温かい歓迎には感謝しているが、ときに〝雑音〟が聞こえてくることがある」と皮肉たっぷりに、自らの訪米にあわせて各地で開かれていた人権活動家らの中国抗議集会をあてこすった。

これで終わりかと思ったら、大統領が再び反論。「中国はさまざまな問題で正しい決定をしているが、この問題に限ってみれば誤った結論だ。私の政策についても多くのことをいわれてきたが、それでも私は今、この場にいる」と延べ、民主国家においては政府への批判は自由であり、当局はそれを受け入れるべきだと主張した。

激しい論争は時間にして10数分は続いたろう。双方の主張はかみ合わないまま、会見は終わった。

国益のためなら形式など無視

当時ワシントン支局勤務だった筆者は、「首脳同士の記者会見としては異例の激しい応酬を展開した」という記事を送稿した。取材メモには「指導者の論争かくあるべし」と書かれている。あれほどまでに激しい首脳同士の議論は、それ以前も以後もみたことがない。

米大統領が各国首脳を迎えてホワイトハウスで行う共同記者会見にもルールがある。

両首脳の冒頭発言の後に、原則としてそれぞれの国のメディアから2問づつ質問を受ける。クリントンー江沢民共同会見もこの例外ではなかった。

当時、米中関係は比較的良好であり、この江沢民訪米が翌年6月のクリントン訪中につなあがるとう伏線があった。双方ともよい雰囲気を損ないたくないと考えていたとみられる。 

しかし、両首脳とも、ここで自ら言うべきことを言わなければ、相手の主張だけが伝えられ、自ら、それを黙認したと受け取られることを恐れたのだろう。

双方の脳裏にあったのは、国益を守るという一点だけ、会見のルールや国賓への配慮などは全く 問題ではなかった。

不当な王発言に茂木氏は薄笑い

1997年10月のクリントンー江沢民共同会見と、2020年11月24日の茂木、王毅両外相のそれと比較してみるとどうだろう。日本の対応の甘さは歴然としている。

茂木・王毅共同記者発表の経緯はすでに報じられているが、あらためて、この場での王毅外相の長広舌に触れる。

茂木氏に次いで発言した王氏は、その最後で、「釣魚島(尖閣の中国側呼び名)の情勢、事態を注視している。ひとつの事実を紹介したい」と述べ、会場の耳目をひきつけた。

そのえで、「真相をわかっていない日本の漁船が敏感な水域に入る事態が起きている。中国側としてはやむをえず、必要な反応をしなければならない。中国は引き続き主権を守っていく」と述べ、法令に従って操業している漁船を不当に非難。「敏感な水域で事態を複雑にする行動は避けるべきだ」と言い放った。

 「盗人猛々しい」とは、このことだろう。

他国の領土、領海をいつの間にか、自らのものとし、堂々とそれを主張するという厚顔ぶりは、今に始まったことではないが、「事態を複雑にする行動」をとっているのはどちらか。公船による常習的な領海侵犯などを考えれば明らかだろう。噴飯ものというべきで、その発言を、そっくりそのままお返ししたい。

茂木氏も内心ではさぞかし不愉快だったろうが、この場では、薄笑いをうかべているだけで、一言も発せず、会見はそのまま終了してしまった。

王毅外相の暴言はこれにとどまらなかった。

氏は翌25日、菅首相を表敬訪問した後、記者団に、「偽装した日本の漁船が繰り返し敏感な海域に入り込んでいる」と事実無根の批判を展開した。自分たちが多数の偽装漁船を送り込んでいるから、こういう発言が出るのだろう。他の国も不法行為に手を染めていると思われたら迷惑千万だ。

即座に反論することこそ重要

会談の翌々日、26日に開かれた自民党外交部会などの合同会議で王毅発言、茂木外相の対応が槍玉にあげられたのは当然だろう。

決議文を突き付けられる破目になった政府側では、加藤官房長官が同日の記者会見で弁明したが、これもお粗末だった。

加藤氏は「日本の立場は外相会談、共同会見の場でも伝えられたはずだ。共同記者会見は日中双方が一度ずつ発言する形になっていた。王毅氏の発言は、受け入れられないと申し入れた」と説明した。

たしかに、茂木外相は、共同発表で王毅氏に先立って、中国側の「前向きな対応を促す」と述べてはいる。しかし、その後に発言した王毅氏が誤った主張をまくしたてたのだから、会見のルールに拘泥して沈黙を守っているなどということは日本の外相として許されることではあるまい。

加藤官房長官の説明同様、茂木外相自身も11月27日の参院本会議で、記者発表後に、中国側に日本の立場を伝えたと説明した。しかし、公開の記者発表の場での発言に、即座に反論せず、後刻何か言ったところで何の効果があるというのだろう。

中国は日本の立場など先刻十分に承知だ。日本の立場を繰り返し伝えることはもちろん重要だが、今回は、共同記者発表の場で即座に反論することにこそ、意味があったのであって、後になってモノを言っても無視されるだけだろう。官房長官、外相も本心では、そんなことは知っているのだろうが。 

共同発表で反論しなかった事実は重い。将来、中国側に付け入るスキを与えることになってしまえば、〝大人の対応〟の代償はたかくつくことになるというべきだろう。

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