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橋下大阪市長の出自をめぐる週刊朝日の報道は「朝日新聞社報道と人権委員会」によってきちんと検証されたか

週刊朝日による橋下徹大阪市長の出自報道について、出版元の朝日新聞出版は12日、「朝日新聞社報道と人権委員会」の見解を発表した。同委員会の見解は、「橋下氏の出自を根拠にその人格を否定するという誤った考えを基調としている」「事実の正確性に関しても問題がある」などと指摘、朝日新聞出版の神徳(こうとく)英雄社長が責任を取って辞任した。前週刊朝日編集長の河畠大四(かわばた・だいし)氏らは停職3カ月および降格の処分を受けた。

同委員会の見解では、担当デスクや河畠編集長は「他の雑誌がすでに報じている」「執筆者、佐野眞一氏への遠慮が働いた」ことなどから判断を誤ったと説明した。朝日新聞出版の雑誌統括は被差別部落の地区特定とその他の削除を強く求めたが、河畠編集長の暴走を止めることはできなかった。これに対して、佐野氏は「初回で連載打ち切りの事態になり、日本維新の会代表の橋下氏を通じて現在の未曾有の政治的停滞状況と言論の置かれた危機的状況を描きたいという筆者の真意が読者の皆様にお伝えできなかったことが残念」としながらも、「現実に差別に苦しんでおられる方々に寄り添う深い思いと配慮を欠いた」ことをわびている。

朝日新聞も朝日新聞出版も「差別や偏見などの人権侵害をなくすために努力する」ことを記者行動基準に掲げている。筆者は今回、差別や偏見をめぐるメディアの役割について、次回は、政治家のプライバシーと表現の自由について私見を述べたい。

カミングアウト

筆者が産経新聞大阪社会部遊軍キャップだった1996年3月、HIV(ヒト免疫不全ウィルス)訴訟は和解に向けて大詰めを迎えていた。当時、筆者は輸入血液製剤を使った血友病患者が大量にHIVに感染した事件の大阪取材班キャップをしていた。

取材班のメンバーである女性記者が大阪原告団の花井十伍さんを訪れたところ、感染者としてカミングアウト(実名公表)したいと打ち明けられた。女性記者は花井さんの写真を撮影して、原稿を書いてきた。「花井十伍」は、ベースギターを担当するバンド活動で使っていた芸名だが、花井さんはその名前で原告として訴訟に加わっていた。

エイズを発症するかもしれないHIV感染者は差別と偏見と闘っていた。実名を公表しているのは川田龍平(かわだ・りゅうへい)さん(現みんなの党参院議員)や家西悟元衆院議員らわずかな数人に限られていた。

それだけに、花井さんのカミングアウトには大きな意味があった。花井さん自身、感染をきっかけに昔の恋人と別れていた。その一方で、実際にHIV感染者がどんな生活を送っているかを社会が認識しなければ、HIV感染者を取り巻く差別や偏見は解消されない。そのためにはHIV感染者が勇気を持ってカミングアウトすることが第一歩となる。

私は女性記者の原稿をそのまま出稿したが、あるベテランデスクがストップをかけ、当番デスクが「カミングアウト」の部分を全面削除して、花井さんのカミングアウトを精神的に支えた婚約者の看護婦とのヒューマンストーリーに書き換えた。もちろん花井さんの写真は掲載されなかった。

これでは花井さんの勇気と誠意に記者として応えたことにはならないと思った筆者は「写真を掲載してカミングアウトする理由を書かなければこの原稿は死んでしまう」と抗議したが、ベテランデスクは「いくら善意で原稿を書いても思わぬ悲劇を引き起こすことがある」とだけ説明した。

しばらくして和解が正式に成立して、花井さんは実名を公表している他の原告とともに記者会見し、その写真は産経新聞の紙面にも大きく掲載された。正直言って、「全紙が掲載するから問題がないという判断は判断ではない。単なる事なかれ主義だ」と思った。新聞社の社内では、こうしたことが自由に議論されない。

ロンドンで暮らすようになって痛感するのは、社会を構成する一人ひとりがこうした問題を自由に議論することが大切ということだ。

筆者は、差別や偏見は被差別者が自らカミングアウトすることによってしか解消されないと思う。社会はそれを受け入れて、サポートし、伴走する以上のことはできない。

パラリンピックの意義

この夏、ロンドンでパラリンピックが開かれたが、パラリンピック発祥の地、ストーク・マンデビル病院を訪れた。同病院に隣接するスポーツ施設で英車イス団体ホイール・パワーの最高責任者マーティン・マクエルハトンさんからインタビューした際、筆者は車いすのアーチェリー選手と健常な子供たちが同じフロアで活動する意味にまったく気づかなかった。

マクエルハトンさんは「小さいころから車いすの人たちと接していれば、子供たちは障害者と健常者の差を意識しなくなる。どちらも同じように社会の構成員であることに気づくようになる」と話した。筆者は、大きなハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けた。それまで、そんなことを考えたことはなかった。

5年前の夏、ロンドンで住み始めたころ、障害をありのままに映し出す英国のテレビになじめなかった。しかし、第二次大戦で下半身不随になった若者を病院に閉じ込めるのではなく、若者にどんどん社会に出て行くことを進めたパラリンピックの提唱者ルートビヒ・グットマン医師(故人)の信念を知り、考え方が180度変わった。

パラリンピックをじっくり観戦する機会を得て、障害者がスポーツを通じてありのままの姿を見せることで、障害を取り巻くさまざまな差別や偏見と闘っていることを痛感した。

英民放チャンネル4は英BBC放送以外では初めてパラリンピックの放映権を獲得、専用チャンネルを設けて計400時間放映した。パラリンピック番組に障害者のタレントを登用することで、公の場でタブーとされてきた「障害」に関するジョークまで解禁された。

「パラリンピック大国」の中国も1日5時間にわたって競技を放映した。ドイツやフランスの主要チャンネルも夜の枠を使って放映。衛星放送チャンネルのスカイ・イタリアも計500時間をパラリンピック放映にあてた。

これに対して、2020年東京五輪を誘致する日本のNHKはロシアと並んで放映時間が少ない例として英誌エコノミストに紹介された。世界はディスエイブル(障害)を取り巻く垣根と偏見、差別を取り払うことに努めたのに対し、日本ではパラリンピックへの関心は低いのかとがっかりした。

在日韓国・朝鮮人をめぐる差別も、筆者の中学時代の同級生のように日本名を捨て、実名を名乗ることで少しずつ解消されてきた。

今も続く悪意を持った地区の暴露

関西大学社会学部の石元清英教授によると、被差別部落をめぐる差別も、部落内の結婚は1割にとどまり、9割が部落外と結婚している。大手企業の就職差別もほとんどなくなっているという。

その一方で、被差別部落の地区を隠し、悪意を持った者がそれを暴露するという差別行為が今でも繰り返されている。ソーシャルメディア、Twitterでも同和地区を公表するアカウントがあって、暗い気持ちになった。

旧態依然とした部落差別観から抜け切れなかった

差別や偏見は被差別者が自らカミングアウトすることでしか解消されない。週刊朝日の出自報道も、それを検証した「朝日新聞社報道と人権委員会」の見解も結局は、旧態依然とした部落差別観から抜けだしていないように思えた。

隠すことで差別の助長を防ぐといいながら、メディアは逆にタブーをつくり、差別と偏見を固定させてきたのではないか。差別は部落差別だけに限らない。同委員会には差別表現を避けるという後ろ向きの視点ではなく、人権をめぐる前向きなビジョンも示してほしかった。

次回は政治家のプライバシーと報道の自由について私見を述べたい。

(つづく)

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