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TPPをめぐる党内議論

解散・総選挙の争点として、急きょ、TPP(環太平洋経済連携協定)が浮上している。

私は、経済連携の推進そのものは否定しないが、TPPは国民生活に大きな影響を与える政策課題であり、総理には、少なくとも、これまでの党内議論を踏まえた決定をしていただきたいと思う。

この間、党内の経済連携プロジェクトチームの事務局次長として、できるだけ中立的な立場で議論を整理してきた立場からすれば、この間の議論の積み上げは生かしてもらいたいと願っている。

単なる賛成・反対だけでは割り切れないものがTPPの議論の中にはある。

丁寧な議論がすべて吹き飛んで、イエス・ノーの選択だけで選挙が行われるとすれば、それは郵政選挙の二の舞になってしなうと懸念している。

先の通常国会閉会直前の9月7日、古川担当大臣(当時)に対して行った党内議論のポイントは以下のとおり。

国民の皆さんにも参考にしていただきたいと思う。実に様々な論点について議論してきたことがお分かりいただけると思う。

2012年9月6日

経済連携PT報告について

経済連携PT座長 櫻井 充

 昨年11月9日に本経済連携PTでとりまとめた「経済連携PT提言~APECに向けて」において、TPPへの交渉参加の是非について「政府は、懸念事項に対する事実確認と国民への十分な情報提供を行い、同時に幅広い国民的議論を行うことが必要である」と提言した。

 このPT提言を受けて野田総理は11月10日に「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」との方針を示し、その後、政府は関係国との協議を通してTPPの交渉状況、協定内容等につき精力的に情報収集を行ってきた。

 政府により収集された情報及び本PTの代表団が米国、カナダ訪問時に得た情報を元に、本PTにおいて、懸念事項に対する事実確認と国民を代表する国会議員による「国民的議論」を積み重ねてきた。

その結果、添付のような懸念事項に対する本PTのとりまとめを行うに至った。政府には、昨年11月9日の提言及び添付とりまとめを踏まえ、TPPへの交渉参加の是非につき、慎重に判断することを求める。

 なお、本PTの議論を通じて、経済連携全体及びTPPを含む個別の経済連携についての戦略が明確でないと多くの議員から指摘された。政府においては早急に国益の視点に立った経済連携全体の戦略およびこれに基づく個別経済連携の戦略をとりまとめるべきである。

以上

2012年9月6日

経済連携PT

TPPの懸念事項(絞り込んだもの)と党としての考え方

1.総論

(1) TPP交渉参加に際し、(米国等から)何らかの条件(前払い)を求められるのか。

交渉参加に向けた関係国との協議において6か国からは我が国のTPP交渉参加について、「条件」を求められるものはなかったが、米国・豪州・NZからは、そもそも日本が受け入れ難いものを含めて、一定の「条件」を求められていると認識している。党としては「前払い」は認められないことを決議し、政府に申し入れを行った。

(2) ハイスタンダードの定義は何か。100%関税撤廃が原則なのか。例外は全く認められないのか。

ハイスタンダードの明確な定義はないが、少なくともすべての物品をテーブルに載せる必要があるのがTPPであり、その交渉において現時点で例外を求めている国はない。党としては、国内に深刻な影響がある分野にかんがみ、例外なき関税撤廃は認められない。また、制度についても、日本に不利な形で調和を求められる可能性があることに十分に留意する必要がある。

(3) 参加国で合意済みのルールについて再協議(リオープン)できるのか。

再協議の可能性について、様々な報道があるのは承知しているが、政府やPT訪米訪加団の情報収集の結果、原則、再協議はできないものと考える。仮に交渉参加を判断する場合、その時点で我が国が受け入れられないルールが合意されていないか、確認することが必要である。なお、仮にFTAAPに向けてTPPが軸となるなら、多くのアジア諸国と巻き込んでいく観点から、TPP自体に再協議に関する柔軟性が必要だと考える。

(4) TPPは米国中心の枠組みであり、他の経済連携に悪影響を与えるのではないか。

昨年のAPECで日本が交渉参加に意欲を見せたことにより、それまで止まっていた他のEPAが動き出すという良い影響があったと考えられるが、仮に交渉参加した場合には、TPPがブロック経済とみなされ、他の経済連携に悪影響を及ぼす懸念はある。また、「アジアの経済成長を取り込む」立場に立つなら、まずはアジアとの経済連携を最優先とすべきとの考え方もある。TPPが他の経済連携に与える影響については両側面があることから、重要なのは、政府が経済連携全体の戦略をきちんと定めた上で、TPPを含む個別の経済連携への参加の是非を検討することである。

(5) 交渉内容は非公表であり、十分な事前の情報収集はできないのではないか。

交渉に正式に参加していない現段階ですべての情報を収集し、あるいは公表することは困難。しかし、そのことのみを理由に交渉参加の是非を判断することは適当ではない。

(6) 仮にTPPに参加し、環境基準、食品安全、労働法規等の分野において、米国に有利な基準を無原則に認めることになれば、今後のマルチのルールメイキングで手足を縛られる可能性があるのではないか。

(個別論点参照)

2.個別論点 その1(農林水産業関係、食品安全等)

(1) 農林水産業への悪影響が甚大ではないか。特に、内外価格差が大きいコメ、特定地域の主要産業である砂糖等、実現可能な対策が困難な品目があるのではないか。また、食料自給率が大幅に低下し、食料安全保障上問題が生じるのではないか?

仮に日本がTPPに参加してコメ、砂糖等のセンシティブ品目の関税が撤廃された場合は、農林水産業への悪影響や食料自給率の低下による食料安全保障上の問題が生じることが懸念される。政府は、国民のこうした懸念を払拭するために、TPPに参加した場合の現実的な影響を精緻に分析するとともに、日本の農業を守り抜くためにどのような対応を行うか、どのような財政支援策が必要か、その財源を確保できるのか、党としてもその現実的可能性を含めて検討し、国民に方向性を示していくべきである。これらは、TPP交渉参加の是非を判断する前提になると考える。 (2) センシティブ品目の除外は認められるのか。

総論(2)の回答に同じ。

(3) 戸別所得補償制度、漁業所得補償制度、漁業補助金等が否定されるのではないか。

少なくとも漁業補助金については、すでに交渉において議論されていると承知しており、交渉の結果次第では懸念が払拭しきれない。戸別所得補償制度、漁業所得補償制度については、これまでにどのような議論が行われているかは明らかではないが、いずれの制度についても堅持する必要があると考える。

(4) GMO表示、農薬の安全基準等について緩和を求められるなど、食の安全が損なわれるのではないか。

政府の情報収集によれば、現時点で個別の食品安全基準の緩和等は議論されていないとされる。また、GMO表示等については、オーストラリアやNZも日本と同じ立場との情報もあるが、今後の議論によっては懸念は払拭しきれない。党としては、食の安全を損なう内容を含む協定は認められない。

3.個別論点 その2(TBT、政府調達、知財、医療等)

(1) 自動車の安全基準・環境基準の緩和、自動車税制の変更を求められるのではないか。

現に米国から求められていると認識しており、それゆえに党として決議し、政府に申し入れを行った。

(2) 公共事業等において外国企業が参入し、地元企業の受注機会が減少するのではないか。

一般論として入札基準額引き下げにより、地方自治体も含め、公共の建設事業や建設コンサル事業の入札に外国企業が参入する可能性は高まる。これまでの外国企業による参入実績は少ないが、引き下げによる影響を慎重に見極める必要がある。

(3) 知的財産権に関して、保護期間変更によって、医薬品業界、とりわけジェネリック薬品等への打撃が大きいのではないか。

知的財産権に関しては、パテントの有効期間、非親告罪化など制度の根幹に触れる問題、日本企業の応用技術開発制限、独創技術の開示強制、インターネットの自由な発展を阻害する当局の介入などの問題に関しても十分な議論と制度的対応が考慮されていない。さらにまたグローバル経済における日本の成長戦略や独自の産業政策が阻害される危険がある。

(4) 米国の医薬品業界が薬価決定プロセスに参加し、薬価の高騰を招くのではないか。

懸念を否定することはできないが、現時点で求められてはいない。薬価決定のプロセスについては、すでに米国から二国間で要求が出されており、TPP交渉において、同様の要求は出さないと米国業界から聴取している。仮に交渉事項として出された場合でも、薬価の高騰を招かないような対応が必要である。

(5) 混合診療の解禁等、国民皆保険制度が影響を受けるのではないか。

米国は「混合診療は求めない」と公式に表明している(参照:在日米国大使館HP)が、米韓FTAでの韓国の状況を踏まえれば、懸念は払しょくしきれない。現在のTPP交渉参加国の中には、カナダ、豪州のように公的医療制度(税方式の国民医療制度)を持ちながら、いわゆる「混合診療」(以下、「混合診療」)が解禁されている国があることから、今後、他国から混合診療を求められる可能性は否定できない。それゆえ「混合診療」がTPPで求められる場合があっても、党としては、我が国の公的医療保険による国民皆保険制度が実質的にも、結果的にも損なわれる内容を含む協定は認められない。

(6) 郵便、水道などの公的セクターに海外の営利企業が参入し、公共性が保てなくなるのではないか。

日本政府自体が郵便事業、水道事業などの民間参入、民間委託を推進していることを踏まえれば、海外の営利企業が参入する可能性は十分にある。ただし、「海外」の営利企業が参入することがすなわち「公共性が保てなくなる」ことにつながるものでは無いと考えられる。また、今国会で成立した改正郵政民営化法に基づき、郵政3事業のユニバーサル・サービスを担保することは当然の前提である。ただし、このように公共性を保つための枠組み自体がTPPにおいて、民間参入の障壁と見なされるのではないかという懸念もあり、党としては、公的セクターの公共性を担保させる我が国の法制度が崩されることがあってはいけないと考える。

(7) 医師、薬剤師、税理士等の免許・資格の相互承認が求められるのではないか。

政府の情報収集によれば、現時点では、免許・資格の相互承認は議論されていないとされる。日インドネシアEPA、日フィリピンEPAにおいて相手国の看護師・介護士の資格を保有する者が日本の資格を取得するために入国、一時滞在を認めてきた経験を踏まえつつ、免許・資格の相互承認についてはより慎重な検討が必要である。

4.個別論点 その3(商用関係者の移動、金融サービス、ISDS等)

(1) 外国人労働者の流入により、日本人の雇用機会や賃金が減少するのではないか。

政府の情報収集によれば、商用関係者については、各国がそれぞれ約束を適用する範囲の検討等を議論していると承知。なお、現時点で単純労働者の移動は交渉において議論されていないとのことであり、また、米国は「単純労働者の受入れを求めるものではない」と公式に表明している(参照:在日米国大使館HP)が、影響につき、懸念は払拭しきれない。

(2) 労働法規について統一基準・仕組みを設けると、労働紛争解決について問題が生じるのではないか。

政府の情報収集によれば、労働分野については、貿易・投資の促進を目的とした労働基準の緩和の禁止、国際的に認められた労働者の権利保護等が議論されている模様。現時点で労働法規の統一基準等を設ける議論はされていないとのことであるが、我が国の法制で認められている労働者の権利等を損なうことは認められない。

(3) 日本郵政におけるユニバーサル・サービスが担保できなくなるのではないか。簡保の新商品販売が認められなくなるのではないか。

今国会で成立した改正郵政民営化法に基づき、郵政3事業のユニバーサル・サービスを担保することは当然の前提である。また、保険は米国の関心事項の一つであると承知している。また、日本郵政は、ゆうちょ銀行の住宅ローンや郵便事業での引っ越しなど「総合生活支援企業」の充実を目指したいと表明している。なお、保険は、米国の関心事項であるが、党としては本件も含め、「前払い」は認められないことを決議し、政府に申し入れを行った。

(4) 共済の税制・規制上の優遇措置がなくなるのではないか。

これまでに共済といった個別分野の扱いについては明らかになっていない。他方で、TPP交渉における保険サービスについては、民間との対等な競争条件の確保を念頭に議論が行われているとの情報がある。共済については、これまで議論はないとの情報もあるが、懸念は払拭しきれない。

(5) ISDS条項により我が国の主権を害されるのではないか。また、遺伝子組み換え作物の栽培規制条例などが障壁とみなされ、ISDS条項で訴えられる可能性があり、地方自治が侵害される恐れがあるのではないか。

ISDSには、海外に進出している我が国企業の活動を守るというメリットがある一方で、我が国に進出している外国企業がこれを乱用する懸念もある。また、他国同士の経済連携協定の事例では、乱用が疑われるものがある。これまで我が国が結んできたEPAなどで、具体的な提訴の事例は見られないものの、我が国の主権や地方自治の侵害につながるような協定は認められない。なお、米韓FTAにおける経緯やNAFTAを踏まえたカナダの立場も参考にすべきである。

(6) 日本郵政の事業を民間とイコールフッティングにしなければならないことについてもデメリットになるのではないか。

改正郵政民営化法では、対等な競争条件を確保するための措置を講じている。我が国としては、WTO協定を始めとする国際約束との整合性をこれまでも確保しており、民間とのイコールフッティングを引き続き担保し続けなければならない。

(以上)

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