前代未聞の愚行だ。女子ゴルフの国内メジャー「JLPGAツアー選手権 リコーカップ」最終日(29日・宮崎・宮崎CC)、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)が中継局の日本テレビに対して厳重注意を入れていたことが判明した。
(JFsPic/gettyimages)
大会2日目(27日)に中継スタッフのカメラマンが自身の発案で14番ホールをプレー中の渋野日向子に対してお菓子を手渡し、その様子を撮影していたことが発覚。この事実が3日目(翌28日)のラウンド前に大会の運営担当者側に伝わり、事態を把握した日本テレビの担当プロデューサーも2度としないようにカメラマンが所属する技術プロダクションへ現場レベルで注意喚起を行っていた。ところが、3日目のラウンド中にも同じ14番ホールで手渡し行為が繰り返し行われていたというから驚きである。
どうやら、くだんのカメラマンは渋野がお菓子をモグモグと食べる姿を独占映像として何としてでもカメラに収めようと注意を無視し、禁断の暴走行為に及んだようだ。日本テレビの中継責任者は事実確認後に非を認め、JLPGAならびに渋野本人に対して謝罪。しかし、さすがにこれは単に「はい、ごめんなさい」であっさりと片づけられるような問題ではないだろう。
プレー中の選手との接触について特に規定は設けられていないとはいえ、さまざまな疑念を生みかねない行為はプロスポーツである以上、到底許されるべきことではない。そのような至極当然の事項は、あらためて明文化されていなくてもメディアに携わる立場であるならば百も承知のはずだ。しかも、それを本来なら中立の立場であるべきメディアが率先して〝扇動〟していた。開いた口が塞がらないとは、まさにこのことである。
世界全体がコロナ対策で神経を尖らせている中、ソーシャルディスタンスも平然と無視。万が一かもしれないが、このお菓子の手渡しが原因となって感染拡大につながるようなことになる危険性もまったくのゼロとは言い切れない。そんな最悪の事態を招いてしまうとしたら、日本テレビ側は一体どう責任を取るつもりなのだろうか。
一部スポーツ紙の報道によると、大会3位に終わった渋野はホールアウト後にクラブハウス付近で泣いていたという。現場の中からは「お菓子騒動で不本意なゴタゴタに巻き込まれ、精神的に不安定な状況へ追い込まれたとの情報もある。メンタルが命のプロゴルファーだけに『日本の至宝』とも呼ばれるべき渋野にとって、この無益な騒動が後々も尾を引きずるような致命傷となりかねない。そういう意味でも、このカメラマンと日本テレビ側が犯した罪は重いだろう」と指摘する声も出ており、あながちオーバーな話ではないように思える。
しかも、このカメラマンは先週開催された「大王製紙エリエールレディスオープン」でも同じく渋野にお菓子を手渡していたことまで分かっている。「二度あることは三度ある」を地で行くような愚行を起こしていたのだ。いくらプロパー社員ではないにしても日本テレビの管理責任は逃れられず、JLPGA関係者が激怒しながら指摘するように「かなりの重罪」と言わざるを得ない。
そもそもこの最終日、日本テレビの中継は初日から首位を譲らず72をマークし、10アンダーで完全Vのツアー3勝目を飾った原英利花をどう見てもメインに扱っていなかった。やはり中継の構成は渋野の組が中心となっているようにしか見えず、ネット上のユーザーの意見でも同様の声が多数散見された。おそらく番組スポンサーや広告代理店への〝忖度〟も絡んでいるからなのだろう。
スポーツのバラエティ化?
以下は念のため「個人的な見解」として前置きしておくが――。どのような角度から検証しても、やはり昨年「AIG全英女子オープン」を制するなど日本テレビ側が〝シブコ旋風〟を巻き起こしている人気者・渋野に焦点を当てようと肩入れしていたのはミエミエであり、自分の目には非常に偏った番組構成としか映らなかった。そうした基本姿勢こそが、このお菓子騒動を引き起こしてしまった元凶と考える。他のメディアやJLPGA関係者の間からは異口同音に「最近の日テレは女子ゴルフを含めスポーツ中継をバラエティ番組とどこか履き違えているのではないか」と苦言を呈されていたのも致し方ない。
思えば日本テレビは最近、プロ野球中継でも不可解な番組進行が目立って批判の対象となっている。21日、巨人対福岡ソフトバンクホークスの日本シリーズ第1戦(京セラドーム)を同局が生中継。2点を追う4回無死一、二塁の絶好機で巨人・丸佳浩外野手が6―4―3の併殺打に倒れ、その際に一塁送球を受けるソフトバンク・中村晃内野手の左足を自身の左足で蹴飛ばした。映像では一部始終の様子がハッキリと映し出され、ネット上でも「丸キック」として物議を醸し出すことになったが、ナゼか中継中の同局アナウンサーは完全スルー。各方面から「どう考えても〝系列球団〟の巨人をかばうための偏向だ」と非難が集中した。
22日の同シリーズ第2戦(京セラドーム)では同局中継に今季限りで引退した阪神・藤川球児氏がゲスト出演。試合中、巨人・中島宏之内野手が打席に立った際、同局アナウンサーから10日の引退試合(甲子園)で対戦したことを再三尋ねられた藤川氏が「今は僕のことはいいので、こっちに集中したい」と釘を刺したシーンもネット上で話題になった。
同局の試合中継でも解説者として名を連ねた経験のあるプロ野球OBの1人もつい先日、こう嘆いていた。
「まったく空気を読めないアナウンサーがせっかくの緊迫した場面をぶち壊しかけていたが、藤川君の一言によって救われました。ただ、これは氷山の一角に過ぎないでしょう。高額な放映権料を支払って数多くのスポーツの試合を放送する権利を得ているにもかかわらず、これだけの失態を繰り返してしまっているのはメディアの権威失墜にもつながってしまう。番組ソフトを提供する側の日本スポーツ界にとっても由々しき事態です。放置しておけば、プロ野球界を含めスポーツ界そのものが軽く見られるようになってしまいかねません」
振り返れば、このような〝前科〟もあった。2011年12月18日に横浜国際総合競技場で行われた「FIFAクラブワールドカップ」の決勝戦でFWリオネル・メッシ(アルゼンチン)を擁するFCバルセロナ(スペイン)がサントスFC(ブラジル)を下して優勝。この大会を独占放送した日本テレビは決勝戦終了直後、チームメートと狂喜乱舞するメッシを半ば強引に会場内の特設スタジオに連れ込み、コメンテーターの明石家さんまに「老後はどうしはるんですか」と尋ねさせる〝世界的暴挙〟を演出して猛バッシングを浴び、大ひんしゅくを買っていた。果たして、この反省は9年経った今も生かされていないのだろうか。
スポーツは真剣勝負の世界。軽視されるようなことがあってはならないし、それをメディアが助長する流れを作ってしまうなど言語道断だ。同じ報道する側に携わる1人として肝に銘じたいと思う。