- 2020年11月29日 15:40 (配信日時 11月29日 11:25)
秋吉 健のArcaic Singularity:メールの呪縛を解き放て!総務省が提言するキャリアメール持ち運び案の意義と現状の問題について考える【コラム】
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キャリアメールについて考えてみた!
筆者がキャリアメールを「捨てた」のはいつ頃だったでしょうか。Gmailアカウントを取得したのは2007年8月でした。iPhone 3Gを購入した2008年にはまだソフトバンクのキャリアメールを利用していました。他にもNTTドコモやKDDI、ウィルコム、さらには当時契約していたプロバイダー(ISP)のメールも使っており、大量にメールアドレスを管理していました。
しかし、現在はGmailのみです。厳密には他にもいくつかメールアドレスを持っていますが、オンラインサービスのアカウント取得専用で他人に教える目的では使用していません。またいずれも通信キャリアやプロバイダーに縛られないフリーメールサービスです。
10月に総務省がモバイルサービスの乗り換え促進の1つとしてキャリアメールの持ち運び(メール転送)を提言していましたが、いまさら感を感じざるを得ない一方、今やらなければ本当に手遅れになるという強い危機感もあります。
キャリアメール持ち運びは本当に必要なのでしょうか。そしてキャリアメール持ち運びを実現しなければならない理由とは一体何でしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はキャリアメール持ち運びの意義を紐解きつつ、現在のモバイル業界が抱える問題について考察します。
キャリアメールが持つ役割とは
■キャリアメールという「拘束具」
はじめに、キャリアメール持ち運び案について簡単におさらいしておきます。
総務省からの提言が行われたのは10月21日、それがアクション・プランとしてまとめられたのが10月27日です。アクション・プランとは、総務省が主に移動体通信事業者(MNO)向けに作成した公正な競争環境整備のための指針です。
そのアクション・プランの「第3の柱」として「事業者間の乗換えの円滑化」が挙げられており、乗り換えを手軽にする施策として「キャリアメールの持ち運び実現の検討」があります。
アクション・プランでは、キャリアメール以外にもさまざまな問題に対する方針が示されている
アクション・プランへキャリアメール持ち運び案が採用された理由には、ユーザーのキャリアメール利用率の高さとその利用シーンがあります。
MMD研究所およびスマートアンサーが共同で調査を行い、2020年2月に公開した「2019年版:スマートフォン利用者実態調査」によると、1日にキャリアメールを送信する回数が0回、つまり利用していないというユーザーは59%と非常に多いことが分かりますが、逆に言えば4割以上の人が未だにキャリアメールを利用しているということになります。
筆者が想像していた以上にキャリアメール利用者は多い印象だ
キャリアメールは通信会社にとって重要な本人確認手段の1つです。基本的にその通信キャリアの通信端末を持っていることが条件であり、他の端末では利用できない仕組みであることが多いため、「端末を所持している=本人である」という前提でさまざまなシステムとセキュリティが組まれました。
つまり、キャリアメールは各通信キャリアが必死になって行っている「ユーザーの囲い込み」に最適なシステムだったのです。そのため、通信キャリアはキャリアメールを起点にさまざまなキャンペーンやお得情報をユーザーへ提供し、オンラインサービスなどへの登録にもキャリアメールを紐付けして手続きを簡便化するとともに、ユーザーを自社の経済圏(エコシステム)に閉じ込めたのです。
総務省は、これを是正したいと考えました。囲い込まれたユーザーは、他社へ乗り換えようとしてもさまざまなサービスのメールアドレス登録を変更しなくてはならず、モバイルサービスやオンラインサービスを使うほどに乗り換えしづらくなっていきます。
そこで、MNPで電話番号を持ち出せるように、メールアドレスも持ち出せるようにして、通信キャリアを変更しても各種オンラインサービスに登録しているメールアドレスを変更しなくても済むようにしようというのが、今回のキャリアメール持ち運び案の背景です。
そもそもメールアドレスとは、私事でも仕事でも自分と外界とをつなげる重要な連絡手段の1つであり、そう簡単に変更するわけにもいきません。このメールアドレスを持ち運べるようにする(もしくは通信事業と切り離す)というのは、もっと早く議論すべきことだったのです。
最近ではSNS認証を利用するオンラインサービスなども増えてきたが、メールアドレスを利用するサービスはまだまだ多い