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特集:バイデン新政権下の米中関係

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トランプ大統領がなかなか敗北を認めない一方で、バイデン次期大統領は着々と政権の準備を始めています。今週はアントニー・ブリンケン国務長官など、外交・安保スタッフが公表されました。いかにも手堅い実務型の陣容で、トランプ政権の「米国第一主義」から国際協調主義へ回帰するぞ、という強い意志が感じられます。とはいうものの、素直に信じてよいものかどうかは、若干の疑念が残るところです。

さらに今月は「東アジアサミット」「APEC首脳会議」「G20首脳会議」などの国際会議が行われました。トランプ大統領が「心ここにあらず」の間に、中国がどんどん得点を稼いでいる印象があります。バイデン次期政権下の米中関係はどうなるのか、そして日本など同盟国はどう対処すべきかについて考えてみました。

●”America is back”とはいうものの...

11月23日、外交・安保スタッフを発表した席上で、バイデン次期大統領は”America is back, and readyto lead the world.”と宣言した。米国は自国最優先主義から国際協調路線に戻る、再び世界を率いる用意があるぞ、というのである。それはまことに結構なことながら、「これで世界も安泰だ」と考えるのも気が早いようである。「アメリカ・イズ・バック」という物言いは、懐かしい響きがある。そう、2013年2月、政権に復帰したばかりの安倍晋三首相はワシントンを訪れ、バラク・オバマ大統領と会談してTPP交渉への参加で合意した。そのすぐ後でCSISに立ち寄って講演し、そこで「ジャパン・イズ・バック」と述べた1「民主党政権下で漂流していた日本外交が、まともに戻ってくれる」と、ワシントンの外交政策コミュニティで大いに歓迎されたものである。

トランプ政権下で暴走気味だった米国外交が、かつてのように世界のリーダーとして振舞ってくれるのであれば、それはもちろん喜ばしいことである。今週のThe Economist誌はカバーストーリーで、「米国に必要な対中戦略」(The China strategy America needs)と題し、バイデン政権に対する期待を表明している(本号のP7~8参照)。米国は中国に対して正しく向き合え、西側同盟国はそれに協力すべきだ、とのこと。もちろんそういう取引ができればまことに結構だが、いささか「贔屓の引き倒し」的な感じもする。

なんとなれば、2013年の安倍首相と現在のバイデン次期大統領では、政治状況がまったく違うのである。安倍訪米は、2012年12月の総選挙で民主党が大敗して下野した後であった。民主党はその後分裂し、8年たっても再起できないくらいに党勢が衰えた。ゆえに自民党政権は盤石であったし、安倍外交の基盤は強固なものであった。

それではバイデン氏はどうかと言えば、今回の大統領選挙では空前の1億5000万票以上が投じられ、両者の差は600万票(4%!)程度だった2。つまりトランプ氏が大善戦した。なにしろ前回の2016年選挙から、1000万票も上積みしているのである。

〇RCP Live Result(下院は残り3議席が未確定)

その結果、議会選挙では共和党が僅差で上院の多数を持続し、下院はなんと10議席も増やす見込みである。民主党は下院での多数を維持するけれども、その差は10議席程度に接近する。ナンシー・ペローシ下院議長の議事運営は、細心の注意を必要とすることになろう。象徴的だったのは、The Cook Political Reportは選挙戦に臨んだ23人の共和党議員のうち、実に7人をToss up(形勢不明)と判定した。普通に考えれば、3~4議席は減る計算になる。ところが蓋を開けてみれば、7人中2人はジョージア州選出議員で年明けの決選投票に回り、残りの5人は全員当選であった。これだけの番狂わせがあったからこそ、事前に予想されていた「トリプルブルー」は実現しなかったのである。

危ういところを救われた共和党議員たちは、「トランプさんありがとう!」と思っているはずだ。おそらく2年後の中間選挙には、「応援よろしくお願いします」ということになるだろう。かくしてトランプ氏の影響力はこれからも残る。われわれは今後、「アフター・トランプ」ではなく、「ウィズ・トランプ」時代を迎えるということだ。

つまり、バイデン氏がいくら「アメリカ・イズ・バック」と力んだところで、4年後には「トランプ・イズ・バック」となるかもしれない。これでは「同盟国の皆さん、安心してください」と言われても困ってしまう。トランプ時代の4年間を、いまさら「なかったこと」にはできないのである。

●RCEPとTPPの狭間で...

米国外交の再生を願いたい局面ではあるのだが、足下の情勢はさらに覚束ない。今月は以下のように大型の首脳会議が相次いだ。いずれもTV会議なので報道は少なく、各国首脳の動きもあまり目立たない。その中から米中に関する動きを報道から拾ってみると、以下のようにくっきりと明暗が分かれている。

*東アジアサミット(11/14、議長国ベトナム)→日中韓+ASEAN+豪NZによる世界最大の自由貿易圏RCEPが妥結。トランプ大統領は欠席。 *APEC首脳会議(11/20、議長国マレーシア)→トランプ大統領は出席するも存在感なし。中国はAPEC・CEOサミットを主催。習近平国家主席はTPP参加に意欲を見せる。 *G20首脳会議(11/21-22、議長国サウジアラビア)→トランプ大統領は出席するも中座してゴルフへ。習近平主席はコロナ対策として、中国独自の健康管理システム「ヘルスコード」を国際的に普及させることを提唱。

要するにトランプ大統領は「心ここにあらず」で、TV会議に出たり、欠席したりしているのだが、この間に中国は着実にポイントを稼いでいる。米国が多国間会議に消極的である間に、むしろ中国が「グローバルパワー」を演じている。

さらに言えば、今年の米国はG7サミットの議長国であった。G20やAPECは基本的に「各国首脳の演説大会」なので、TV会議でも十分に事足りる。しかしG7は価値観を同じくする国同士の会話であり、丁々発止のやりとりも行われる。これだけはリアルに集まる値打ちがあるのだが、あいにく今年は開かれないままに終わりそうである。

なにより太平洋を挟んで、「質」重視のTPPと「量」が自慢のRCEPという2つのFTAが誕生したのに、米国はどちらにも属していない。せめてこのことがWakeUp Callになってくれればいいのであるが、バイデン次期政権も産業・通商政策に関してはトランプ政権とさほど違いはない。基本は「バイ・アメリカン」なのである。TPPへの復帰にしても、実現可能性は低いと言われている。

まじめな話、バイデン政権が発足して「対中制裁関税の廃止」などの動きに出た場合、中西部のブルーカラー労働者層はどのように受け止めるか。今回、五大湖沿岸州は民主党が確保したとはいえ、その差はきわどいものであった。

逆に中国がこれらの会議で発言した内容は、かなりの部分がリップサービスに近いものである。TPP参加に意欲と言うけれども、「国有企業への例外的扱い禁止」などのTPPルールは、到底中国が呑める項目ではないはず。そもそも中国にプレッシャーをかけることを目的に、ベトナムを対象に意図的に作ったルールなのだから。

ちなみにTPPには英国も参加を希望している。どうせなら中国と参加を競ってもらってはどうだろう。さぞかし好対照ということになるはずである。

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