記事

「弁護人取り調べ立ち会いは可能」法務省新見解

1/2

ビデオメッセージを送った森まさこ前法務大臣 出典:勉強会のオンラインミーティング画面からキャプチャ

Japan In-depth編集部(石田桃子、坪井恵莉)

【まとめ】

・国際人権NGO、取調べへの弁護人立ち会いに関する勉強会開催。

法務省、これまで認められていなかった弁護人立ち会いは「可能」とする見解を発表。

・専門家は試験的に弁護人立会いを導入を目指している。

法務省は今年7月に法務・検察行政刷新会議(以下、刷新会議)を立ち上げ、司法制度改革に向けた議論を進めている。刷新会議での主な検討事項に「刑事手続きについて国際的な理解が得られるようにする方策」がある。

これは「ルノー・日産・三菱アライアンス」の元社長兼最高経営責任者、カルロス・ゴーン被告が2019年年末にレバノンへ逃亡し、世界各国のメディアを前に日本の司法制度を批判したことを受けての対応だ。

ゴーン被告の国際社会へのアピールも手伝い、長期間の勾留、取調べへの弁護人の立ち会いを認めない日本の刑事裁判手続きが、国際的に批判された

被疑者の取調べへの弁護人立ち会いは現在認められていないが、10月15日に開催された第6回法務・検察刷新会議にて、法務省は取り調べへの「弁護人立ち会いは可能、個々の検察官の裁量に任されている」という見解を明らかにした 。

今まで認められていなかったはずの立ち会いが「可能」だという見解が示されたことで、専門家や実務現場の弁護士たちからは驚きと戸惑いの声が上がった。

大きな転換点を迎えたことを受けて、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ「『取調べへの弁護人立ち会い』を求める法律家の会」は11月25日に第2回オンライン勉強会を開催した。取調べへの弁護人立ち会いを巡る現状、また弁護人の立ち会い実現のために必要なステップについて提言を行った。

(第1回はこちら

■ 森まさこ前法務相からのビデオメッセージ

冒頭、前法務大臣で刷新会議を立ち上げた森まさこ氏からのビデオメッセージが放映され、刷新会議設立の理由や期待について語った。

刷新会議を設置した理由について森氏は「きっかけはカルロス・ゴーン氏の国外逃亡」だとして、海外メディアから「日本の司法制度が諸外国に比べて劣っているのではないか」と指摘されたことを明かした。

森氏は「日本だけでなく、どの国の制度にも常に不十分なものはあり、国民の要望や社会情勢の変化に合わせて見直すことが重要」として、来年開催予定の第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)「日本がしっかりとこの問題に向き合っていることを(国際社会に)堂々と発表できるようにしたい」と述べた。

森氏は、無実にも関わらず長期間拘留された元労働官僚村木厚子氏の事件後、2010年に設立された「検察の在り方検討会」でも弁護人立ち会いは議題に上がりながら、今日まで本格的な議論が行われなかったことに懸念を示した。

森氏は、「議論自体もできていないことが、民主主義の我が国において正常な状態なのか」と危機感を示し、「(刷新会議)が法曹だけでなく一般市民からも幅広い意見を出せる場であってほしい」と期待を述べた。

■ 基調講演「『刷新会議』の議論の現状、日本の現状、諸外国の現状、今後への提言」

刷新会議委員の法学者後藤昭氏、弁護士の川崎拓也氏が基調講演を行った。

まず後藤昭氏が、刷新会議の現状と今後の課題について述べた。

「取り調べへの弁護人立合い」制度の不整備は、被疑者の権利保護・取り調べの真実解明機能の観点から批判されている。この批判に対する法務省の回答は、理解を得るどころか疑念を増幅させている。

「そこ(編集部注:法制審議会)での議論では、弁護人が立ち会うことを認めた場合、被疑者から十分な供述が得られなくなることで、事案の真相が解明されなくなるなど、取調べの機能を大幅に減退させるおそれが大きく、そのような事態は被害者や事案の真相解明を望む国民の理解を得られないなどの意見が示されたため、弁護人の立会いを導入しないこととされた経緯があります」。

(出典:法務省「我が国の刑事司法について、国内外からの様々なご指摘やご疑問にお答えします。」

現状の変革なしに「国際的な理解を得る」ことは不可能だ。「取り調べへの弁護人立ち会い」は憲法や国際人権法に照らして正当な権利であり、それが享受されていないことは事実であるからだ、と後藤氏は説明した。

「刷新会議の議論は難航している」という。刑事手続きの変更について議論すること自体への反対をようやく乗り越えたが、村木厚子氏など「人質司法」経験者へのヒアリングの提案は採用されなかった。最も実現可能性の高い決着点は「別の会議体での議論を提案すること」だという。例えば、2016年に成立した改正刑事訴訟法の検討時期に併せて議論を行うことが考えられる。

(注:法務省「刑事訴訟法等の一部を改正する法律附則9条」

しかしこれでは、議論の先送りを繰り返すことになるかもしれない。後藤氏は、生産的な議論をするためには「試しにやってみることが大事」と語る。「取り調べへの弁護人の立ち合いは、現在の法制度でも可能だということがはっきりした。経験に基づいた具体的な議論ができるよう、試行を実現すべきだ」。

試行の実現を目指す案は、既にいくつか検討されている。「検事総長から検察官へ、弁護人立ち会いに関する実施基準を通知する」、「弁護士会、法務省または検察庁による、試行に向けた話し合いの場を設ける」というものだ。今後、合意を目指して議論を進めていく。

▲写真 後藤昭氏 出典:勉強会のオンラインミーティング画面からキャプチャ

次に、川崎拓也氏が、実務の面から現状と今後について話した。

川崎氏は、刷新会議で法務省が示した、取り調べへの弁護人の立ち会いは検察官が「個別の事案ごとに適切に判断すべき」との見解は、「実情とは違う」と述べた。弁護士が検察官に対して立ち会いを求めると、多くの場合「立ち会いを認める規定は刑事訴訟法にない」「全社的な対応として認められない」などと拒否されるという。

弁護人の立ち会いを認めない理由としては、次の3点が説明される。

・取り調べの機能を損なう

・関係者の名誉・プライバシーが害される

・捜査の秘密が害される

川崎氏は、「一言で反論できるようなことばかり」だという。黙秘権が保障されるなど取り調べは弱い力しか持っていないこと、取り調べの録音・録画が実施されていること、被疑者と弁護人との接見が実施されていること、弁護人が守秘義務を負っていることなどを考えると、検察側の主張の根拠のなさが浮き彫りになる。

川崎氏は、取り調べへの弁護人の立ち会いは検察官個別の裁量で実施可能だということが明示されたことに、希望を見出している。立ち会いの申し入れを「全社的に」拒否されても「粘り強く『あなたはどうなのですか』、『個別のこの事件はどうなのですか』と言えるようになる」からだ。

川崎氏は、「現場の検察官との具体的な議論や、経験の蓄積によって、弁護活動をステップアップしていく必要がある。最終的には全件で取り調べへの弁護人の立ち会いが実現することが我々の最終目標だ」と述べた。

▲写真 出典:勉強会のオンラインミーティング画面からキャプチャ

あわせて読みたい

「司法制度」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    菅首相発言が「絶対アカン」理由

    郷原信郎

  2. 2

    米議事堂襲撃 副大統領は間一髪

    WEDGE Infinity

  3. 3

    菅首相は玉木氏提案を受け入れよ

    早川忠孝

  4. 4

    大戸屋TOBは企業「乗っ取り」か

    大関暁夫

  5. 5

    家計が炎上した年収1000万円夫婦

    PRESIDENT Online

  6. 6

    広島県の大規模PCR検査は愚行

    青山まさゆき

  7. 7

    今の改正案では医療崩壊を防げぬ

    玉木雄一郎

  8. 8

    慰安婦判決は異常 迷走する韓国

    コクバ幸之助

  9. 9

    非現金決済は差別? 米社会で変化

    後藤文俊

  10. 10

    時短従わぬ店への過料は「違憲」

    猪野 亨

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。