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核保有国の北朝鮮と日本、INFオプション - リチャード・ローレス (元米国防総省副次官〈アジア太平洋安全保障担当〉)

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この記事は、『Wedge』12月号(2020年11月20日発売)に掲載した「WEDGE SPECIAL OPINION 特別企画:北朝鮮の核問題を考える」における「核保有国の北朝鮮と日本――INFオプション」(リチャード・ローレス元米国防総省副次官)の全文(日本語版)です。

北朝鮮が事実上の核兵器保有国であることはもはや疑いようがない。日本にとって、重大な決断をしなければならない日が間もなくやってくるかもしれない。リチャード・ローレス元米国防総省副次官が描く朝鮮半島の未来、そして危機のシナリオとは――。

 本稿について、谷口智彦氏(慶應義塾大学大学院SDM研究科教授/前内閣官房参与)による解説「米韓同盟は消える 日本は「二重鍵」核戦力持て」はこちら

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朝鮮半島には今後、南北が一体化した「新朝鮮」が誕生する可能性がある。それは、日本にとって悪夢のシナリオになる。選択肢の一つとして、日本へのINF配備を真剣に検討すべき時がきている。

 2020年5月、数週間にわたり動静が不明だった朝鮮民主主義人民共和国の若き指導者が、重要なイニシアチブの発表に合わせて姿を現した。そして金独裁政権の三代目が拍手をする中、朝鮮労働党中央軍事委員会は新たな戦略方針を発表した。

 その内容は北朝鮮が事実上の核保有国を称するようになったからこそ可能になった激しい口調の脅しの言葉が並び、全体的には目新しさを欠いていたものの、金正恩の国家安全保障チームは今後数カ月にわたり「核による抑止力」を強化すると強調し、新たな核兵器・ミサイルの実験・配備の可能性を示唆したのである。

 北東アジアの政治力学は、好戦的な北朝鮮が核兵器を保有したことにより不可逆的に変貌した。北朝鮮は核兵器を半島内、地域内外へ到達させる能力を手に入れたと誇り、日本、韓国の民間人、両国にある米軍基地、またグアムの米軍基地も危険にさらされることになった。さらに最近では、北朝鮮の核の脅威は米国本土にまで及ぶことが分かった。

 今や、北朝鮮政権は米国や国際社会の核不拡散政策が失敗したことを表す究極のシンボルとなっている。朝鮮戦争の結果として戦略的に生まれた北朝鮮は核兵器を完成させることで、1953年の朝鮮戦争休戦協定以降の地域のパワーバランスを覆した。

 中国が経済・軍事大国として台頭してきたことに代表されるように、近年、北東アジアでは不安定さが増しているが、その中でも北朝鮮は特別なケースである。国際社会が北朝鮮の核兵器保有を阻もうとする中、北朝鮮政権はことごとくこれに反抗してきたのである。

 北朝鮮が地域の破壊者として北東アジアの安定を脅かす存在となったのは、本来、状況をよく把握しておくべきだった国々の怠慢によるものである。なかでも中国は北朝鮮が進める核兵器プログラムの最大の支援者である。中国をはじめとする各国は手遅れになるまで北朝鮮の核開発を許し、とりわけ中国は問題が深刻化すると今度は北朝鮮問題を他国、すなわち米国に押し付けようと躍起になった。

 ロシアと中国は、米国と同盟国を悩ませる地域のトラブルメーカーとしての価値を北朝鮮に見出していたが、ある時点から、北朝鮮は反抗的で手の焼ける子供じみたお荷物のような存在へと変化したのである。この要因について、中国とロシアが単に注意を怠っていたからなのか、それとも敢えて見て見ぬふりをして問題を助長したからなのか、ということが、かなり前に争点となった。

 今や、地域における敵役となった北朝鮮を武装解除・無力化するには、近隣諸国と米国ともに相当な巻き添え被害を覚悟しなければならないところまで、北朝鮮の戦略兵器開発は進んでいる。

 世界が直面しているのは、好戦的かつ予測不能な金正恩体制が大規模な破壊を遂行できる能力を手に入れたという現実であり、さらにこの政権は国家の存続リスクはほぼ気にかけずに、自らの野望を実行に移す傾向がある。

 また、北朝鮮政府は挑発行動をとることが多いため、それがエスカレーションサイクルを引き起こす可能性も十分にある。そうなれば歯止めの利かない行動の連鎖によって、北朝鮮は核兵器の使用に踏み切ることになるだろう。

 北朝鮮は、二枚舌外交という点ではイランに次ぐ存在であり、国民国家テロ組織に近いとも言えるかもしれない。北朝鮮は核保有国を目指す他国に対してそれを可能にする機密能力を輸出する意思と能力を持っているという意味で、一流の核拡散主導国でもある。

 シリアへの核研究用原子炉と化学兵器の提供、イランへの弾道ミサイル技術の売却は、北朝鮮が保有するあらゆるものを金さえあれば誰にでも売る傾向があることを示す二つの例に過ぎない。

 核兵器の拡散に関するこれらの問題により、国際社会は北朝鮮が反抗的な核武装国として、ますます制御不能な存在になっていることを認識するようになった。したがって我々は北朝鮮がこのような核の拡散を今後もさらに進めていくことを想定しておく必要がある。

2020年の核保有国・北朝鮮

 今日、北朝鮮が真の核兵器保有国であることは疑いようのない事実である。単純なプルトニウム型の第一世代、あるいは第二世代の核分裂装置にとどまらず、北朝鮮はブースト型核分裂装置を含む兵器開発を進めており、熱核兵器の実現に近づいている可能性があることも明らかになっている。

 まだその最終目標に達していないとしても、主要な核保有国と同等の核戦力を確保するとの決意を公言していることからも、その目標のすぐ手前まで来ていることは間違いないだろう。北朝鮮が大量のプルトニウムと高濃縮ウラン、さらには、より高度な兵器開発に必要な重要物質の生産能力をこれまで以上に高めたことで、北朝鮮の戦略兵器の脅威がもはや既存の核兵器保有国の水準にまで到達したことを世界の安全保障関係者は認めなければならない。

 単発の爆弾を製造していた北朝鮮が、さまざまなタイプの兵器の設計から実験、配備を含む一連の開発が可能な国へと成長したことは、北朝鮮の核の脅威が今後も長く続くことを示唆している。

貧困国である北朝鮮による弾道ミサイル発射システムの開発は、それ自体が信じがたいほど野心的であったが、これにより北朝鮮政権は韓国のみならず、歴史的に敵対視し続け、核攻撃の対象に値するとさえみなしている日本をも標的にする能力を手にした。

 北朝鮮が在日米軍基地のみならずグアム・ハワイの米軍基地をも弾道ミサイルにより核攻撃できる能力を保持したことにより、米国は西太平洋における政治・軍事戦略の全面的見直しを迫られている。

 この地域での米軍の前方展開は、対立の深まる中国に関連する有事への備えとしての計画策定およびその遂行のために不可欠であるが、北朝鮮によりこれらの米軍基地が危険にさらされることで深いジレンマが生じた。米国の軍事計画は複雑化し、中国問題に適切に対処する能力が低下したのである。

 さらに今や北朝鮮は限定的とは言え、他の大陸を射程圏内に収め、米国西海岸をも脅かすこととなる弾道ミサイルの製造・発射能力を誇示するまでに至っている。北朝鮮の意図は明らかである。北朝鮮は米国を核攻撃の危険にさらそうと、そのために必要な軍事力の拡充を急いでいるのである。

 朝鮮半島全土への影響力拡大を狙う北朝鮮は、韓国政府に圧力をかける手段として、縮小してしまった通常戦力を補うべく戦略兵器への依存度を高めてきた。そしてついに北朝鮮は韓国の従属を目的とした「核兵器開発優先」路線への転換を成功させたのである。

 北朝鮮はあらゆる手段を行使してでも朝鮮半島を統一することを憲法上義務づけられていると、指導部が拡大解釈している好戦的な国家であり、この戦略兵器を手に威嚇と宥和を織り交ぜ、朝鮮半島のバランスを崩壊させている。

 北朝鮮の最終的な目的は韓国の国家基盤と統治機構を蝕み、韓国を従属させることであり、これに対して韓国は戦略兵器能力という威嚇手段の前にひれ伏し、北朝鮮に和解を求めているというのが現状である。

 核武装した北朝鮮は、妥協と武力による脅しを織り交ぜることで韓国に対して優位な立場を確立している。核兵器を保有しその使用をちらつかせることで北朝鮮は事実上の「兄(長男)」――朝鮮の伝統的家族観における家族の中心――となり、弟である韓国は従属的な立場を強いられている。

 1950年の朝鮮戦争で韓国を総攻撃した時代から北朝鮮が追ってきた最終的な目的は今日、北朝鮮の新たな野望により塗り替えられた。朝鮮戦争における北朝鮮の目的は南北統一であり、それは彼らにとって、血なまぐさい方法で南を荒廃させ、その人民を根絶やしにすることになったとしても達成すべき目的であった。

 しかし、核のハンマーを手にしたことで、北朝鮮による半島の支配と最終的な征服までの道筋はより明確なものになった。経済破綻し非力な国家である北朝鮮には、征服地に提供できるものが何もないため、韓国が保有する富の支配権確保の機会を窺うことになったのである。核兵器はこの征服のために必要な手段の一つとしての役割を担っている。

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 北朝鮮が韓国に対して核の先制攻撃をしかける理由は見当たらないものの、その能力は北朝鮮のより挑発的な行動を可能にしている。それは現に単発で限定的な通常兵器による攻撃、あるいは通常兵器による攻撃とは異なる手法での予告なき軍事的行動という形で起こっている。

韓国が北朝鮮の核戦力に対抗できる能力を自前で保有していないという事実が、北朝鮮をより攻撃的に、韓国をより従順にさせているのである。

 北朝鮮の武力挑発を受けた韓国が撤退か黙認以外の形で応じた場合、北朝鮮は核による反撃を行うと脅迫するだろう。北朝鮮は自身の行動に伴う損得の計算に長けており、一見無謀とも見える挑発行動の裏にも独自の合理性があるため、これは単なる仮説のシナリオではない。

 朝鮮戦争時代の境界線や個々の島の帰属問題で争いのある半島西側海域は、北朝鮮にとって軍事的主導権を握るのに適した場所の一つである。紛争の序幕として容易に想像できるのは、北朝鮮によるこれら無人島の占領であり、北朝鮮は韓国政府の面目をつぶすことを目的に、それらの島が本来の所有者へ永久に返還されたと宣言するだろう。

 では北朝鮮による圧力・緊張昂進の次なる展開はいかなるものか。一つの可能性として考えられるのは韓国の民間人が住み軍人が駐在するより大きな島の奪取をちらつかせ、韓国に撤退という形で戦闘の回避を要求することだろう。

 公然と対立するか、撤退するかの選択を迫られた場合、現在の韓国政府はおそらく妥協して立ち去ることを選ぶだろう。まさにこのような状況は直近でも起こっており、将来的にも間違いなく起こるだろう。北朝鮮の目的は、徐々に韓国への支配を強めながら、韓国の政治基盤の支配を計画的に進めることにある。

 核兵器により優位に立つ北朝鮮には多くの選択肢がある一方、韓国には相手を宥めるしか手立てがないため、今後も南の弱さが北の挑発を誘発することになるだろう。そして米国は、自国の立場を守ることさえ躊躇する、弱体化したパートナーとの同盟関係に縛られていることに、遅ればせながら気付いたのである。

中国――無作為によるほう助

 中華人民共和国と中国王朝時代から服従国であった朝鮮との関係が容易なものであったことはいまだかつてない。金日成による韓国侵攻の決定、そしてスターリンがそれを黙認し積極的に支援したこと、さらにはその侵攻に対して米国と国連が予想外の対応をとったことが組み合わさり、毛沢東政権下の中国は朝鮮戦争へと引き込まれた。

 50年後半、米国主導の反撃で北朝鮮が退却し、国連軍が北朝鮮・中国の国境近くまで進撃すると、スターリンは中国に実質的な対応を任せたため、毛沢東は覚悟を決めて、中国人民志願軍によって関与せざるを得なくなったのである。

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 毛沢東が朝鮮戦争に2年半深く関わったことにより、何百万人もの兵士が動員され、その結果、彼の息子を含む何十万人もの命が犠牲となった。この戦争は、中国と北朝鮮を共に試練に耐えた同盟国として結束させることになり、表向きは「唇歯」〔※訳注:唇がなくなると、歯は冷たくなる、から相互に依存した関係〕の同盟関係がその後数十年間続くことになった。しかし、この関係は中国から見れば必要なものでも望むものでもなかったため、やむなく結びつけられた両者は次第にこの関係に悩まされることになる。

 ただし、これは50年時点の中国において曖昧な軍事行動の決定がなされていたということではない。6月に北朝鮮が侵攻を開始した直後、中国は北朝鮮との国境防衛のための準備を始め、戦争に直接参戦するために軍隊を配備した。そして国連軍が鴨緑江に近づく頃には、中国人民志願軍の名の下、複数師団から成る軍隊を派兵する決定をしたのである。

 朝鮮戦争は、結果として中国の指導部にとって政治的・軍事的にも負担の大きい、不要な戦いであった。朝鮮戦争への参戦により、中国は、同年秋に開始予定であった台湾侵攻の準備を見送らざるを得なくなった。

 国民党に対する最終攻撃にあたり、計画、資材、兵器(戦闘機MIG−15の派遣第一弾を含む)の面で、ソビエト連邦から大規模な支援を受けることになっていたが、国連軍が北朝鮮を制圧して鴨緑江沿いの国境に近づくと、毛沢東は台湾戦線を放棄して兵力を再配置せざるを得なくなったのである。

 朝鮮戦争に足を踏み入れた結果、中国は数十年にわたり台湾に攻勢をかける機会を失い、70年余りたった今もなお、彼らにとって台湾問題は未解決の状態にある。

 50年後半に参戦した中国軍は、米軍と国連軍を朝鮮半島の南方へ後退させ、マッカーサー将軍の部隊に敗北に次ぐ敗北を与えた。国連軍は失った地域の多くを何とか取り戻したものの、南北朝鮮の元々の国境線からそれほど遠くない場所にあった当時における戦闘の最前線に沿って休戦が決まった。

 この時点までに、国連は韓国の李承晩の指導の下で朝鮮半島の再統一を決議していたため、中国の介入は北朝鮮を敗北から救うにとどまらず、国家の消滅をも阻止したと言える。そもそも朝鮮人から好意を受けたことがなく、朝鮮そのものを軽蔑して扱うことに慣れていた中国は、それだけにこの恩知らずな北朝鮮の態度に憤りを覚えたのである。

 その非礼に対して中国は、軍が戦闘を続ける中で後に2年間迷走することとなる休戦協定に関する協議のために紛争当事国が一堂に会した交渉の場において、自らも主張できるよう各国と対等な立場を要求し実際にそれを手に入れる形で応じたのである。

 その後、ソ連と中国の助けを借りて国を再建する間、北朝鮮の指導者は両国に対して我慢を続けた。しかし、政治的には両者とある程度の距離をとりつつ、最大限の援助を確保するために、中ソ両国を互いに競わせ利用し続けてきたのである。

 中国は北朝鮮において特権を与えられず、ソ連に至ってはさらにそれを下回る扱いであった。しかし北東アジアにおいても冷戦の影響が深く根ざしていく中で、中国とソ連は戦争で疲弊した北朝鮮を支援せざるを得なくなった。北朝鮮は、厄介なお荷物の依存国という立場で、経済援助と通常戦力の再構築を加速させるために必要な武器入手と引き換えに、同盟関係にある共産主義国へ原材料を供給する役割を担った。

(出所)外務省資料などを基にウェッジ作成 写真を拡大

 筆者が米国代表団の副団長を務めた、2003〜05年における北京での六者会合では、北朝鮮に対する中国の不信に満ちた姿勢がきわめて顕著だった。中国が北朝鮮に建設的な関与を迫ろうとすると、北朝鮮代表団は抵抗し、その結果、中国はさらに不満を増大させていった。

 当初、中国は、たとえ可能性が低くても、何らかの妥協点を見つけるための場を提供するという中立的立場をとり、協議の主催者としての自身の立ち位置の確立に成功していた。しかし、中国は北朝鮮の非常識な行動にさらされ、北朝鮮が妥協するために中国に来たわけではないことを早々に知ることになったのである。

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 中国側は協議の冒頭から、北朝鮮が核保有国になった責任は自らには一切なく、朝鮮半島の現状を作り出した責任はすべて米国、日本、韓国にあるという国家方針を明らかにしていた。

 この姿勢は、決議に何の貢献もせず傍観し続けたという意味で、中国が20年以上にわたって取り続けてきた北朝鮮の戦略兵器開発に対する姿勢と同種のものであり、極めて不幸なことであった。これは北朝鮮に対する中国側の影響力欠如を露わにしたというよりは、むしろその証しとなったと言うべき事柄である。

 これらの結果、中国には北朝鮮に圧力をかける能力が全くないこと、また、たとえコンセンサス・アプローチによりそれが可能になったとしてもその気がないことを米国、日本、韓国の代表団は認識するに至った。

 その後も、中国は、北朝鮮の核実験、挑発的なミサイル発射に対しても、ただただ傍観する傾向を強めていった。米国をはじめとする同志国が、北朝鮮の看過できない問題行動に対して制裁をかけ、抑止するための決議案を国連で次々と発表しても、中国はそれらの実行力を弱めるか、あるいは完全に拒否するかのどちらかであった。この挫折は国連安全保障理事会において度々繰り返され、北朝鮮の挑発行動に対して、同機関が無力であるという厳しい現実を示すものとなった。

 さらに言えば、中国はすぐ目の前で北朝鮮が核兵器を製造しているにもかかわらず、北朝鮮に圧力をかけるような解決策には一切関わろうとしなかった。そして05〜08年にかけて、またそれ以降の国連安全保障理事会の審議において、中国はロシアと、北朝鮮問題に関してはすべて中国が主導するという取り決めに基づいて深い共謀関係にあった(イラン関連のすべての国連安保理活動についてはロシアが主導し、中国はロシアがその顧客であるイランのために行った介入すべてを支持し、ロシアに忠実に従った)。

 この中国とロシアの歪んだ関係は、北朝鮮とイランの双方を数々の国連安保理のイニシアチブから守る役割を果たした。中国は、オバマ政権の8年間、北朝鮮を甘やかし続け、同政権が北朝鮮問題について見て見ぬふりをするための言い訳を探すのに一役買った。

 このオバマ政権による作為的無関心の結果、17年に後任のトランプ政権が誕生した際、ホワイトハウスの前庭に核保有国北朝鮮という煙をあげる、ろくでもない国家が横たわることになった。新大統領自らが取り組むことになる厄介な問題として北朝鮮問題が顕在化したのである。

 中国は20年になっても北朝鮮の戦略兵器の開発問題に積極的に対処することについて相変わらず後ろ向きであり、この計算ずくの煮え切らない態度が今後変わる気配はない。このように、北朝鮮に関するいかなる解決策にも、中国は現在、そして将来においても関与することはないだろう。

 核不拡散を訴える者にとっても疑う者にとっても教訓は明らかだ。北朝鮮のような「ならず者国家」は、戦略兵器の開発と配備に関する国際合意のあらゆる側面に違反し、核拡散防止条約(NPT)を脱退して国際原子力機関(IAEA)による監督を拒否し、他国から向けられた政治的非難(単なる言葉の面)を無視し、経済制裁(行動の面)で苦しみながらも、あらゆる大国が当事者として関与する地域の安全保障力学全体を混乱させるための計画を予定通り進めることができるのだ。

 そのような中で、より良い世界秩序を達成するための話し合いにおいて、うわべだけ「利害関係者」を装うものの、地域と世界のより大きな利益のために北朝鮮に影響力を行使しようという気概を見せない中国の姿勢は、著しく怠惰であると言わざるを得ないだろう。

ますます的外れな韓国

 北朝鮮は韓国にこれまで根付いた民主主義を混乱させ、傷つけるに足るだけの核戦力と韓国に対する強固な対決意志を持っている。このことは朝鮮半島情勢の長期的な展望を考えるうえで重要なことである。北朝鮮はこの対決姿勢により韓国経済の活力を脅かし、韓国に自らの脆弱性を痛感させ、不確実性、混乱、恐怖の現実へと引き込むことができるのである。

 この状況に加え、韓国の革新派政権は「我々の時代に平和を実現する」ことに非常に熱心で、国家と国民を北朝鮮の従属物として犠牲にしようとも南北和平を実現したいと考えている。この問題は、韓国の現政権特有のものという意味で一時的なものであるとはいえ、北朝鮮が自らの戦略に自信を深めることにつながっている。

 韓国の国内情勢は、目的を達成するためには多少の対決リスクを冒すことができるという勘違いを北朝鮮にさせてきたのである。現在の韓国におけるあらゆる兆候は、韓国の政治の動きが流動的で影響を受けやすく、いかに北朝鮮の介入を招くような状況にあるかということをよく示していると言えるだろう。

 現在の朝鮮半島の核問題におけるもう一つの論点は、韓国と米国との関係、すなわち米韓同盟とその安全保障上の責務を支える核抑止の機能にある。現在の韓国は革新派政権であり、民主的に選出された文在寅政権は少なくとも22年まで続くことになる。

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 文政権には、自国の主権を犠牲にしても南北関係を追求しようとする傾向が強い。そしてこの目標を追求する過程で、文政権はこれまで以上に米国との同盟関係に居心地の悪さを感じている。文政権は都合のよい時は同盟国が提供する安全保障を当然のものとして捉える一方、政治的事情によっては同盟を軽視する傾向にある。韓国は南北関係に新たな可能性を見出すと、いつも決まって米韓同盟を犠牲にし、抑止力の効果を損ねる選択をするのである。

 また文政権は韓国の対北宥和政策の失敗の責任を米国に押しつけようとしている。革新派政権の韓国は文在寅大統領らの面子を潰してまで米国と直接対話しようとする北朝鮮に恥をかかされたと感じているのである。一方、北朝鮮はこうすることで韓国の重要性は所詮二の次に過ぎないことを知らしめ、米国と南北朝鮮という三カ国の関係から韓国を排除しようとしている。このような韓国と米国の不幸な状況は文政権の残りの任期中は継続されるだろう。そして全ては北朝鮮政権を利することになるのである。

 文政権は米国との関係を犠牲にしてでも中国との関係を重視する「二股戦略(straddle strategy)」を採用している。そして中国が韓国の風上に立つことを許している。韓国はこの戦略に徹しているうちに、米韓防衛関係の信頼性を低下させる形で中国と「妥協」することを覚えてしまったのである。

 そして米国による韓国への「高高度防衛ミサイル(THAAD)」防衛システム配備に対する対応は、まさに韓国が自らを弱体化させる姿そのものであった。そもそもTHAAD配備は韓国を周辺国の脅威から守るために駐留している在韓米軍を防衛することを目的として、米国が必要と判断したものであるが、中国はこれに反対し、配備に反対するよう韓国に圧力をかけたのである。

 THAAD配備を許さないという中国の要求に韓国が屈することになれば、それは韓国が米韓同盟上、定められた約束と精神に明白に違反したことを意味する。議論が進むにつれ、韓国は分裂した忠誠心に折り合いをつけられず逡巡した。北朝鮮のミサイルから駐韓米軍を守るためにTHAAD配備を決意した米国は、韓国政府と時間をかけて調整を進めたが、韓国は抵抗し、何とか中国を宥めるために跪いてでも妥協の道を探ろうとした。

 結果は残念なことに屈辱的な降伏を意味するものとなった。韓国の外相は中国に赴き、韓国が新たに打ち出したTHAAD政策の「三つのノー」を、中国側の満足のいく形で大々的に宣言したのである。

 この公式声明は、①韓国は自国内に米国もしくは韓国自身によってTHAADを追加配備することを検討しない、②韓国はTHAADを韓国のミサイル防衛システムに統合することにより、米国のミサイル防衛システムに参入することを検討しない、③韓国は米韓日の地域ミサイル防衛システムに参入することを検討しない、ということを中国に保証するものであった。

 文政権によるこの恥ずべき宣言に続いて、韓国内では、THAAD関連施設の建設そのものを妨害しようと、親北朝鮮活動家の抗議デモ隊による組織的な抵抗が行われた。韓国大統領府が容認したこれらの動きは、システムの配備を遅らせ、その効果を低下させるものであったが、それと同時にそもそも文政権が同盟関係の機能低下を受け入れる覚悟ができていることを示すものでもあった。

 またさらに深刻なことに、文政権は米韓同盟の即応性・信頼性維持のために欠かせない合同軍事演習を延期、縮小、中止することにまで踏み切ったのである。この対応は、明らかに同盟を蝕むものであり、米国が同盟関係の維持に注ぐ努力を削ぐことにつながるが、これがまさに文政権の方針なのである。北朝鮮指導部がこれと同じ目標を共有しているのは偶然ではない。韓国政府が今後、同盟を劣化させ、最終的には終焉させるよう、北朝鮮は仕向けていくだろう。

 米韓同盟が質的に劣化していく現在の局面を考察するうえで、これまでの経緯を振り返ることは有益である。北朝鮮が核兵器を独自開発して以降、地域における米国の核抑止力はどの程度低下したのだろうか。朝鮮戦争の直後、米国の軍事作戦担当者は、北朝鮮が再度韓国に侵攻するための戦力を再構築することはできないだろうと分析し、米国は韓国における戦力体制を縮小でき、さらに朝鮮半島に核兵器を配備することは永遠にないだろうと考えていた。

 しかし、1950年代に冷戦が激化するにつれ、米国は北朝鮮の通常兵器の増強の程度を認識するようになった。同時に北朝鮮がこれらの兵力を非武装地帯のすぐ北側に前方配備し、韓国に攻撃を加える構えを見せたことは米国にとって大きな懸念材料となった。

 これにより米国は北朝鮮の能力拡大が続くとの認識から、朝鮮半島に戦術核兵器を配備するしかないと結論づけざるを得なくなったのである。北朝鮮指導部が軍事力増強によって自信をつけ「第二次朝鮮戦争は可能な選択肢である」と過信するのではないかという当時の米国の懸念は、合理的なものだったと言えるだろう。

 米国の核兵器は当初こそ渋々増強されたものの、すぐに戦術システムとして国連司令部の戦闘計画の一部となり、その後何十年にもわたって維持されるとともに、さらに多くの優れた性能を持つ戦術核兵器が配備された。米軍は64年までに10種類以上の戦術核兵器システムを韓国国内に配備し、92年にジョージ・H・W・ブッシュ(父)大統領がこれらを撤去するまで、数百発単位の核が韓国国内に存在し続けることになった。

 今日、これらの米軍の戦術核兵器が韓国から撤去されて久しく、朝鮮半島に戦術核兵器が物理的に存在してきたことで確保されていた抑止力は消滅するに至った。もはや韓国内にこれらのシステムや類似のシステムが、再び配備されることはないだろう。朝鮮半島の核バランスが根本的に変わったことは、朝鮮という国家の次なる変化に向けた新たな条件が設定されたことを意味する。

 政争の具にされてしまったTHAADシステムを含む米国の通常戦力が韓国から撤去されることで、米国の核による関与も消えてなくなることだろう。いかに「確実な抑止力」といった文言で飾り立て、いかに新しい状況を取り繕おうとも、その現実は変わらない。

 朝鮮半島で軍事衝突が起きた場合、それがどのようなものであろうと、正式な米韓同盟なくして米国の参戦はあり得ない。同盟が破棄されれば、通常兵器による攻撃であれ核攻撃であれ、米国が介入するシナリオはないのである。このことは中国や日本と同様に北朝鮮もよく理解している。

 米国が韓国に対する安全保障上の義務から解放されるシナリオはいくつか想定される。そのうち可能性が高いのは、米韓の政治関係の急激な悪化を受けて、「不可避なことを先延ばしするよりも今すぐ撤退したほうがいい」という新たな現実を米国が受け入れ、速やかに撤退を始めるというシナリオである。

 このような事態は、米韓の同盟関係を不完全なものにすることこそが南北統一への近道と考える韓国の革新派政権によって引き起こされるだろう。この策略を察知した米国が韓国との泥沼関係を避けるべく撤退という行動をとるのである。より時間と痛みを要するシナリオであっても、いずれにしても米韓同盟は2030年までには終焉を迎えることになるだろう。

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