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「人権」を「思いやりの心」にすり替えてはいけない~人権週間に寄せて思うこと



(えっと、まず「聖飼う反故」って・・・(^^; すいません、これ、「生活保護」のtypoです。)

以前こちらで書いたことと重なるのですが、人権週間も近いので、あらためて書いておこうと思います。

人権週間について、法務省のページをご覧下さい。人権週間とはこういったものです。

国際連合は,(略)世界人権宣言を採択したのに続き,世界人権宣言が採択された日である12月10日を「人権デー」と定め,全ての加盟国及び関係機関が,この日を祝賀する日として,人権活動を推進するための諸行事を行うよう,要請する決議を採択しました。

我が国においては,法務省と全国人権擁護委員連合会が(略)毎年12月10日を最終日とする1週間(12月4日から同月10日まで)を,「人権週間」と定めており,その期間中,各関係機関及び団体の協力の下,世界人権宣言の趣旨及びその重要性を広く国民に訴えかけるとともに,人権尊重思想の普及高揚を図るため,全国各地においてシンポジウム,講演会,座談会,映画会等を開催するほか,テレビ・ラジオなど各種のマスメディアを利用した集中的な啓発活動を行っています。
 皆さんもお近くの催しに参加して,「思いやりの心」や「かけがえのない命」について,もう1度考えてみませんか?

本年度の「第64回人権週間」では,啓発活動重点目標「みんなで築こう 人権の世紀 ~考えよう 相手の気持ち 育てよう 思いやりの心~」を始め、17の強調事項を掲げ,啓発活動を展開することとしています。






こちらのページではその17の強調事項が掲げられています。
http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00005.html

法務省が書いていること全部が全部間違いだというつもりは毛頭無いのですが、クビをかしげざるを得ない重要な点があります。
それは人権というものが、「思いやりの心」と同義になっていることです。

例えば差別問題などを考えるときに、相手が嫌なことをすべきではない、相手を思いやるべきだ、という「思いやりの心」と重なる部分は確かにあります。
しかし人権問題を単なる市民同士の間の思いやりの問題にすり替えてはいけません。

法務省は「考えよう 相手の気持ち 育てよう 思いやりの心」ということで、こう述べています。

他人への思いやりの心が希薄で,自己の権利のみを主張する傾向が見受けられ,このような状況が様々な人権侵害を発生させる大きな要因の一つとなっています。 特に,東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故については,放射能の影響を心配するあまりか,根拠のない風評に基づく偏見や差別など,被災者への思いやりを欠く事案も発生しています。





これはともすれば、瓦礫受け入れ拒否を「自己の権利のみを主張している」ワガママだと非難したり、放射能汚染の安全性が疑問視される食品を買うよう無言の圧力をかけたりすることにつながりかねない危険があります。

思うに、「被災者への思いやり」に一番欠けているのは、国ではないでしょうか。
国は、この災害を奇貨とした「ショックドクトリン」を推し進めようとしています。
例えばこちら。

やっぱり虚しかった施政方針演説
http://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-887.html

また、震災復興予算が震災と関係ないところに流れ、肝心の被災者に届いていない、という事態も起きています(これは阪神大震災の時もそうでした)
詳しくはこちらをお読みください。

◆赤旗
主張 復興予算の流用 被災地支援へ根本的に見直せ

◆津久井進の弁護士ノート
2012.10.22 復興予算に見る被災者主権

人権週間ということで東日本大震災のことを考えようというであれば、むしろこういった国の姿勢を問うべきではないでしょうか。

法務省が強調事項として取り上げた17の項目はもちろん大切なことであって、微塵も軽んじる気はありません。
しかし、ここでとりあげられているのはほとんどが「私人間」の人権問題であり、国や地方公共団体という「権力」による人権侵害問題が取り上げられていないのです。

そもそも人権とは、権力によって侵害されてはならない人間の根源的な権利である、というのが歴史的に言っても出発点であり原点です。
ですが、日本ではそのことについてほとんど重きを置かない教育をしています。

ですから、憲法が基本的人権を保障していることを2割以上もの国民が知らなかったり国旗国歌強制が個人の思想良心の自由という人権侵害問題だという認識すら持てなかったり表現の自由の基本中の基本であるデモを、基本的に許されていない行為で許可された範囲内でしかやったらダメ、と思い込んでる人がいたり、という、およそ民主主義国家として情けないクオリティになってしまうのです。

学校での人権教育がお粗末なものであるならせめて法務省が人権週間でこうした人権意識を啓発して欲しいものですが、いかんせん「お上に楯突く」ことを啓発しようとはしないようです。
でも、人権とはもともと「お上に楯突いて」獲得したものなのです。

人権を単なる「思いやり」の問題に矮小化すると、震災も「絆」で「被災者がなかなか救われないのも自分たちの努力が足りないんだ」と自助努力に誘導し、国や地方公共団体の責任から目をそらす、ということになりかねません。

障がい者差別もそうでしょう。
障がい者に対する偏見、差別は私たち一人一人が気をつけねばならないことでもありますが、国が障がい者を差別しているとも言える障がい者自立支援法は人権問題でしょう、どうして人権週間で問題にしないのでしょうか。
(自立支援法についてはこちらをどうぞ)

つい先日、東京都は反原発デモの出発拠点として日比谷公園を使うことを不許可にしました。これは明らかに集会の自由、表現の自由の侵害です。
日弁連会長声明をお読みください)
昨今起きた基本的人権の侵害問題として、人権週間で取り上げてもいいと思います。

死刑に関しては以前から「国民的議論を」と叫ばれながら、国はそれを打ちきり、国際的な批判を浴びながらも黙々と執行している状態です。
死刑は究極の人権問題ですし、つい最近もEUが日本に死刑廃止を呼びかけたばかりなのですから、人権週間で問いかけてもいいと思います。

今は裁判員制度ですが、刑事司法の理念が広く国民に正しく理解されていないため、推定無罪を事実上侵すような報道が野放し状態だったり、光市母子殺害事件に見られるような刑事弁護人バッシングが為されたりしています。
弁護人に対し「人権屋」「人権を飯のタネにしている」などという蔑称が用いられること自体、およそ人権についての理解がゼロに近い証拠なのですから、被告人の人権(弁護権も含まれます)についての正しい理解を広めるべきです。国民誰もが裁く立場に立つ可能性がある現在は、なおさら、刑事被告人の人権についての正しい理解を普及する必要が急務だと思います。

また、最近では氷見事件、足利事件、布川事件、東電OL殺害事件など、再審無罪が出ています。冤罪もむごい人権侵害ですから、代用監獄の禁止、取り調べの可視化等についても問題提起するのも良いでしょう

日本ではブラック企業がはびこり、ワーキングプアは増える一方、まるで、労働基本権という憲法で保障された基本的人権が存在しないかのようです。
労働者の足下を見て食い物にするブラック企業、ブラックな労働に対抗するためには、まず、私たちにはどんな権利があるかを学習し、権利意識を持つことが大事です。
人権週間はそのような権利意識を高めるのに一役買ってもいいはずです。

また、昨今の生活保護バッシングは目に余ります。
生活保護は憲法25条で保障された生存権という基本的人権に基づく権利であることがちっとも理解されていないのです。
生活保護(この呼称もあまり良くないと思うのですが)についての正しい理解を広める必要があります。人権週間にはうってつけです。

私がかねてから思っているのは、差別のない思いやりの心を的なスローガンにするなら、今話題の石原氏という権力者が発した三国人発言や、障がい者に人格あるのかね発言をとりあげてみたらどうか、ということです。
また、こうしたヘイトスピーチに対処する人種差別禁止法の制定を国連から求められているのですから、それについて人権週間で問いかけてもいいと思います。

他にも、知る権利との関係で、政府が成立を焦っている秘密保全法の問題があります。原発事故情報の隠蔽も知る権利という人権からすれば大問題。

日本では、このような人権問題に関する根本的な取り組みが、せっかくの人権週間でもなされていないのではないでしょうか。

法務省のように人権を市民間の思いやりの心の問題にすり替え矮小化することは、権力による人権侵害という民主主義国家であってはならない重要な人権問題から目をそらさせ、人権意識の向上にあまり役に立たせようとしていないのではないかと懸念するのです。

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