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資金繰り支援と地方銀行の再編――金融政策の政策金融化について考える - 中里透 / マクロ経済学・財政運営

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日本銀行が市場に供給している資金には「色のついたおカネ」と「色のついていないおカネ」がある。もちろんこれは比喩であるが、2013年以降、日銀が採用してきた金融政策の枠組み(量的・質的金融緩和)についていうと、「質的」緩和が色のついたおカネの供給に、「量的」緩和が色のついていないおカネの供給に当たる。大まかに言うと、色のついたおカネの供給というのは、特定の政策目的をもって個別の市場に影響を与えることを企図してなされる資金供給のことであり、色のついていないおカネの供給というのは、物価の安定や景気の調整など金融政策の一般的な政策目標の達成のために金融調節の一環として行われる資金供給のことだ。

こうした中、今年になって「色のついたおカネ」の供給に2つのメニューが加わった。ひとつは、新型コロナの感染拡大の影響を受けた個人(事業者)や企業の資金繰り支援のために民間金融機関が行う融資に際し、日銀が各金融機関に資金供給を行う措置であり、もうひとつは、コストの削減や経営統合を進める地域金融機関に対し、日銀が特別な金利の付与を通じて支援を行う措置である。これらの措置は政府が行う政策の一部を日銀が代わりに行うものであり、「金融政策の政策金融化」と呼ぶことのできる興味深い側面を伴っている。以下ではこの点について考察するとともに、コロナ禍のもとでの金融と経済のこれまでの動きを振り返ってみることとしたい。

1.金融政策と政策金融のあいだ

量的緩和と質的緩和

「色のついたおカネ」と「色のついていないおカネ」の具体的なイメージをはっきりさせるために、まずは量的・質的金融緩和の「量的」と「質的」の意味を確認しておくこととしよう。日銀は市場からさまざまな金融資産を買い入れることを通じて資金供給を行っているが、この際に買い入れる資産の性質と資金供給の目的の違いに応じて、量的緩和と質的緩和を区分することができる。

このうち量的緩和は市場に供給する資金の量に着目する政策で、資金供給を行う際に買い入れる資産は信用力の高いものでありさえすれば何でもよく、大きなロットで安定的な取引ができるという点で国債が買い入れる資産の基本ということになる。

これに対し、質的緩和は買い入れる資産の内容にこだわる政策であり、買い入れを通じて個別の市場に直接影響を与えることが企図されている。たとえば、ETF(上場型投資信託)とJ-REIT(上場不動産投資証券)の買い入れは、株式市場と不動産市場の安定化と活性化に寄与することを目的として行われているものだ。CPと社債の買い入れも、信用リスクを伴う金融商品の市場(クレジット市場)における取引の安定化・円滑化を通じて金融市場の安定的な推移を確保するための措置ということができる。

付利を通じた政策誘導

「色のついたおカネ」の供給として今年新たに加わった2つのメニューのうち、「新たな資金供給手段」という名称で5月に日銀が導入を決定したものは、新型コロナの感染拡大の影響を受けた個人(事業者)や中小企業などの資金繰り支援を行う民間金融機関をバックアップするためのものだ。この資金供給の枠組みにおいては、日銀が各金融機関に資金供給を行うとともに、融資の実績に応じて各金融機関の日銀当座預金(各金融機関が日銀に開設している預金口座)に0.1%の付利を行う措置がとられている。

また、11月に導入が決定された「地域金融強化のための特別当座預金制度」は、一定の要件のもとで各金融機関の日銀当座預金に特別な付利(0.1%)を行うことで、地域金融機関(地方銀行、信用金庫など)が合理化や経営統合を通じて経営基盤の強化を進めていくことを後押しする措置だ。

ここまで書いてきたことからわかるように、この2つのメニューは特定の政策目的の実現のために付利(金利の付与)という形で事実上の補助金を交付するものであり、いわば日銀が行う財政政策という側面をもっている。これらは純粋な金融政策というよりは金融政策と財政政策の間に位置する措置であるが、このようなタイプの資金供給については政策金融というもうひとつの枠組みがある。

金融政策の政策金融化

政策金融は日本政策金融公庫、商工中金、日本政策投資銀行などの政府系金融機関によって行われている資金の融通の枠組みであり、財政投融資という国(政府)の制度のもとで、さまざまな政策目的をもって低利融資などが実施されている。融資を受ける個人や企業からすれば、民間金融機関から借り入れを行う場合の金利と、これらの金融機関から借り入れを行う場合の金利の差(利差)の分だけ補助金を受け取るのと同じことになるから、政策金融は融資という形態を通じて行われている広義の財政政策ととらえることができる。

融資という枠組みを利用し、金利に関する特別な取り扱いを通じて個別の政策目的を実現させるという点において、日銀による資金供給と財政投融資を通じた資金供給に機能面での実質的な差はないから、日銀が導入したこれらの措置は「金融政策の政策金融化」を意味するものということができるだろう。実際、新型コロナの感染拡大に対する対応策として新たに導入された資金供給の枠組みは、日本政策金融公庫による融資の枠組みを実質的に複製するものとなっている。

以下ではこの点について説明し、それをもとに金融政策の政策金融化の具体的なイメージを示すこととしよう(なお、CP・社債の買い入れも、リーマンショック後のCP・社債の発行環境の著しい悪化をうけて日本政策投資銀行がCPの買取を実施した流れを引き継ぐ形で、日銀において導入されたものであり、これも金融政策の政策金融化のひとつととらえることができる。この点についての詳細は中里透「金融危機と政策金融」(『金融調査研究会第2研究グループ報告書』、全国銀行協会)をご参照ください)

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