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【116カ月目の浪江町はいま】「校舎解体前に母校で校歌を歌いたい!」卒業生たちが町議会に請願提出 町は解体延期と校舎での閉校式には消極姿勢

原発事故で母校の休校を強いられた浪江町立学校の卒業生たちが26日午後、浪江町役場を訪れ、町議会の佐々木恵寿議長に「浪江町の各小中学校の解体を延期し、町民・卒業生にお別れの機会となる閉校式の開催を求める請願書」を提出。佐藤良樹副町長にも同趣旨の要望書を手渡した。請願は12月議会の「文教・厚生常任委員会」で審議される見通し。

卒業生たちの想いに賛同した3751筆の署名も提出されたが、町は校舎解体延期を国に求めない考えで、3月末にも5校合同の閉校式典のみを行う方針。卒業生たちの願いとの隔たりは大きい。




【「学校は町文化の中心」】

 「私たちの浪江町は原発を誘致しなかったにもかかわらず隣町の原発事故で町民が全員、町から追い出され、この9年8カ月、苦しい日々を送って来ました。私たちは2011年3月11日以前の浪江町での楽しかった日々を想わない日はありません。そして浪江に帰るたびに家々が解体され、さら地になっていく様を見て心が痛むばかりでした。

 さらに町の文化の中心地であった学校解体の事を知り、ふるさと浪江がもう無くなるんだという寂しさを感じております。それで、解体の前に各学校の卒業生や町民の方々が参加出来る『お別れの閉校式』を校舎見学の後に開催して欲しいと今回の署名活動を始めたのです」

 吉田数博町長の代理で出席した佐藤副町長や笠井淳一教育長を前に、卒業生を代表して門馬昌子さん(夫と娘が浪江中学校卒業)は請願に至った想いを語った。

  「7月の見学会では5校(大堀、苅野、幾世橋、浪江の4小学校と浪江中学校)合わせて延べ2600人しか参加できなかったと聞いております。次回は希望者全員が参加出来るよう新型コロナウイルスの時期を外して、校舎見学会と閉校式を行ってください。それまで、校舎の解体を延期してください。

 『解体の費用も、解体後に建てられると聞いている施設の建設費用も環境省から出るのだから…』というお考えもあるでしょうが、私たち町民は何一つ悪い事をしていないのに、国が推進してきた原子力政策でこんな目に遭っているんですよね。解体の延期などを国に強く求めても良いのではないでしょうか」

 インターネットや書面で集めた賛同署名は3751筆に達した。「この署名は、町民や卒業生の方々はもちろん日本全国から寄せられ、アメリカやメキシコ、フィリピン、イスラエル、オーストラリア、中国、韓国、イギリス、フランス、オランダに住む人々からも寄せられており、その結果を皆、注目しております」と門馬さん。町議会の判断を世界の人々も注視している。





(上)卒業生たちの想いに賛同する署名は3751筆に達した
(下)7月に行われた〝最後の見学会〟では、新型コロナウイルス感染拡大で参加出来なかった卒業生も多かった


【副町長「皆さんと協議する」】

 東京・新宿の「ともしび」で町立学校の校歌を歌う交流会を開催した吉田正勝さん(1970年浪江中学校卒業)は、「せめて浪江小学校の校舎で浪江小学校の校歌を歌って、ちゃんとしたお別れと感謝の会をやっていただきたい」と頭を下げた。

 「浪江がどんどん変わっていき、自分の知らない町になっていくような気がして怖いです。その中で学校解体を知り、いてもたってもいられなくなりました。署名運動は初めての経験でしたが、学校というシンボルが無くなるというのはそのくらいの事なのです。町の誇りを傷付けられるような想いです。署名は町へのラブレターだと思って受け取って頂ければありがたいです」。そう語りかけたのは三原由起子さん(1995年浪江中学校卒業)。

 堀川文夫さん(1970年浪江中学校卒業)は「浪江小中学校は150年の歴史があります。その歴史が町民に何の責任も無い原発事故で閉ざされてしまう。しかも、7月の見学会で終わってしまうのかと聞き、こんなに長い歴史を簡単に閉じて良いの?という想いです。町民の声をしっかりと上(国)に届けていただきたいです」と町に求めた。

 松本佳充さん(1970年浪江中学校卒業)も「みんな、浪江の学校で育っています。それぞれに思い入れがあります。感染症の問題は大変ですが、各学校で全員参加型の閉校式、きちんと思い出が残る閉校式をやっていただきたいです。卒業生の想いを汲んでください」と訴えた。

 朝日新聞やテレビユー福島なども取材に訪れたが、具体的な意見交換の部分は会議室からの退室を命じられ、取材が出来なかった。終了後に囲み取材に応じた佐藤良樹副町長は「閉校式を含め、今後については皆さんと協議して進めて行きたい」、「解体等の準備を進めているので、校舎見学会もどういった形で出来るかというのも今後、協議させていただきたい」と述べるにとどまった。

 佐藤副町長によると、年明けにも順次、5校の解体工事に着手するが、終了予定は未定という。





(上)「今後については皆さんと協議したい」と答えるにとどまった浪江町の佐藤副町長
(下)町役場に入り口には「おかえりなさい ふるさと浪江町へ」と書かれた看板が設置されているが、町民は原発事故で母校を奪われ、お別れの機会もままならない


【町は解体延期求めず】

 この日、提出された請願は、12月1日に予定されている議会運営委員会で取り扱いが協議され、「文教・厚生常任委員会」に付託される見通し。町議会が請願を採択すれば卒業生たちの想いを後押しする事になるが、町は各校の校舎での「お別れ会」開催には消極的だ。事前取材に応じた町教委幹部はこう答えている。

 「そもそも閉校式自体はやるという考えはあります。ただ、閉校式の中身については、どういうものになるかというのは、時期も含めて具体的には決まっていないです。一番ネックになるのは感染症の問題です。やっぱり閉校式には一定程度の人を呼ばなければいけないので、その時点で新型コロナウイルスの状況がどうなっているのか想像出来ないところがあります。

 5校の休校式は、実は創成小学校・中学校で行いました。各学校で行ったのではありません。あくまでも粛々と、です。要は、これまでの経緯なんかを挨拶で触れさせていただいて、そして各校の校旗を代表の校長先生から教育長に返納するという形でした。今回もそのような式典のような形までは想像しているんですけど、それ以上の事はなかなか今のところは想像し難いので決まっていないのです」

 この幹部は、「学校見学会を仮に行うとすれば」と前置きしたうえで「スポーツセンターなどの場所で5校合同でやる事になると思います。現実問題としては、7月の見学会に来られなかった方が今後、校舎内に入るのはちょっと難しいと思います」と話した。3月末にも合同閉校式を行う計画も浮上している。

 卒業生たちは校舎解体をいったん延期し、ゆっくり話し合って感染症の状況も考慮して閉校式を校舎で行う事を望んでいる。しかし、この日の意見交換では、町側は国(環境省)に校舎解体延期を申し入れる考えは示さなかったという。卒業生たちが望む形での閉校式開催に町が消極的なのは、果たして本当に感染症の問題が理由なのだろうか。このままでは来春にも、5校の校舎は消えて無くなってしまう。

(了)

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