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「社外取締役制度」に関する最近の議論と若干の私見(その2)

先週金曜日のエントリーの続きであります。最新号の旬刊商事法務(2012年11月5日号)に、気鋭の弁護士の方々による「『社外取締役を置くことが相当でない理由』の説明内容と運用のあり方」と題する論稿が発表されましたので、たいへん興味深く拝読させていただきました。これまでも上場会社の開示書類において、「社外取締役を置かない理由」の開示は求められていたわけですが、ご承知のとおり会社法改正要綱のなかでは、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を(事業報告において)示さなければならない、と明記されました。上記論稿でも明らかにされているとおり、今回の会社法改正要綱を読むかぎりでは、上場会社レベルの株式会社には、社外取締役を置くことが企業価値向上のためには一般的には望ましいとの判断があり、それでもなお個々の会社の事情により、社外取締役を置かない場合には、「当社では社外取締役を置くことが企業価値を下げてしまうのだ」といった理由を積極的に開示しなければならない、ということになりそうです(文言解釈としても妥当ですし、また会社法制部会での議論の経過をみても、そう解釈せざるをえないように思われます。そういった意味で、私は「社外取締役としてふさわしい人がみつからない」という理由は「社外取締役を置かない理由」にはなっても「社外取締役を置くことが相当でない理由」にはあたらない、と考えています)。

では、①いったいどのような理由を示せば「置くことが相当ではない」理由となりえるのか、②当該会社の規模や業種などによって理由を示しやすいところとそうでないところがあるのではないか(では、どのような業界であれば置くことが相当でない理由が示しやすいか)、③英国流のComply or Explainの実証研究を通じて、日本の「置くことが相当でない理由」の開示制度はどのように運用すべきか、といったあたりの課題が上記論稿で示されています。未だきちんと議論されたことがない点なので、上記論稿が今後の議論にも影響を及ぼすものになるかと思われます。ただ、現状として東証に上場している会社の半数が社外取締役を置かない企業なので、今後は「置くことが相当でない理由」に関する「ひな型」は作られるものと予想しております。

いったいどのような理由が「置くことが相当でない理由」になるのかは私もいろいろと考えるところですが、これを開示する上場会社にとって検討しておかなければならないことは、定時株主総会を前提とした少数株主権の行使として、社外取締役の選任議案が出された場合ではないか、と考えています。具体的に社外取締役候補者を目の前にして、会社側はどう対応するのか…という点にとても関心があります。少数株主としては、様々な理由を示して社外取締役候補者を特定して選任議案を出すわけです。会社側としては、事業報告に記載する「置くことが相当ではない理由」と、個別議案に対する反対意見とを矛盾なく説明する必要が出てきます。説明いかんでは、現経営陣が単純に「保身目的で置きたくない」と一般株主に受け止められてしまうことにならないか、このあたりは慎重な配慮が必要になってくるのではないでしょうか。

また、社外取締役を置くことが相当でない、という会社の経営判断(取締役会における専決事項)は取締役全員による審議の末の結論です。取締役会での審議を要することになりますので、出席している監査役も意見を述べることができる立場にあります。会社法が「企業価値向上のために社外取締役を置くことが望ましい」との価値判断があるのであれば、なぜ社外取締役を置かないのか、とりわけ一般株主にとっては関心が高い経営判断です。そうしますと、取締役会でどのような判断がなされたのか、独立役員たる社外監査役は一般株主の代弁者としてふるまう必要があります。つまり、株主総会において取締役の選任議案が上程され、審議されるケースでは、独立役員たる地位にある社外監査役さんに株主への説明が求められることになるはずです。こういったことこそ、独立役員に求められる役割であり、一般株主の立場からみても、社外取締役を置かないほうが好ましいのだ、という説明をしなければならないと思います。現実には議長である代表取締役が回答することになるかもしれませんが、一般株主利益に配慮しなければならない独立役員個人の見解を聞きたい、と考える株主からすれば、質問が独立役員に向けられてしかるべきではないかと思います。

さらに、いったん「社外取締役を置くことが相当でない」とする理由を開示した後に、翌年以降、諸事情によって社外取締役を置かざるを得ない状況になることも考えられます。グループ企業経営のなかで、子会社管理の一環として自ら子会社に社外取締役を派遣するケースも考えられます。自分の会社の事業では社外取締役を置くことが相当でないのに、どうして子会社事業の場合には相当なのか、昨年は相当ではないといっていたのに、どうして今年は相当だと判断したのか、そのあたりを矛盾なく説明しなければ、やはり「恣意的な判断である」と株主からツッコミを入れられるのではないでしょうか。会社側としては、企業価値向上という視点から説明することになると思いますが、上記論稿も結論として述べているとおり、説明が困難な企業は事実上社外取締役を置くことが強制されることになるのではないかと思われます(ただ、それでも開示規制ということですから、市場からどのように判断されても、毎年不透明な説明を繰り返して社外取締役を置かない企業もあると思いますが)。

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ちなみに、社外監査役ではなく、社外取締役たる独立役員を選任するよう要望する旨の上場ルールは今年5月に制度化されておりますが、今回の会社法要綱においては、上場ルール等によって各上場会社に社外取締役を選任するよう努力義務を課すことが要望されています。こういった流れの一環なのかどうかはわかりませんが、東京証券取引所編著「ハンドブック独立役員の実務」(商事法務 神田秀樹監修 税別1800円)が発刊されました。独立役員に指名された社外役員としてのベストプラクティスが示された本です。読む前は「いままでの東証の意見をまとめたものにすぎないのでは?」と思っておりましたが、さすが東京の大手法律事務所がアドバイザーとして関与されているだけあって、なかなか秀逸な本です。独立役員に求められる役割というものが、これまで以上に(総論各論に分けて)詳細に解説されています。とくにコーポレートファイナンス、ガバナンス問題、コンプライアンス問題に対する視点がとてもよくまとまっているなぁとの印象です。もちろん社外取締役に期待される役割と、東証ルールにおける独立役員の役割が一致する、ということまでは言えないかもしれませんが、一般株主の利益に貢献する独立役員たる社外役員の方々にはお勧めの一冊です。

「私見を述べる」といいながら、またまた今回も脱線してしまい、まだ書けていません。(その3)では絶対に書きたいと思います。

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