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バイデンは中国とどう闘うのか? - 海野素央 (明治大学教授 心理学博士)

今回のテーマは、「バイデン政権の対中政策」です。民主党のジョー・バイデン次期米大統領は11月24日(現地時間)、主要閣僚・高官人事を発表しました。バイデン次期大統領の外交・安全保障チームにはどのような特徴があるのでしょうか。国務長官に指名されたアントニー・ブリンケン元国務副長官はどのような対中外交を展開するのでしょうか。

本稿では、バイデン外交・安全保障チームの特徴と対中外交に焦点を当てます。

Leestat/gettyimages

バイデンの「分身」

バイデン次期大統領の主要閣僚・高官人事は一言で言えば、同氏の「分身」です。中でも際立っているのが、バイデン氏が国務長官に起用したブリンケン元国務副長官です。ブリンケン氏は外交問題において長年にわたりバイデン氏に助言をしてきました。バイデン氏との間にすでに信頼関係が構築されています。

バイデン・ブリンケン両氏の関係は、映画「スター・トレック」の用語「マインド・メルド(mind meld)」を用いて表現されます。両氏は相手に手を触れ合うだけで精神的に接続するテレパシーの能力を備えているというのです。それほど、心が通じ合っているという意味です。

これに対して、ドナルド・トランプ大統領は最初の国務長官にエクソンモービルの元CEO(最高経営責任者)レックス・ティラーソン氏を指名しました。米メディアによれば、コンドリーザ・ライス元国務長官がプーチン大統領から友好勲章を授与されたティラーソン氏を、トランプ氏に推薦しました。トランプ氏とティラーソン氏の間には、当初から「マインド・メルド」及び信頼関係が存在した訳ではありませんでした。

結局、トランプ氏はティラーソン氏を解任し、自身のツイッターで誹謗中傷とも解釈できるメッセージを投稿しました。バイデン氏とブリンケン氏の関係が破綻する可能性は、トランプ氏とティラーソン氏のそれと比べれば、かなり低いかもしれません。

バイデン次期大統領とバラク・オバマ元大統領の主要閣僚・高官人事も比較してみましょう。オバマ元大統領は、民主党大統領候補指名争いを激しく戦ったヒラリー・クリントン氏を国務長官に指名しました。

加えて、ジョージ・W・ブッシュ政権の国防長官であったロバート・ゲーツ氏を同長官に起用しました。そこで、オバマ氏の外交・安全保障チームは、「チーム・オブ・ライバルズ」と呼ばれました。あえてライバルをチームに入れて、自分の傍に置いたからです。そのメリットは、ライバルを「監視」できること及び、チーム内の価値観の多様性を高めることにあります。

「チーム・オブ・ライバルズ」は、オバマ氏が尊敬するエイブラハム・リンカーン元大統領が用いた手法であると言われています。バイデン氏の外交・安全保障チームは、「チーム・オブ・ライバルズ」とは正反対です。

バイデン外交・安全保障チームの落とし穴

経験豊かな専門家から構成された「実務型」のバイデン氏の外交・安全保障チームに、全く死角がない訳ではありません。

イェール大学の元社会心理学者アーヴィング・ジャニス氏は、集団ないしチームのメンバーの価値観やものの見方が過度に類似していると、「集団思考(group think)の罠」にはまると主張しました。チーム内の凝集性が過剰なまでに高くなると、意思決定を行う際、同調圧力が生じるというのです。その結果、あらゆる選択肢を吟味しないで、誤った決定を下してしまう傾向があると指摘しました。

その例として、ベトナム戦争の泥沼化及び、1986年に発生したスペースシャトル「チャレンジャー号」の爆発事故を挙げて、ジェニス氏は当時の意思決定を行ったチームに集団思考の罠が見られたと分析しました。

確かに、バイデン氏の外交・安全保障チームは人種並びにジェンダーにおいて多様性に富んでます。ただ筆者の研究によれば、集団思考の罠にはまるか否かは、人種及びジェンダーよりも価値観、ものの見方並びに考え方の多様性に拠るところが大きいです。

たとえチーム内に人種やジェンダーの多様性が存在しても、価値観がそうでなければ集団思考の罠にはまる可能性が高いということです。つまり、「人種異文化」よりも「価値異文化」が鍵を握る訳です。

仮にバイデン氏の外交・安全保障チームに落とし穴があるとすれば、メンバーが同氏の分身であるが故に、価値観やものの見方における多様性の欠如が、意思決定においてマイナスの影響を及ぼすことでしょう。チームにライバルを加えたオバマ前大統領は、1期目の主要閣僚・高官人事について触れたとき、「集団思考の罠にはまらない」と断言しました。

バイデン・ブリンケンの対中外交

トランプ大統領は選挙期間中、米中経済の「デカップリング(切り離し)」の可能性について言及しました。これに対してブリンケン氏は、「中国との完全なデカップリングは非現実的」という立場をとっています。

選挙期間中のバイデン氏の発言を含めて、ブリンケン氏の対中外交を考えてみると、新型コロナウイルス対応及び地球温暖化防止で、中国と交渉して協調していく公算が高いといえます。

ただし、ブリンケン氏は知的財産権侵害並びに海洋進出については強硬姿勢をとるに違いありません。というのは、バイデン氏は10月22日に行われた2回目のトランプ氏とのテレビ討論会で、知的財産権と南シナ海の問題を自ら取り挙げて、「中国は国際ルールを守っていない」と強く非難したからです。

一方、ブリンケン氏は貿易問題では、トランプ大統領と中国との追加関税の掛け合いが、米国内の農家と製造業に打撃を与えたと指摘しています。そこで、まず中国に国際貿易のルールを厳守させます。次に必要であるならば、戦略と計画に基づた関税を中国製品に掛けると、同氏は述べています。裏返せば、トランプ大統領の追加関税は場当たり的であったといいたのです。

では、ブリンケン氏は中国の人権問題に対してどのような姿勢で臨むのでしょうか。同氏のポーランド生まれの継父はホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の生存者です。同氏はアウシュビッツなどの強制収容施設で4年間、生活を送った継父の影響を受けてます。

シリアのアサド政権が2013年、子供を含めた市民に向けて化学兵器を使用したとき、ブリンケン氏は軍事攻撃を強く主張しました。人権問題として捉えたからです。

おそらく、ブリンケン氏は中国の少数民族ウイグル族の強制収容施設と人権問題についてトランプ政権よりも厳しく追及するでしょう。

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