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【読書感想】ブラック霞が関

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ブラック霞が関 (新潮新書)
作者:千正 康裕
発売日: 2020/11/18
メディア: 新書







Kindle版もあります。

ブラック霞が関(新潮新書)
作者:千正康裕
発売日: 2020/11/18
メディア: Kindle版

朝七時、仕事開始。二七時二〇分、退庁。ブラック労働は今や霞が関の標準だ。相次ぐ休職や退職、採用難が官僚たちをさらに追いつめる。国会対応のための不毛な残業、乱立する会議、煩雑な手続き、旧態依然の「紙文化」……この負のスパイラルを止めなければ、最終的に被害を受けるのは国家、国民だ。官僚が本当に能力を発揮できるようにするにはどうすればいいのか。元厚生労働省キャリアが具体策を提言する。

 霞が関で働いているエリート官僚というと、なんだか遠い存在のように感じますよね。
 彼らには、下々の民衆の気持ちなんて、わかんないんだろうな、って。

 ただ、僕の学生時代の同級生には、官僚になった人もいますし、医者になってから、同僚が厚生労働省に何年か派遣されたときの話も聞いたのです。

 彼らは、内側からみた「官僚」について、「とにかく頭が良くて、とんでもない量の仕事を信じられないスピードでこなしていく。しかも、ずっと働き詰めで」と言っていました。

 日本のメディアでは、官僚が話題になるのは不祥事を起こした場合が多いのですが、多くの官僚は、真面目で、身を粉にして仕事漬けの生活を送っているのです。

 著者は「私学の名門校で大学まで過ごしていたので、自分で興味を持ってNPOで活動している人たちに接するようになるまで、困っている人たちの実像がわからなかったし、自分たちがつくる法制度が、世の中にどんなふうに役に立っているか実感できなかった」とも率直に述べています。

 ほら、やっぱり、大衆のことなんてわかっていない、と言うのは簡単だけれど、この本を読んでいると、彼らは国会の答弁の準備や国会議員への政策のレクチャーなどに時間をとられていて、「自分の時間」がほとんどないのです。

 著者は「自分が世間知らずである」ことに、ずっと負い目を感じていた、とも仰っています。

 逆に言えば、世の中の「大衆」たちのほうが、「エリートさんには、俺たちの気持ちなんてわからない」と「切断」することをためらわない面があるのです。

 人が官僚になる動機には、周囲の勧めや自分の力を証明したい、というのもあるのでしょうけど、「みんなの、世の中の役に立つことをしたい」というのがほとんどの人にあるのです。

 実際、今の世の中で、お金が欲しければ、もっと稼げる仕事はたくさんあるし、プライベートを大事にしたいのなら、時間に余裕がある職業に就けばいい。「偉くなりたい」という人もいるのかもしれませんが、そういう立身出世タイプはどんどん減ってきているように思われます。

 ここで著者が書いているエリート官僚の現実って、いまの医者の世界にすごく似ているな、と感じることばかりで、他人事のような気がしないんですよ。

 僕が医者になった1990年代後半くらいには、まだ、「プライベートを犠牲にしてでも大学で立派な研究をして、教授になるやつがいちばん偉い」という価値観が少しは残っていたような気がします。『白い巨塔』的な世界、と言えばいいのかな。

 若い頃はきつくて給料が安くても勉強になる病院で修業をするべき、だと(少なくとも表面上は)多くの若手は考えていたのです。

 ところが、最近、ここ10年くらいは、QOL(生活の質)や自分の家庭生活を重視し、「別に偉くならなくてもいいから、安定した収入源として医者をやっていきたい」という若手のほうが多いのです。教授になってもそんなに高給なわけではないし、昔のように「教授の言うことは絶対」の世界ではない。もちろん、仲良くしておくに越したことはないけれど。

 2018年に僕が管理職になった頃、役所は深刻な人手不足に陥っていました。関係者の意見を聞きながら方向性を示し、若い人たちに作業をお願いしないといけません。ところが「作業を進める若い人たちが圧倒的に不足していました。新しいアイディアを思いついて、新しい事業をより効果的なものにしようとしたら、行政経験の長い年上の部下に止められたことがありました。「担当者は今でも死ぬほど残業しているのに、これ以上仕事が増えたらパンクしてしまう」と。

 部下に、体を壊したり、家庭を崩壊させたりするような働き方を強いることはもちろんできません。組織全体を見わたしてみると、ほかの部署も状況は同じでした。最低限やらないときけない仕事すらこぼれ落ちそうな状況です。このままでは厚労省が崩壊してしまう、という危機感を覚えました。管理職としては、最低限の労力で、とはいえ税金を使っている仕事ですから、国民に怒られないギリギリの及第点を狙うようなマネジメントをするしかありません。

 深夜・土日も働いている部下たちをつぶさずに、手がついていない埋もれた仕事がないか常に注意して、不祥事を起こさないようにうまくすり抜けていく。それは、技術的にはできないことではないですし、管理職の役割とも言えるでしょう。ただ、僕にはものすごく我慢が必要なことでした。国民のためにできることがあるのに、諦めなければならないのです。また、うまくこなしていくだけなら、僕みたいな自由な発想で新しいことをやる官僚でなくてもできる人がたくさんいるでしょう。辞めるのを決意した時、僕は44歳。

 この本を読んで、官僚といってもいろんな人がいるのだなあ、とあらためて思い知らされました。

 なんでも上司の顔色をうかがって前例主義で、とにかく問題を起こさないようにしながら出世争いをし、事務次官の椅子や天下りを目指す、という「官僚のイメージ」というのは、昔のステレオタイプなものでしかないのです。

 もちろん、そういう人も、まだいるのかもしれませんが。

 霞が関の官僚が実際に、どのくらい長時間労働なのかについては、実はデータを取るのがかなり難しい。さすがに昔と違って役所は職員の労働時間を把握するようになってきているが、公式に発表している労働時間は言わば建前である。人事院が公式に発表している国家公務員の超過勤務の状況によると、平成29(2017)年の超過勤務の年間総時間数は、全府省平均で228時間であり、地方支分部局等を除く本府省(いわゆる霞が関)では350時間だ(平成30年国家公務員給与等実態調査)。

 2019年に「官僚の働き方改革を求める国民の会」が1000人の現役及び退官した官僚本人を対象にとったアンケートによると、回答者の65.6%が労働基準法の年間超過勤務時間上限である720時間を超えていた。1000時間超えが42.3%(過労死ラインの960時間を超える)、1500時間超えも14.8%だ。こちらの方が僕も実感には合っている。

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