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田中真紀子の終焉~田中真紀子大学不認可騒動をメディア論的にまとめてみる(後編)

田中真紀子文部科学大臣を巡る大学不認可騒動について、前編では、この原因がそもそも田中自身の大学教育についての無知に端を発することを指摘しておいた。どんどん質を低下させている大学教育に歯止めをかけるというアドバルーンを上げたまではよいのだが、肝腎の中身、つまり大学問題についての知識と方法論を田中は持ち合わせていなかった。要するに文部科学大臣として組織を改革するような力量がないことが田中の「不幸」だった。

だったら、最初から「無知・無能」の田中真紀子などと言う人物を起用すること自体が間違っているのだが、ところが田中は政治の大舞台に何度となく起用され、その都度「騒動」を引き起こすことになった。こういった「不幸」も田中は持ち合わせていた。なぜか?それは「田中真紀子」という存在がきわめてメディア性に満ちた存在だからだ。

メディアの基本的な行動原理は「カネ儲け」

メディア(この場合、メディアとは「マスメディア」を指す)の行動原理の基本は、あたりまえと言えばあたりまえだが「ビジネス」にある。残念ながら、そこにジャーナリズム魂とか、公共性などは、もはやほとんど期待出来ない。はっきり言ってしまえばカネがすべて。具体的にはテレビなら視聴率、新聞・雑誌なら発行部数に関心のプライオリティがある。そして、こういった原則に基づけば、ネタは大衆の関心を惹起するものであればなんでもよいということになる。そして、その「関心を惹きつける要素」=メディア性を多分に備えているの存在こそが田中真紀子なのだ。

田中角栄の娘であるというメディア性

先ず、田中真紀子の出自のメディア性。もちろん、それは週刊朝日が橋下徹について記述した類いの出自ではない。ここで言いたい「出自」とは、要するに田中真紀子が田中角栄の娘であると言うことだ。ご存知のように田中角栄は昭和を代表する首相の一人。高等教育を受けずに首相にまで上り詰めたことから「今太閤」ともてはやされ、持論の日本列島改造論で日本国内に建設ラッシュをもたらし、日中国交正常化を実現したことで知られる。また、パフォーマンスの卓越さでも知られ、ダミダミ声を早口でまくし立てるその姿は80年代までモノマネ芸人の定番ですらあったほど。ロッキード事件で失脚するものの、その後もフィクサーとして活躍した。それほどまでに強烈な存在だった。

田中真紀子はその娘ゆえ、メディアとしては実に扱いやすい存在なのだ。大衆が真紀子に角栄の影を見るからだ。だから真紀子に角栄並の活躍を期待しようとする。そこにメディアはつけいる。ちなみに、この時、真紀子が角栄同様、ダミダミ声で早口であるところは二人を重ね合わせる点できわめてメディア性が高い。だから、国会議員となる前から真紀子はセレブとしてメディアの注目の的となっていた。

角栄ばりのパフォーマンス能力

田中真紀子は、メディアが真紀子の存在を田中角栄とオーバーラップするのを容易にする能力も備えていた。それは角栄と同様の卓越したパフォーマンス性を備えていたことだ。ものおじせず、気っ風のよい発言、優れたコピー能力、コミカルな喋りなどがそれ。真紀子の名言はかなり多い。「凡人、軍人、変人」「伏魔殿」「パックン首相」などがそれで、「凡人、軍人、変人」(自民党総裁選に立候補した小渕恵三、梶山静六、小泉純一郎をそれぞれ表現したことば)は98年の流行語大賞に選ばれたほど。毎回おもしろおかしい、地雷を踏みそうな発言というスキャンダラスさは、あぶなっかしいが、おもしろい。こうなると視聴率や発行部数を伸ばすには格好のネタだ。だからメディアは常に田中真紀子という存在を追いかけ続けた。そして、それが田中の人気の原因だった。田中は一時、次に「首相にしたい人物第一位」となったことさえあったほどだったのだ。

ただし、ここで問題が生じる。それは前編で示してきたように田中真紀子は政治の実務という点ではほとんど無知・無能であったということだ。父・角栄のような「大胆、傲慢なようでいて実は繊細。バツグンの気配り」という能力は一切ない。角栄は「コンピューターつきブルドーザー」と呼ばれたが、真紀子はいわば暴走する「ただのブルドーザー」。そう、真紀子は角栄の再臨ではなく、角栄のただの「お嬢様」だったのだ。譲り受けたのはパフォーマンス能力だけ。もちろん、これは政治家としては必須=必要条件だが、それだけでは政治手腕は成り立たないことはいうまでもない。

しかしメディアはとにかくメディア性さえあればビジネスに直結するので、そんなことはどうでもいい。その結果、田中真紀子は二十年にわたり(母親の代わりにファーストレディとして世界各地に父角栄に随行した時に遡れば四十年近く)、政治の舞台で舞い続けたのだ。

角栄の記憶が忘れ去られると……

だが、現在、田中角栄のマネをするモノマネタレントはいなくなった。これは、要するに田中角栄という人物が歴史の中に消え去ろうとしていることを意味する。ということは、田中真紀子の背後に角栄の影を見る大衆の数もどんどんと減っていくといことも意味する。それはとどのつまり、角栄の神通力が失われているということでもある。

こうなると今度は真紀子の能力が剥き出しになってくる。つまり「パフォーマンス能力だけのトラブルメーカー」。そのはじまりは小泉純一郎が真紀子の人気+角栄の影を利用して、彼女を外務大臣に任命したときだ。だが、あっと言う間に外務省の役人とゴタゴタをおこし、更迭されてしまったことは記憶に新しい。これで「首相にしたい人物ナンバーワン」の地位から引きずり下ろされた。その後、しばらくは伏していたが、ほとぼりが冷めた2012年、今度は苦境に立たされた民主党が、その人気を期待して真紀子を今度は文部科学大臣に任命したわけだ。つまり、真紀子はマスメディアだけでなく政治家からもそのメディア性を、いや、そのメディア性「だけ」を高く評価されていたのである。

だが、所詮、政治手腕はない。だから真紀子は「時限爆弾」あるいは「地雷」みたいなものだった。いつ爆発するかわからない。そして、その時は、やっぱりあっと言う間におとずれた。

今回、ついに田中真紀子という政治家の無能ぶりは青天白日の下に晒されたのではなかろうか。役所の空気を読むことも、その分野についての知識を入手することもせず、ひたすらパフォーマンスだけを繰り広げるだけの存在であることを。そうであるとすれば、もはや田中真紀子に未来はない。また、外務大臣での騒動から十年以上が経った現在、角栄の影はもう完全に失われている。そう、もうメディア的にも旨味、つまり金儲けのためのネタにはならないのだ。まあ、ある意味、田中真紀子という人物はメディアによって勝手にイメージを作られ、利用されただけの「可哀想」な、そして「不幸」な存在だったのかもしれないが(そうはいっても、それによって振り回された有権者の側はたまったものじゃないけれど)。残念ながら賞味期限は切れてしまったと、僕は思っている。

田中真紀子という政治家に、手向けの花を贈ろう。それは、かつて小渕首相が現職のままで逝去し、そのことについて彼女が発したコメントをそのまま使わせてもらうのが好ましかろう。

「田中真紀子さん。あなた、これで「お陀仏様」ですよ!」

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