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オードリー・タン「高齢者はデジタル弱者というのは誤解」

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天才IT大臣として世界が注目する台湾のオードリー・タン(唐鳳)。今回のコロナ禍でもマスク在庫マップで存在感を発揮した彼女に、日本に向けたデジタル化のヒントを取材した。

■デジタルファーストでは、うまくいかない理由

――台湾は新型コロナウイルスの感染拡大をいち早く封じ込めました。その中でタンさんはデジタル担当大臣として、ITを駆使したコロナ対策に取り組んでこられたそうですね。

IQ180・台湾IT担当大臣 オードリー・タン氏
IQ180・台湾IT担当大臣 オードリー・タン氏

台湾が感染拡大阻止に成功した一因には、2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験があります。当時、台湾では73人の犠牲者が出ました。これを教訓として、政府にも国民にもパンデミックに備えようとする意識が共有されていました。

今回も、政府は早い段階で中国からの訪問禁止など水際対策を徹底しました。国内では民間企業にマスクの増産を要請し、それをすべて買い上げて国民に行き渡るようにし、当初はコンビニやドラッグストアで1人3枚までマスクを購入できるようにしました。しかし、複数のコンビニでマスクを買う人が出てきて、すぐに品切れを起こしてしまったのです。

この問題には大きくいえば衛生福利部と経済部という2つの省が関係しているのですが、そこに少なくとも6つの部局が関わっていました。さらにマスクの配送を請け負う郵便局は交通部の管轄ですが、ここも当然関わってきます。このように1つの省庁では解決できない問題が生じた場合、省庁間で異なる価値を調整する必要があります。こうした省庁間を横断する問題についてデジタル技術を使ってクリアにしていくというのが、私の仕事です。

■誰がマスクを購入したかが確実に把握

――具体的にはどのように問題解決を図られたのですか。

台湾は国民皆保険制度ですから健康保険カードを使った実名販売をすることにしました。それにクレジットカードや利用者登録式の悠遊カード(日本のSuicaのようなもの)を使ったキャッシュレス決済を組み込みました。これなら誰がマスクを購入したかが確実に把握できます。

オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)
オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)

ところが始めてみると、この方法でマスクを購入した人が4割しかいないことがわかってきました。現金や無記名式の悠遊カードを使い慣れていた高齢者には不便な方法だったのですね。これは単にデジタルデバイド(情報格差)の問題だけではなく、防疫政策のほころびでもあります。マスクを買えた人と買えなかった人の割合が半々程度では、防疫の意味をなしません。

そこで、この方法はとりあえず停止して、まずは健康保険カードを持って薬局に並んでマスクを買ってもらうことにしました。これなら高齢者には慣れたやり方ですし、高齢者には並ぶ時間もありますからね。家族の健康保険カードを預かって一緒に買ってあげることもできます。

次に並んでマスクを購入する時間がない人のために、スマホを使ってコンビニでマスクを購入するシステムを設計しました。民間企業にも加わってもらって、自動販売機でもキャッシュレス決済で購入できるようにしました。

重要なのは問題を処理する順序です。デジタルファースト、まずデジタル技術を使うという考えでは課題は解決しません。まず対面式あるいは紙ベースでしか対応できない人について対応をして、その方式を進める中でより便利で早い方法を使いたいという声に対応していくことが大切です。そのうえで中央省庁の各部局、外局、自治体のスマートシティ事務局、薬局、民間の科学技術関連企業など、あらゆる分野、機関をまたぎつつ全体を統合することで、マスク政策は一歩進んだものになりました。

――世界で注目されたマスク在庫マップも、タンさんが主導したものですね。

マスクの実名販売制を進めた際、最初はコンビニだけでマスクを販売したのですが、どこのコンビニにどれだけの在庫があるのかがわからないために混乱が起こりました。そのときに、1人の市民が近隣店舗のマスク在庫状況を調べて地図アプリで公開したのです。

私はそれをチャットアプリ「スラック」で知りました。政府の情報公開やデジタル化を推進するスラック上のチャンネルには8000人以上のシビックハッカー(政府が公開したデータを活用してアプリやサービスを開発する市民プログラマー)が参加しています。私がマスク在庫マップを作ることを提案し、行政がマスクの流通・在庫データを一般公開すると、シビックハッカーたちが協力して、どこの店舗にどれだけのマスクの在庫があるかがリアルタイムでわかる地図アプリを開発したのです。これによって、誰もが効率的にマスクを購入できるようになりました。

デジタル民主主義の力で抑え込みに大成功

■78歳のIT大臣でも年齢が問題なのではない

――タンさんは16年に35歳の若さでデジタル担当大臣に就任しました。一方、日本では78歳のIT大臣が話題になりましたが、その適性を疑問視する声もあります。

78歳というと私の父と同世代ですね。しかし、年配のIT大臣は決して悪いものではないと思います。今の行政院長(日本の首相に当たる)の蘇貞昌(そていしょう)も73歳と決して若くはありません。しかし、彼に何かを説明したときに「もう1度言ってくれ」と聞き返されたことはありません。頭は非常にクリアです。そういう人が身近にいますから、私は年齢で適正を判断すべきとは思っていないのです。

台湾では「青銀共創」という試みが盛んです。若者(青)と高齢者(銀)がお互いに学び合って、共同でイノベーションを起こそうというわけです。高齢者は若者からデジタル社会とどう接したらいいかを学び、若者は高齢者から知恵や経験を学びます。互いにわからないことがあるからこそ、そこにイノベーションが起こるのです。

若者とシルバー世代には、それぞれ異なった角度からの見方があります。それを結合させた例が、経済復興対策として発行された三倍振興券です。この振興券は、紙のチケットで欲しい人は紙でもらい、クレジットカードを使い慣れているならカードに情報を載せて使えるようにしました。二者の選択の割合は半々くらいです。この振興券を作るときに若者と高齢者が共同でアイデアを出す場がなかったら、どちらか一方のやり方だけになって、残り半分は置き去りにされていたかもしれません。これは看過できないことです。

重要なのは、どうすれば全世代が一緒に政策をつくっていけるかを考えることなのです。

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