記事
  • WEDGE Infinity

揺れる香港 揺さぶる中国 未来を変える日本の〝決断〟 迫る周庭氏への量刑言い渡し - 楊 建利 (米NGO「公民力量」主宰者)

1/2

2012年は周庭と習近平にとって決定的な年だったと言えるだろう。

[画像をブログで見る]

その年、当時15歳の高校生だった周庭は香港の社会運動にデビューし、反国民教育運動の重要なメンバーになった。これは「徳育と国民教育」の教科の導入に反対し、中国共産党による愛国主義の注入と洗脳に抵抗する団体「学民思潮」が主導した中高生中心の運動である。周庭は後に「学民の女神」になった。

同じ頃、習近平は中国共産党の最高権力者へと昇りつめようとしていたが、周庭や反国民教育運動のことは視野には入っていなかっただろう。彼は、江沢民、共青団、薄熙来・周永康グループの少なくとも三つの党内の派閥から軽視されると同時に、挑戦されてもいた。すべての段階を正しく踏まなければ、それまでの努力が水泡に帰すことになる。政治闘争に精通していた習近平は幸運にも恵まれ、その年の11月に開催された中国共産党第18回全国代表大会で共産党の権力における最高位を獲得した。

就任したばかりの習近平は、前任者を超えるという大きな野心をまだ明らかにしていなかったが、その後、「反腐敗」(汚職対策)キャンペーンを開始し、チャイナ・ウォッチャーらを驚かせるとともに、権力基盤を強固にした。同時に習近平は、イデオロギーの分野で反撃を開始して左に旋回し、文化大革命のような特徴を備えた国家による政治的教化と統制を復活させた。13年春、共産党は「9号文件」という秘密文書を幹部に配布した。そこには人権などの普遍的価値・司法の独立・報道の自由・市民社会・特権資産階級・中国共産党の歴史的過ち・改革開放政策への疑いの七つの項目について、話してはならないという内容が記されていた。その影響は社会全体に広がり、当然香港にも及んだ。

14年の雨傘運動以前は、中国本土の政治情勢がどれほど耐え難いものであっても、香港の人々は強い信念を持っていた。だが、普通選挙の導入を求める雨傘運動の失敗によって、この信念は揺らいだ。香港の人々は、習近平政治の下で、より大きな民主的権利のために戦う望みはほとんどないと認識した。中国が香港のようになるのではなく、香港がますます中国のようになりかねないのだ。

周庭は、学校を休んでまで雨傘運動に参加した。運動で挫折を経験した後、彼女は羅冠聡、黄之鋒らと「香港衆志」を設立し、活動を続けた。それ以来、香港の民主化運動は防衛戦の様相が強まっている。香港の自由、法の支配、市民社会を擁護する、すなわち、香港の政治的・文化的アイデンティティを守ることに力を注いでいる。

習近平は、最後まで政治的抑圧を続けることを決意している。雨傘運動を封じ込めたという成功体験は、間違いなく習近平の政治的圧迫を促した。15年7月の「709事件」(300人以上とも言われる人権派弁護士や活動家を一斉に取り締まった事件)で市民社会への弾圧を開始し、政治の空気を極限まで引き締め、インターネットの言論空間を厳しく制御し、国民全体を究極のレベルまで監視するようになった。そして習近平は、毛沢東に匹敵する「偉大な指導者」となろうとして、国家主席の終身制を復活させた。

経済不得意の習氏
企業からの略奪が増える理由

習近平は政治面で運が良かったのに対して、経済面の運は非常に悪いと言える。江沢民・胡錦濤時代に蓄積された経済の病が顕在化し、景気後退が始まっているからだ。政治が得意な習近平は、経済は得意ではない。

習近平の反腐敗政策は資本の抑制にまで及ぶ。彼は、共産党の特権により蓄積された富と資本の没収と管理は当然であり、新たな官民合同経営と権力の市場への介入が必要不可欠だと考えている。また、多くの資源を管理する民間部門が政権に脅威を与えるのではないかと、懸念も抱いている。

財源の枯渇と安定性を維持する費用の高額化により、権力が中産階級や民営企業といった民間部門から略奪する傾向はますます強まっている。これは、共産党統治の社会的基盤、つまり政治的エリート、経済的エリート、社会的エリートの集合体の解体を意味するものであり、習近平は改革開放時代以来、共産党が買収してきた社会的基盤を失い始め、その結果、彼の統治は、政治的に高い圧力をかけてしか維持できないもろい構造になった。

天安門事件以降、揺らぎ続けている共産党政権は、統治の優位性を維持するために二つの正統性の源泉に依存してきた。一つは急速な経済発展で、共産党の統治はこれによって、上述の社会的基盤を確立した。もう一つはナショナリズムである。景気後退は、第一の正統性の源泉を徐々に枯渇させ、習近平は、中国が世界第二の経済大国であるという共産党の言説に沿って、第二の正統性の源泉であるナショナリズムにますます依存しなければならなくなった。

これは何よりもまず、外部に向けた権力の拡大と、支配の強化を意味する。世界を支配するための赤い帝国の設立は、まさに習近平の中国の夢であり、一帯一路、南シナ海による軍拡などが示すように、習近平はおのずと外部への拡大の道を突き進んでいる。

だが、習近平の覇権と積極的な外交によって、共産党は現在、改革開放時代以降、最も深刻な外交リスクを経験している。

共産党の政治言説における内部に向けてのナショナリズムには、大漢民族主義が表れている。習近平は人口の92%を占める漢民族の国民感情を動員し、権力を強化するためには、「反逆心」を持つ民族や地域を抑圧するか、排除しなければならないと考えている。習近平政権は、チベット族、ウイグル族、モンゴル族に対して前政権とは比較にならないほど残酷な文化的絶滅を、「政治的異郷」である香港には政治文化の絶滅を実行しようとしている。

香港の逃亡犯条例改正案に反対する抗議デモにおいて、自らの政治的および文化的アイデンティティを擁護しようとする香港の人々の決意を目の当たりにした習近平は、それを容認できず、20年7月1日に「香港国家安全維持法」を強制的に施行した。抗議デモで既に三度逮捕されていた周庭は、8月10日、またしても香港警察に逮捕された。11月23日に香港で裁判が開かれ、即日収監された。12月2日、彼女が誕生日を迎える前日に量刑が言い渡される。

あわせて読みたい

「香港デモ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    不安煽るワクチン報道に医師呆れ

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    極限の克行氏 真相供述で逆転か

    郷原信郎

  3. 3

    老害タグを茂木健一郎氏が批判

    BLOGOS しらべる部

  4. 4

    電通本社ビル売却検討 何が衝撃?

    かさこ

  5. 5

    五輪中止で32年開催狙うか 英紙

    ロイター

  6. 6

    政治に怒らぬ若者 そのワケは?

    BLOGOS編集部PR企画

  7. 7

    河野大臣 本人確認の不便さ指摘

    河野太郎

  8. 8

    「もう終わりだ」Qアノンの落胆

    Rolling Stone Japan

  9. 9

    ワクチン接種した日本人の感想は

    木村正人

  10. 10

    なぜ国会議員は居眠りするのか

    千正康裕

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。