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「首相肝煎り」が見え隠れする日銀の"地銀救済"金利上乗せ策に、明るい未来が見えない理由

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日銀による「再編資金支援」は、国庫金迂回の国民目くらまし策

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「日銀が地銀再編に資金支援」という不可思議な報道がありました。日本銀行(以下日銀)が経営統合や経費削減に取り組んだ地方銀行および信用金庫に対して、この先3年間日銀に預ける当座預金に年0.1%の上乗せ金利を付けるというものです。

噛み砕いて申し上げると、現在金融機関の日銀への預け入れ金利がマイナス0.1%というマイナス金利政策に苦しんでいる地銀に対して、「3年以内に統合・合併したらマイナス金利を勘弁してあげます」という過去に類を見ない、日銀らしからぬ政策なのです。

しかも、金融政策当局であるはずの日銀が、「これは金融システムの安定を目的としたものであり、金融政策ではない」といっているというのですから、わけが分かりません。

なぜこんな不可思議な政策が日銀から打ち出されたのでしょう。恐らくは、菅義偉首相が就任時に「地銀は数が多すぎる」「統合も有力な選択肢のひとつ」と公言して、携帯電話料金の引き下げと並ぶ新政権の「二大政策」のひとつとして掲げた地銀再編を押し進めるべく、日銀に後押し協力を求めたか、あるいは日銀が新政権に忖度し菅首相に進言した結果ではないかと考えられます。

では、なぜ日銀なのか。本来、地銀再編を強力に押し進める政策なら、政府自らの政策として手掛けるべきであり、首相の意向もその方向にはあったのでしょう。しかしながら、政府自らが本政策を手掛けると税金で地銀の支援をすることとなり、世論の反発は避けられません。

そこで、何としても本施策を実現すべく関係各方面と相談した苦肉の策として、日銀預金への上乗せ金利付与ということに落ち着いたのでしょう。迂回策ですから違和感が出るのは当然です。

一言付け加えれば、日銀の余剰金は国庫算入されるので、それを削ることは結果的には税金投入に変わりなく、うわべを隠す国民への目くらまし策であるともいえます。

携帯料金値下げ、NHK受信料引き下げ…本筋を欠く政策

AP

さて、本政策の評価ですが、地銀の頭取方は日銀および裏で糸を引く政府に気を遣ってか、表向きは「インセンティブを付けた政策を実施してくれるのはありがたい」(横浜銀行大矢恭好頭取)、「決定的な要因にはならないが、後押しする効果はありそう」(泉州銀行鵜川淳頭取)、「結果的な支援にはなると思う」(佐賀銀行坂井秀明頭取)と無難なコメントを出してはいます。

しかし、地銀幹部の匿名コメントでは一転して、「これを理由に再編に動くわけがない」「制度ありきで再編させようなどナンセンス」と手厳しい評価が噴出しています。

私からも地銀幹部の皆様方に代わって、過去に地銀界に身を置いた者として感想を申し上げれば、本件は発想があまりに稚拙であると思います。

要するに、菅首相がぶちあげている携帯電話料金の値下げや、NHK受信料の引き下げ要請と同じく、目先の金銭付与的な施策は一時の注目を集めることにはなっても、根本的な問題点の解決にはつながらない、ということに尽きるからです。

携帯電話料金の引き下げ要請が、我が国が国際的に後れをとっている5G問題や、この先の6G投資をどうするのかについてまで目を向けていない近視眼的であること、NHK受信料値下げ要請が、そもそも21世紀における公共放送の役割見直しによる組織改編等での料金引き下げに言及せず問題の本筋を欠いていることと、地銀再生に向け統合に動いた地銀に上乗せ金利を提供することは、目先重視で本質的な解決策を提示していないという意味で同列なのです。

地銀が求めているのは目先の金利ではなく新たなビジネスモデル

今回の件を例えて申し上げるなら、痛みを伴う病に悩みつつも明確な治療法が見えず手術を躊躇している病人に、「術後の処置方法に知識はないが一定期間だけは確実に痛みが和らぐので手術をしなさい」と勧めるようなものです。

いかに病に臥せっていようとも、術後一定期間の苦痛緩和だけしか期待できない状況で、失敗もありうる手術を決断できますか。

今地銀にとって欲しいものは目先の金利収入ではなく、地域で預金を集めて融資をする利ざや商売という限界を迎えたビジネスモデルから脱却するための、新たなビジネスモデルのアイデアであり知恵なのです。

地銀レベルのノウハウや人脈では達成できないような、異業種とのコラボレーションであるとか、新規事業分野への進出であるとか、政府という日本の頭脳中枢に求めるものはそういったレベルであり、少なくともその場しのぎの飴玉的上乗せ金利ではないはずです。

どんな飴玉を用意しようとも、飴玉は舐めきったらそれで終わり、決して「腹の足し」にはならない、ということに地銀経営者は既に気が付いていることを、政府、日銀は正しく認識すべきと考えます。

地銀再編そのものが”時限爆弾”になる懸念も

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本政策にはもうひとつ着目すべき点があります。今回の金利上乗せ条件は、経営統合・合併以外にもあって、一定の経費削減率の達成がそれです。この場合、経営統合・合併の有無に関係なく上乗せ金利が付与されます。

現状、過去の実績に照らした日銀の試算では、経費削減率を満たすのは全体の約1割程度ではないかと見ています。この約1割は、早くからOHR(業務粗利益に占める営業経費の割合)を意識した経営をしてきた地銀上位行であると想定され、見方によっては比較的経営状態の良い上位行へのご褒美とも映ります。

先の横浜銀行大矢頭取の「インセンティブを付けた政策を実施してくれるのはありがたい」という発言が何よりそれを裏付けているといえるでしょう。

問題は経営状態の悪化が著しい第一地銀中下位行、ならびに旧相互銀行でそもそも経営基盤の弱い第二地銀各行です。

上位行が経費削減率の達成により今回のインセンティブを受けることで経営基盤が一層安定するなら、彼らは地銀再編の枠組み候補から早々に脱却をはかることになると考えられます。自行の経営が安定している状況下で、誰も好き好んで経営状況の悪い銀行と経営統合しようとは思わないはずですから。

そうなると首相の肝煎りで、政府が旗を振る地銀再編は「負け組連合」にならざるを得ず、地銀再編そのものが地域に金融不安の時限爆弾を抱えさせることにもなりかねないのです。

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