11月2日午後2時45分、東京都小金井市の住宅街の路上。黒い帽子に黒いブルゾン姿で自転車に乗った老人が、10歳の女児を追い抜きざま、後頭部にツバを「ペッ」と吐き掛けた。直後、周辺にいた男たちは一斉に自転車を乗り捨てると、老人に駆け寄った――。
「子供が道に広がっていて邪魔だった」
“ツバ吐き”の暴行容疑で現行犯逮捕されたのは小池豊容疑者(78)。少し離れた場所で女児2人が保護され、鑑識員が地面から証拠となる唾液を探していた。
「付近では9月下旬から同様の被害が少なくとも6件発生し、私服警官が警戒している真っ只中だった。小池は『子供が道に広がっていて邪魔だった。注意喚起のつもりだった』と動機を語っている」(社会部記者)
府中署から出る小池容疑者(NNNより)
被害女児を知るPTA関係者がこう憤る。
「女児2人は小学校から下校途中で道路の端を歩き、広がってなどいなかった。男は何も言わずに背後から近づき、女児は『ペッ』という音で気付いたそうです」
幼稚園の理事長を27年間務めていた“教育者”
この小池は府中市の私立「府中新町幼稚園」の理事長を27年間務め、市から教育功労賞も授与された“教育者”。園の教育方針は「生き生きと明るく、心身共に健康な子で、知・情・意バランスのとれた子に教育します」というものだ。
現場は自宅から約500メートルの距離にあり、さらに徒歩で約10分先に幼稚園がある。近隣住民の証言。
「黒いママチャリで出かける姿をたまに見かけましたが、挨拶をしても返事をしない、変わった人です」
また、幼稚園を卒園した児童はこう振り返る。
「ピアノがすごい上手な優しい先生。私たちが歌う時は『口をラッパみたいに開けて!』と言っていました」
東京藝大ではどんな学生だったのか
実は小池は“声楽家”の顔も持っていた。東京藝術大学声楽科を卒業後、複数のコンクールに入賞し、オペラの舞台でも活躍。かつては音大で講師を務め、自身の歌と演奏を旧姓で動画サイトに投稿していた。
近所の男性が証言する。
「小池さんは入り婿で、幼稚園は山梨で音楽教師をしていた義父が上京して設立。自宅には音楽アカデミーが併設されており、結婚を機にこのアカデミーでも教えるようになったようです」
アカデミーは1964年に全国唯一の音大受験予備校として創立され、現在は小池が学院長を務めている。
東京藝大の同級生が、当時の印象を語る。
「彼はバスの担当で、いい声をしていた。男子学生は少ないので連帯感がありましたが、彼はいつもその輪からは外れていて、友達と関わろうとしませんでした」
逮捕時はハゲていたが……
前出の近所の男性は、こう首を傾げた。
「以前は飼い犬2匹とよく散歩し、犬に『可愛いね』と話しかけていました。しかし数年前に2匹とも亡くなり、『ペットロスだ』と人とも話すようになった。奥さんが留守がちで、『自転車で3時間かけて多摩川まで行ってきた』とも。お孫さんもいて、子ども嫌いではないはずですが……」
さらに驚いたことも。
「逮捕時のニュースで禿げた彼が映っていたけど、髪のある姿か帽子姿しか見たことがなかった」(同前)
立派なキャリアに吐いたツバは、もう飲み込めない。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年11月19日号)