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田中真紀子大学不認可騒動をメディア論的にまとめてみる(前編)

田中真紀子文部科学大臣が秋田公立美術大学、札幌保健医療大学、岡崎女子大の三大学の設置を不認可した騒動。結局、田中大臣としてはこれを認可する方向で決着を見たのだけれど、この騒動(あまりに茶番なので、あえて”事件”とは呼ばないことにする)、いったい何だっただろうか?今回は事が収まったこの時点で、これをメディア論的視点から整理してみたい。

まずはおさらい。 2日、田中大臣が申請していた三大学の新設を突如、認めないと表明 6日、新基準に照らし合わせて再検討すると発言を変更 7日、不認可を撤回 8日、三大学の新設を認可。ただし、大学の問題を認知させるためにはよい宣伝になったといった文脈で釈明し、今回の騒動には「誤解」が生じたが、大学が置かれている問題の判断については誤りはなかったといった文脈で押し通した。

要するに田中真紀子は立場を二転三転させたわけだが、でもなぜなんだろう?僕は田中真紀子は、立場を二転三転させたように見えて、実は首尾一貫していると見ている。ただし「悪い意味で」。

田中真紀子は大学を改革したかった、でも無知だった

田中は大学が現在置かれている現状について苦々しく思っていた。私学の半分が定員割れ、学力も全般的に低下している。本人が指摘するように大学数の肥大と教育の質の低下を問題視していたのだ。一方、自らの立場についても窮状にあった。かつての名声が地に落ち、盤石と思われていた議員の地位も危うい状況に落ち込まれたからだ。そんなときに文部科学大臣への就任。ここは起死回生の一打を打ち込むチャンス。そこで、この大学問題にメスを入れ、これを社会問題とすることで自らの場所を確保しようとしたのだが……。

まあ、本人の保身の問題はとりあえず脇に置いておこう。大学の設置基準に問題があることは確かだから、これ自体を田中真紀子が改革しようとする姿勢自体は、しごく「あたりまえ」だ。しかし、問題があった。それは、田中がこの分野について「ほとんど無知」であったことだ。そして、それが波紋を呼ぶことになる。

91年の大学設置基準緩和により、新設は以前に比べれば容易になり、その結果、大学数は1.5倍に膨れあがった。それによって30%台だった大学進学率は5割を突破し、今や6割に達しようとしている。だが、それは必然的に供給過多という状態を産む。その結果、前述したように定員割れの大学が続出し、学生を確保しようと、入試とも思えぬような入試制度(AO入試のような)で高校生が進学。大学生の学力は大幅に低下した。こんな状態だから、大学という組織は、国家レベルで設定し直すことに早急に取り組まなければならない課題となっている。

そこで田中真紀子は考えた。

「だったら、今から新設大学を認可しなければいい」

で、当該の三校を不認可にした。ただし、これは二つの点で問題があった。そして、この問題点はいずれも田中真紀子の「無知」から発生したものだった。

認可のしきたりを知らず、大臣の地位を振り回した

一つは、田中が認可の「しきたり」を全く知らなかったことだ。文科省の大学設置基準は改正後、緩くなったとはいえ、それでもかなり大変。設置(とりわけ新設)する場合には、こまごまとした手続きをクリアし続けなければならない(やたらとチェックが入る)。これをやって、設置する側が文科省に「本気」であることを示し続ける必要がある。ちなみに「認可されてもいないのに校舎の建設を前倒しでやるなんてのはどうかしている」というマヌケな指摘もあったが、実はこうやらなければならない(つまり「本気を見せなければならない」)事情というものがあるのだ(ちなみに、この「事情」は認可したら翌年から開校という妙ちくりんな状態が一般的になっているから発生することでもある)。

もちろん、文科省は「校舎を建てておけなければ認可しない」とは言っていない。むしろ、前倒しで校舎を建設し始めるころには、文科省と設置する学校法人の間には、事実上の「認可」=内定が出ている状態で、文部科学大臣はこれにメクラ版を押すというのがしきたりだったのだ。ということは、大学を設置する側とすれば文科省のお役人の仰せの通りにすれば認可は下りる。そしてその通りにしてきたから、もはや安泰と考えていたのだ。そして、おそらく文科省の役人もそのつもりだった。

そこにド素人の田中真紀子の登場である。「大学を改革せねば」「票を回復せねば」という思いが、なぜか、こうやってお膳立てが全て済まされた学校法人を狙い撃ちにしたのである。もちろん、最終の決定権は大臣にあるわけで「理屈」としては間違ってはいない。しかし、これはどうみても「道理」が通っていない。それは要するに田中が全く「空気を読めない」、いや「無知」だからに他ならない(もし、やるんなら「今年を最後に認可の基準を改正する」とやるべきなのだ)。

三大学と大学の質の間に因果関係を見ることはできない!

もう一つは田中が「掘る穴を間違えている」ことだ。大学の教育の質の低下を田中は問題視しているが、この問題と認可を取り消した三大学の因果関係は全くといってよいほどない。なぜって、この三大学は開校していないのだから質的に良いか悪いかは全く未知数だからだ(秋田公立美術大学などは、数少ない公立の美術大学となるわけで、完全なニッチな分野。人気を獲得し、質の高い受験生が集まる可能性は高いだろう)。掘る穴、つまり問題視すべきところは、既存の体たらくな状況にある大学であるはずだ。

ということは田中真紀子が刃を向く対象はこちら。だから、こちらにしても「私が文部科学大臣になったからには、これから大学教育の基準を見直し、あるいは既存の大学教育を精査し、大学を整理して、その質の向上をあげていく」とすべき。つまり、既存の「体たらく大学」に宣戦布告すべきなのだ。

ところが、このことも無知ゆえに、全く気がついていなかった。その後、「不認可」を「再検討」、そして「認可」と発言を変更していったのは、騒動を起こした後、文科省の役人たちが田中に大学の事情を説明し、たしなめたからであるのは、素人目にも察せられる。ただし、そのまんま「すんません、知りませんでした」では、事はエラいことになる。任命権者の任命責任が問われるし(つまりこちらの方面のド素人を採用してしまったとは何事だ!)、第一それじゃあ田中真紀子が自分の無知を認めたことになる。

そこで田中は本来のねらいである「大学が現在問題であることを指摘しようとした」と釈明し、問題の判断に誤りがなかったこと、そして今回の騒動で大学のことを問題視するにはよい宣伝になったとの発言をし、開き直ったのだ。

そう、田中は美しかった(票が欲しければ「醜かった」)。大学をよくしようとしたのだ。でも、残念ながら無知だった。だから、騒動が起きた。

この騒動の原因は田中真紀子個人に収斂しない!

しかし、この騒動が勃発した理由。僕は必ずしも田中真紀子だけにその原因を押しつけるつもりはない。というのも、そもそも分相応でないポストを民主党が与えたからこそ、こうなったのだから。でも、民主党としては田中をここに任命する必要を感じていたからそうしたのだけれど。

そして、この田中を大臣に任命する構造こそ、実はきわめてメディア的な問題といえるのだ。言い換えれば、メディア的にも田中は大臣に据えられなければならないというポジションにいる。それが、こういった騒動を勃発させるのだ。つまり、メディアにも責任がある。いや、大いに、ある!では、それは何か?(続く)

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