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意見広告は「嘘」でも許容されるのか?

<日本を否定することが正義であるとする戦後レジームの「遺物」は、即刻廃止すべきです。国家機関である日本学術会議は、その代表格です>

こういう書き出しで、学術会議の廃止を主張する大胆な主張が読売、日経、産経の三紙の朝刊に載ったのは1ヶ月前の10月23日でした。

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翌々日の25日の朝日新聞には「真理探究への政治介入に反対する」と題し、学術会議の会員任命拒否は間違いだとする主張が掲載されました。

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もちろん、これは各紙の記者が書いたものではないし、各社の社論そのものでもありません。前者は桜井よしこさんが理事長の国家基本問題研究所が、後者は宗教法人生長の家が、お金を払って、新聞のスペースを買って掲載した「意見広告」です。

このように、新聞には事実報道だけでなく、外部の人々にも意見表明する機会を提供する機能もあるわけです。お金と引き換えに。

しかし、お金さえ払えば、表現の自由を盾に、どんなことでも許容されるわけではないでしょう。そういう主張を先週、ネットで見かけました。私は重要な問題提起だと思い、議論が広まるかと毎日、ウィッチしていたのですが、不発のようです。残念なので、その件を記録しておきます。

問題提起したのは、2ヶ月前ほどの当ブログ「新聞に取って代わると宣言するSubstackの威力」で紹介した人気ニューズレター(メルマガ)「HEATED」を発行するEmily Atkinさんです。このメルマガは気候変動、地球温暖化に警鐘を鳴らす内容で、2ヶ月前の時点で読者2万人、うち年間75ドルの有料読者2000人を抱え、単純計算で15万ドルを稼ぐ人気ライターの一人です。

その彼女が18日付けのメルマガで槍玉に挙げたのはワシントンポスト11月9日付けの21ページ目全面を使った意見広告でした。その上部はこんな風です。(Atkinさんの記事にあったスクリーンショットの一部を拝借しました)

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見出しは「神話と嘘」。化石燃料の使用は気温や気候に影響なぞ与えていない、という主張が延々と綴られワード数は1421に及んでいるそう。

書いたのはテキサス州在住の麻酔医Lawrence Gelman氏。自身が行った多くの研究の結果、そうした確信を得たとのこと。Natureはじめ、5つの著名科学誌を列記し「これらは正当なものだと考えていない」とか、「気候科学者はcharlatans(専門知識があるように見せかける山師)だ」と罵るなど言いたい放題のよう。広告料金は2万5千ドル(260万円強)だったそう。

これに対しAtkinさんは「彼はclimate truther(証拠もなしに気候変動はでっち上げだと信じる人)」とやり返します。そして「こうしたclimate trutherの見解を掲載しないことが最も評判の高い新聞の編集方針のはずだ。なぜなら彼らは基本的に虚偽に基づいているからだ」と主張します。

Postに対して「Postは気候変動がすでに人生を変えるものになっていることを文章化してピューリツァー賞を取ったではないか!」「真実を追求し、害を最小限に抑えることは倫理的ジャーナリズムの大原則だ。それは倫理的な広告の重要な原則でもあるはずだ」と責め立てるのです。

さらに「Postはタバコを吸うことがガンを起こさないと主張したり、マスク着用がコロナウィルスを食い止める助けにならないと主張する全面広告を認めるのか。もしそうでないなら気候変動を否定する広告と何が違うのか」と痛快な追求です。こういう書きっぷりが人気なのかも。

Atkinさんは地球温暖化について発言しているハーバード大学のNaomi Oreskes教授の「Gelman氏の広告は好ましくない意見とか非難されるべき意見ではなく、完全な嘘の広告であり違法だ」との発言を紹介し、こう続けます。

「新聞が嘘を広めることで利益を得ることが出来るなら、国民は彼らを真実を伝える権威者として信頼することが出来るのか?」

Oreskes教授は「編集者がこれについて真剣な議論をするのを見たい」「編集者が問題だと見ていると私に個人的に語った。しかし、公に議論したかどうかは知らない」と述べたそう。

そこで、当方も議論が公になるのを待っていたのですが、今日に至るまで、その続報を目にしていません。見逃しているかもしれませんが。臭いものに蓋ってことじゃないことを祈ります。Postは痛いところをAtkinさんに突かれぐうの音も出ないのかもしれませんが。

余談ですが、Oreskes教授の「嘘の広告は違法」という発言で、IP電話用のサーバーの権利を売るとして盛んに新聞広告を出し200億円以上を集めて2006年に破産した近未来通信のことを思い出しました。その社長石井優は2億円以上を持って逃走、いまだに行方不明だそうです。嘘の片棒を担いだ新聞の責任は問われないままでした。

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