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きゃりーぱみゅぱみゅは「不思議ちゃん」なのか:松谷創一郎「ギャルと不思議ちゃん論」

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「怖ろしい本だ」――。
これが本書を読み出して最初に思った感想である。

BOOK
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ギャルと不思議ちゃん論: 女の子たちの三十年戦争 posted with amazlet at 12.11.05
松谷 創一郎
原書房


なにが怖ろしいのか。
一番は著者が行ったリサーチ量なのかもしれないが、それと同等の驚きが、本書を書いたのが男性であるという事実である。

これを読む前には、このネタを当事者目線で語れる女性ライターが書けばリアリティがありそうでいいのにな、と思っていたのだが、読み進めて30分もせずにその想定が甘すぎたことを知ることとなる。ちなみに、それを知ったときには若干の寒気がしたことを覚えている。

こういった文化に全く興味を持って来なかった私にとって、なるべく客観的に女子文化を整理してくれる本書は非常に読みやすかった。なにせ、松谷創一郎という男性の目線は、ジェンダーからも客観的なのだから(ここが寒気がするほど怖ろしかった点)。

本書の構成の特徴は、各章立てがあり、その合間に著者自身の体験ベースで女子文化について述べているコラムがあるというものだが、その構成ゆえに著者の主観が本編に我が物顔で登場することを回避する努力がみられている。

合間のコラムは具体的記述ゆえに本人の体験ベースで語られることが多いため、まずは客観的に読みたい自分は後回しにして読んだが、コラム部分は直近20年のリアルな東京が語られている感じがして、こちらも面白かった。


本書のそうした構成の中にあっても、本編上で主観に基いて語られる主題がこのタイトルである「ギャル」と「不思議ちゃん」という対立概念だ。

ただ、そうしたことからも、本書の紹介文は

コギャル、アムラー、ガングロ、egg、蛯原友里、age嬢、戸川純、シノラー、裏原系、Olive、CUTiE、きゃりーぱみゅぱみゅ……80 年代前半から現在までを、ギャルと不思議ちゃんという視点で切り取ると、見えてきたものは。
女の子たちの生存戦略の30年史をときあかす。


となっているのだが、ここから「見えてきたもの」を取り出すのはなかなかに難しい。

そこで私は本書を「不思議ちゃん」という存在・概念を整理するために「ギャル」概念を利用したものだとして読み進めていった。
(またいつものように、記事をシェアしていただける方はコチラからお願いできると幸いです。)

「”不思議ちゃん”とはなにか」の前に

本書の第3章「不思議ちゃんとはなにか」で、著者はまずはじめに篠原ともえを取り上げる。
1996年ごろにブレイクした彼女はキッチュなファッションに身を包み、ランドセルを背負っては「くるくるぅ~」や「グフー」などと独特の奇声を上げながらハイテンションで人気音楽番組「LOVE LOVEあいしてる」にもレギュラー出演。

彼女は当時、女子高生真っ只中。そして、この時期はまさに「コギャル」全盛期だった。
1995年からソロ活動を始めた安室奈美恵は小室プロデュースのもとヒットを飛ばし、「アムラー」と呼ばれる彼女のファッションを模倣した女子高生は、学校が終わったあとはミニスカ・厚底ブーツといった出で立ちで、茶髪に小麦色の肌を見せつけていた。

著者によれば、この頃の渋谷は彼女らがこの時期に集まっていた場所であるという。
80年代初期から始まったディスコブームでは、ディスコを借り切って大学生がパーティーチケットを売りさばき、この大学生文化が高校生にも浸透していく。
それはおもに都内私立高校の男子生徒が中心となって始められ、90年代に入ると今度はこれがクラブに拡がっていく。

このような高校生主体のパーティーを仕切っていた集団は「チーマー」と呼ばれる。
その名の通りチームを組んで都市に集まる彼らは、都内の私立大学付属校などの有名私立学校などに通う。バブル期ということもあり、彼らの親の可処分所得も低くなかった。
これらの属性は彼らに選民的な思想を抱かせ、これがチームの結束を保証することを可能にしたという。

そうした彼らが集まったのが渋谷だった。
彼らはセンター街にたむろし、ナンパを繰り広げた。
チームのメンバーの多くは男子生徒であったが、そのナンパの成果もあって一部には女性もおり、やがてチームに属していた女子高生も彼女らで集団性を帯び、コギャルと呼ばれるようになった。

コギャルという語がメディアで使われ出したのは1993年からだが、その少し前から彼女らは「ブルセラ女子高生」として注目が集まっていた。
そして、これが冒頭で触れた寒気ポイントの1つなのだが、当時のコギャル文化の盛り上がりと「男性の”少女”欲求の高まり」がリンクしているのだと著者は論じている。


ちょっと遠回りすると、この文脈を説明するために著者が持ち出さしたのが「前時代的な少女」という概念であった。

たかだか100年前の日本において、「少女」に課せられる規範は「良妻賢母」を目指してもらうための、結婚までの純潔な「処女性」であった。
当時にはそれを担保するための「姦通罪」という法的なサポートも存在していたことも、その主張を補強していると著者は示唆している。

当時の女学生たちを「賢母良妻たらしむるの素養を為す」ための教育は、長男を家長として資産相続することを法で定めた近代家父長制下において、安定的に国民を再生産するための社会装置として機能した。

とはいえ、タテマエとしてそうはありながらも、この13~18歳の女性らはその身体を性的に用いることが可能なのである。(その使用を「抑圧されている」事態は、前近代ではありえなかったことであると評論家の大塚英志は指摘する。)
前近代に存在したのは「性的に未成熟な幼女と成熟した女の2種類だけ」だったにもかかわらず、その中間に「モラトリアムな存在」として誕生させられたのが近代化の結果として生じた(前時代的な)「少女」である。

若干遠回りしたが、この近代化以降、100年ほど続いてきたこの(前時代的な)「少女」という抑圧的な”タテマエ”が機能しなくなった結果として登場するのが、「コギャル」の前兆なのではないかと著者は指摘していた。


そして、この幻想ともいえる「少女」感と、この「タテマエ」をわかりやすく大衆の面前で暴露したのがドラマ「高校教師」(1993)。この幻想の崩壊とともに現れたのが「コギャル」であった。

純粋な”少女”と、彼女たちに欲情する成人男性――この構図を噛み砕いて言えば、「いたいけな”少女”を手篭めにする卑猥なオジサン」というものだ。
『高校教師』で注目されたのは、「実は性的な存在である”少女”」だけでなく、彼女たちに性的なまなざしを向ける成人男性たちでもあったのだ。


著者は「コギャル」の存在を、そうした「”少女”概念内にいる自身の立ち位置にも自覚的な存在」=「メタ少女」と表現している。
彼女らは、社会的な「少女」認識が崩壊していく過程における「コギャル自身」と「周囲の大人が持つ”少女”観」とのギャップまでをも認知する存在だったというのだ。

女子高生の性体験率が上昇し、「ブルセラ写真」「援助交際」がマスメディアを踊らせる中、「少女」タテマエの崩壊に動揺する様々な大人からの注目を浴びることで「コギャル」ムーブメントは盛り上がっていったと著者は指摘する。


そして、自分もオトコとして寒気がするほど残念であった、コギャルも認知するこの「性的なまなざしを向ける成人男性」というものが、本書で「ギャルと不思議ちゃん」を分かつ上で絡んでくる要素である。

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