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条約の交渉入り

 最近、TPPの話をしていると「交渉入りに際して、国会での採決を求めるべきだ」という論調があることを聞きました。尤もらしく聞こえるところがあるかもしれませんが、これは全く筋違いなことなのです。

 TPPというのは、国際条約の形態を取ります。そもそも、日本国憲法上、条約交渉については行政の専権事項ということになります。国会の関与はあくまでも承認であることから、国会が表明することのできる意思は「承認」、「不承認」のみであり、修正したりする権限は与えられていません。
【日本国憲法(抜粋)】

第七十三条  内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
(略)

三  条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。

 また、条約については、予算同様、衆議院の優越が認められています(ただし、予算と違って衆議院先議でなくてはならないということではない。)。これはできるだけ国際条約は国会に提出されたら、国際的な信義の観点から出来るだけ早く承認すべきものという推定が働いているからでしょう。
【日本国憲法(抜粋)】

第六十条

(略)
2  予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

第六十一条  条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。
 そういう意味で予算とも、法律とも違った位置付けにあるわけです。その観点から言えば、交渉から締結に至るプロセス全体が行政の専権事項であり、国会の関与は承認のみというふうに限定されていると言っていいのかもしれません。しかも、すべての国際約束が国会承認になるわけではなく、大平三原則と言われるものに当てはまるものだけが国会に上がってきます。そして、TPPは締結する際は国会承認条約となります。

 ということで、交渉入り自体は完全に行政の専権事項です。うちの党でのプロジェクト・チームでの討議も、あくまでも「交渉入りは行政の専権事項であることを前提に、それに対して意見を申し述べる」という位置付けでした。そこは賛成派、慎重派、すべての議員の共通理解であったと思います。

 そうやって考えると、国会で交渉入りするかどうかというのを侃々諤々議論して最終的に賛否を採決するというのは、そもそも現行日本国憲法が想定していないものです。「絶対にやってはいけないのか」と聞かれると、まあ、国会法上、国会議員は議案提出権がありますから、絶対にダメとまでは言えないような気がします。「TPPへの交渉入り」はこの「(国会法上の)議案」に当たると考えれば、衆議院で20人、参議院で10人の議員が集まればやれるわけですが、議案として提出するには慣例として政党の機関決定が必要となりますから、結局は提出されることすらないと思います。

 仮にやれることがあるとしたら、国会での「決議」かなと思います。「交渉入りすべからず」という決議を国会の意思として表明するということはあるだろうと思いますが、国会の通例上、それは全会一致でなくてはなりません。全会派で合意した決議を委員会又は本会議で全会一致で可決するのが常です。全会一致にならないものは決議とはならないでしょうから、この可能性もありません。

 そもそも論として、交渉入りするかどうかを一々国会の決議に伏していたら、行政の機動的な外交戦略が害されます。国会承認条約(になるであろう条約)だけでも、年間かなりの条約の交渉入りがあるわけでして、個々の条約交渉でそんな事をやるべきではありません(ただ、アメリカでは憲法上、通商交渉権限が議会にあるため、通商交渉に限定すれば議会の承認を取る必要があります。それは単に憲法制度の違いです。しかも、アメリカ以外でそんな体制の国はないはずです。)。

 やれる可能性が殆どないのに、「国会でTPP交渉入りの是非を採決すべきだ」という論陣を張るのは、単なるパフォーマンスの域を出ません。

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