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なぜ日本の野党は「誰からも相手にされない問題追及」しかできないのか

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2015年のいわゆる安保法制で、弁護士の倉持麟太郎さんは「違憲」の立場から国会論議にかかわった。しかし世論の高まりは限定的で、4カ月の論議を経て法案は可決された。倉持さんは「あのとき野党から魅力的な提案が出れば、事態は変わったかもしれない。提案から政治を動かす方法として、われわれは台湾の『シビック・テック』に学ぶべきだ」という――。

※本稿は、倉持麟太郎『リベラルの敵はリベラルにあり』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

安全保障関連法案に反対し、国会前で抗議するデモの参加者=2015年9月14日夜、東京・永田町 安全保障関連法案に反対し、国会前で抗議するデモの参加者=2015年9月14日夜、東京・永田町 - 写真=時事通信フォト

■安保法制可決、敗北でわかった「修正提案」の必要性

2015年9月19日に、いわゆる安保法制が参議院で可決された。法案審議のほぼ全過程にわたる4カ月間、私は、毎日朝から晩まで国会議論の分析にあたり、この法案の質疑にあたった野党議員たちと質問を作り続け、終盤には地方公聴会の参考人として自ら「違憲」の立場から陳述にも立った。忘れられない4カ月だっただけに、法案成立後は無力感に襲われた。

と同時に、後悔の念が払拭できなかった。それは、こちらが法案の欠陥を指摘・批判するだけに終始し、セカンドベストとしての修正提案ができなかったことだ。法案の欠陥をすべて改善し修正した条文を具体的に起案して、「政府の答弁を前提にするなら、本来こうした条文になるはずだ」と提示するべきだった。そのことによって、安保法制が抱えていた政策判断と政府答弁と条文の齟齬という大問題を可視化できたはずだし、法律家だからこそ可能な作業だった。

つまり、「条文上はできてしまうが、やりません。安心してください」といった類の答弁を連発していた政府に対して、「やるかやらないかがあなたの意思に左右されること自体が問題だ。誰が権力者であっても、できないことはできない法律にしてください」と迫るべきだったのだ。

■不特定多数を「動員」するには、シビック・テックを使え

しかし、野党からそうした提案がされることはなかった。野党は、「対案シンドロームに陥るな」「相手の土俵に乗る必要はない」「問題点を追及すれば十分だ」という姿勢を貫いており、残念ながらその姿勢を変えることはなかった。その意味で、与党と野党とは、安全保障政策の方向性は違えども、「法の支配」の軽視、立法府としての役割不全という点では同じ穴のムジナだった。

いくら高度で正しい議論がなされていても、建設的な提案のないところに、人々は寄ってこない。裏を返せば、より魅力的な提案が出れば、人々は関心を持ち集まってくるのだ。具体的行動に結び付けることなしに政治は動かない。

組織に頼らずとも不特定多数を「動員」できるのがオンラインやソーシャルメディアの強みだとすれば、自らコンテンツを作っていくためのプラットフォームの構築に、デジタル動員の力を使わせてもらえばよい。

そのためには、シビック・テックの力が必要だ。シビック・テック(Civic Tech)とは、シビック(Civic:市民)とテック(Tech:テクノロジー)をつなげた造語である。市民自身が、テクノロジーを活用して、行政サービスを始めとした「公」の問題や、様々な社会課題を解決する取り組みのことを指す。

■オンライン討論プラットフォームの星「v台湾」とローメイキング

近時シビックテックの方法論であるクラウドローで頻繁に言及されるのが、台湾で構築されているオンライン討論プラットフォーム「v台湾(vTaiwan:ブイタイワン)」だ。

台湾・台北の中心市街地の様子
台湾・台北の中心市街地の様子 - 写真=iStock.com/GoranQ

2014年のひまわり学生運動で主導的に役割を担った台湾テックコミュニティ「ガブ・ゼロ(g0v)」によって構築された。クラウドロー(CrowdLaw)とは、ローメイキング(ここでは「立法」だけでなく、広く地方自治体も含めたルールメイキングを指す)の質を改善・向上させるために、当該ローメイキングの過程に市民参加を可能にするサービスのことだ。

彼らのホームページには「vTaiwanは、政府(各省庁)、選ばれた代表者、学者、専門家、ビジネスリーダー、市民社会集団と市民を一つにする、オンライン・オフラインの協議プロセスです。このプロセスは、代表者が決定を実行するのにより大きな正当性を付与するのに役立ちます」とある。市民、市民団体、専門家、そして選ばれた代表者らは、v台湾の使用を通じて、v台湾のウェブサイト、対面での会合やハッカソン(分野間で専門家が集中的に集まってプロジェクトを議論するイベント)など、様々なチャネルを通じて提案された法案について討論できる。

■御用インフルエンサーだけの「永田町的」磁場を飛び越えよ

v台湾が討論の開催に使用しているデジタル・プラットフォームのひとつが「ポリス(Pol.is)」だ。アメリカ「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」抗議運動や「アラブの春」革命運動の後に、シアトルのコリン・メギルCEOとその友人が開発したという。特定の討論のためのトピックがアップロードされ、アカウントを持っている人は誰でもそのトピックにコメントでき、当該コメントにそれぞれ賛成票や反対票を投じることができる。

ネットはこのように時間と場所を飛び越えることで、特定の政策や法案について、意見を交換することができる。ここでいう「時間と場所」とは、すべて「永田町的な」時間と場所という磁場をも飛び越えられるということであり、それこそが重要である。

日々弁護士業務をしていると、様々な業種が存在し、それぞれに実務的な専門家が存在する。その人々の知見こそが、おそらく現状直面している問題解決への最短ルートを示してくれるのに、永田町にはそうした知見は上がってこない。業界団体や、「御用インフルエンサー」が入れ代わり立ち代わり出入りしているばかりで、その顔ぶれは固定化するばかりである。

■ミドル・シニア層の「ジャマおじ」がいない空間だからできること

こうした永田町の磁場を飛び越えて、当該テーマに対する様々な実務レベルでの専門家たちの意見を集約できるのは、インターネット社会ならではの利点である。そこでは当然、テーマ設定した主体が想定もしていない批判や反対論もあろうが、それこそが、当該テーマの解決策を逞しくするプロセスだ。非生産的な「ためにする」批判や、「シャンシャン」の賛成ばかりで構成される議論から独立した、実のある議論が期待できる。

また、高齢者がネット空間へのアクセスに消極ということも、好転的に作用するかもしれない。既得権益と規制を振り回すミドル・シニア層の「ジャマおじ」がいない空間での開かれた議論は、いまだかつてない新鮮な空気での議論となるのではないか。

台湾だけでなく、スペイン、アイルランド、エストニアなどの国々も、デジタル空間での熟議に関する先進的な取組みがしばしば紹介される。私も現在、シビック・テックを牽引しようとする同世代の人々と、新しい取り組みを模索している。日常的なサウナの問題から、香港デモをきっかけとした日本版香港人権法まで様々なコンテンツを題材に、Zoomシンポジウムやクラウドローなど、新しいプラットフォームでの議論の可能性を模索中だ。

■「官僚・政治家」と「スタートアップ経営者」がつながる

新たな試みとして、一般社団法人PMI(Public Meets Innovation)の取り組みが参考になる。彼らは、パブリックセクター(官僚・政治家・弁護士・政策関係者等)とイノベーター(スタートアップやベンチャー経営者、テクノロジー技術者等)がつながる新しいコミュニティを提供している。

いわゆるミレニアル世代を中心に、社会が抱える様々な分野での課題に対して、イノベーションの可能性と社会実装を議論する場の構築を試みているのだ。彼らのアウトプットとしての目標は、ITやテクノロジーなど新技術やアイデアを用いて、こうした社会問題の解決のために官民プレイヤーがなすべきことの提言である。

そんなPMIが、今回「コロナを危機で終わらせない」プロジェクトとして、「新型コロナ危機をアップデート機会に変えるアイデア・提言」を募集した。コロナをきっかけに、多くの人々が「日々の生活でこうした方がいいんじゃないか」という様々な点に気づいたはずだ。コロナが政治を日常化したのだ。

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