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「会議体への幻想」を乗り越えない限り、バーチャル総会は決して定着しない。

様々なところで「デジタル化」の動きを加速させようとしている現政権だが、遂に「株主総会」に関しても一歩進んだ領域に踏み込もうとしているようである。

「政府は企業の株主総会について完全なオンラインでの開催を認める検討に入った。物理的な会場を設定して取締役や一部の株主が集まることを求める規定に特例をつくる方向だ。新型コロナウイルス対応で限定的なオンライン開催の動きが広がったのを受け、法改正で利便性を高める。」

(日本経済新聞2020年11月19日付夕刊・第1面、強調筆者、以下同じ。)

これが19日の夕刊の1面。

この日の段階では、

「政府が19日午後に首相官邸で開く成長戦略会議で議論する。年内に法改正の具体的な方向性を示す。コロナ収束が見えない状況で2021年中の解禁を念頭に置く。」(同上)

という書き方だったのだが、翌20日の朝刊では、

「政府は19日、成長戦略会議(議長・加藤勝信官房長官)を開き、企業の株主総会を完全なオンラインで開くのを認める方向で議論した。欧米では新型コロナウイルスの感染予防もあり、オンライン開催が増えている。会議では「来年には欧米と同等にできるよう法改正すべきだ」との主張も出た。企業は完全オンライン開催に向けた検討を始めた。」(日本経済新聞2020年11月20日付朝刊・第5面)

ということで、さらに一歩踏み込んだ記事になっている*1

こうなってくると、想像していたよりもはるかに早いペースでことが進んでも不思議ではないのだが・・・。

先日、経団連の提言が公表された際にもコメントしたとおり、自分は、この話は、単に会社法の「株主総会の場所」の定義を見直す、あるいは「場所」自体を決定、通知すべき事項から外す、ということをすればよい、というだけの話ではないと思っている。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

そもそも「限定的なオンライン開催の動きが広がった」といっても、今年の時点でいわゆる「出席型」にまで踏み込んだ会社はごく限られているし、仮に官邸主導でトントン拍子に法改正が成し遂げられ、来年6月総会くらいから「バーチャル総会」が実現可能になったとしても、導入に踏み切る会社の数は100にも達しないだろう*2

会社法の中で手が付けられるのが、開催「場所」のところだけで、それ以外の株主総会に関する規定が従来のままである限り、「負担軽減」といっても、大きな会場を手配するコストだとか、警備・ロジ回りのコストが減るだけで*3、それ以外の負担はむしろ確実に増える。

記事の中で指摘されているような「通信障害」のような話はもちろんのこと、殺到する質問をどう捌くか、動議をどう捌くか、それ以前に「パソコンやスマホでのアクセスの仕方が分からない」というタイプの株主にどうやって手取り足取りアドバイスするか・・・等々、現場の実務レベルでの問題は山積しているわけで、「法律が変わったのでさぁやりましょう」なんて話には到底なりようがない、というのが現実だと思われる。

そう、大事なことを「株主総会」という会議を行って決めなければならない、というドグマが生きている限り、今、多くの会社が取り入れている完成されたオペレーションに手を加えることは、かなり困難な作業となってしまうのである。

そうなると、本気で「バーチャル総会」の方向に舵を切っていくためには、会社法における「会議体としての株主総会」の存在意義自体を抜本的に見直していかねばならない、と自分は思っている。

元々自分は、社会人になってから、多くの人々が参加する会議で「一からみんなで議論して何かを決める」という経験をほとんどしたことがないからなおさらそう思うのかもしれないが、一定の規模以上の会社における「会議体」というのは、多くの場合、最終的に決まった結論を「正統化」するための一手段、一過程に過ぎず、本当の意味での「議論」をする場ではないし、そこに参加する人数が多くなればなるほど、”プロセス”的な意味合いはますます強くなる。

「株主総会」も決して例外ではないというのは、既に多くの実務家から指摘されているとおりなわけで、会社の支配権が争われているようなごく一部の会社を除けば、会議当日の場で何かがひっくり返るとか、まっさらな状態から新しい何かが決まる、なんてことはあり得ない。

だからといって「そんなもの無駄だ、やめてしまえ」という話がまかり通るほど単純な話ではないのだが、上記のような「会議の本質」にきちんと目を向けるならば、「会社の最高意思決定機関」という建前の下、今のような重厚な株主総会を開催し続けることについても考え直されてしかるべき、ということになるのではなかろうか。

具体的な方向性としては、

・事前の議決権行使によって全議案の議決結果が確定した場合は、会議体としての株主総会の開催は省略できる。

というルールにすることに尽きると思っていて、加えて、招集通知記載の日時に開催される会合を「経営説明会」等の場にすることを認めれば、仮にそれを「バーチャル」で設定していた場合でも、運営側の負担感は格段に軽減される*4

もちろん、これまで「会議体」としての株主総会の場で行われていた様々なプロセスによって担保されていた正統性を、全て「事前」の手続きの中で実現する、というのはなかなか難しくて、事業報告や監査報告などはテキストの情報を提供すれば十分だとしても*5報告事項や議題への株主の「質問」の機会を事前の手続きの中で担保するのは相当ハードルの高い話になってくる。

総会当日の質問であれば「1人2問まで」とか、「あと1人で打ち切ります」とかいった議事運営で切り抜けられたものが、事前議決権行使期間中、ずっと特定の株主との間でキャッチボールをしなければならなくなることもあり得るし、個別の質問で出た結果を、どういう形で他の株主に共有するか、ということも考えていかないといけない。

ただ、これをうまく運用すれば、総会当日のかみ合わないやり取りでお茶を濁すよりは、遥かに充実した情報提供の機会になるはずだし、それに基づく決議結果の妥当性も十分担保されるはずだ。

そして、そこまでしなければ、お上がどれだけ旗を振ろうが、総会の「オンライン化」は決して普及しないだろう、と思うのである。

なお、最後に一つ。

もし、政府がこの件に関して「2021年中の解禁」を本気で目指すのであれば、おそらく抜本的な改革には程遠いつぎはぎ的な対応にならざるを得ないだろうが、本来、そこまで急ぐような話ではない。

中途半端な「改革」で一部の会社にしか使われないような仕組みを作るくらいなら、「新型コロナへの対応」といった近視眼的な発想ではなく、招集通知の電子化と平仄を合わせた抜本的な改革の流れの中に位置づける、という発想で、じっくりと議論を進めていただけることを願いたい。

*1:この「成長戦略会議」のウェブサイト(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/kaisai.html)を見ても、「どこで株主総会の話をしたんだ?」と首をかしげたくなるような資料しか掲載されていないのだが・・・。

*2:そして、そうこうしているうちに、いつのまにか”コロナ禍”は去り、それまでと変わらない総会の光景が戻ってくる、そんな気がしている。

*3:もちろん、多くの株主を擁する会社にとっては、それだけでも十分大きな負担になっているのは確かだが・・・。

*4:8年くらい前に出版されて人気になった『株主総会物語』の最終章はそんな展開になっていたような記憶がある。

株主総会物語 -ある総会担当者の奮闘記365日
作者:岩田合同法律事務所山根室
発売日: 2012/11/26
メディア: 単行本



*5:今の株主総会でも、これらの情報について当日の説明がテキスト記載の情報を凌駕することはまずない。

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