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中国非難声明になぜ加わらない?「人権」に鈍感な日本外交 - 樫山幸夫 (元産經新聞論説委員長)

香港立法会における民主派議員の資格はく奪をめぐって中国と欧米の応酬が激しさを増している。

米英など「ファイブ・アイズ」5カ国の外相が強く非難する声明を発表、中国は罵倒に近い表現で反発した。制裁が発動される可能性もあり、対立は拡大する気配だ。

気になるのは、共同声明に日本の名がみえないことだ。中国の脅威と間近で対峙している日本が消極的な態度に終始すれば各国に〝弱腰〟と映る恐れがある。 

中国に対してだけではない。対露政策などにおいてもそうだが、日本外交での「人権」は各国と比べると、ほとんど重きに欠けるようだ。

各国は制裁も辞さない構え

中国全国人民代表大会(全人代)の決定を受けて、香港政府が立法会の民主派議員4人の資格を〝失効〟させ、これに抗議した他の議員11人が辞任を表明した経緯は、すでに繰り返し報じられているので重複は避ける。

「ファイブ・アイズ」を構成する米英、カナダ、豪州、ニュージーランド5カ国外相が11月18日に発表した共同声明は、6月の国家安全法、9月の立法会選挙の1年延期につづいて、香港の自治と権利、自由をさらに損なうものと指摘。1998年の中英共同宣言の違反として「強い懸念」を表明し、「国際社会の主要メンバーとして中国が自らの義務を遂行し香港市民に対する責任を果たすよう期待する」と強調。あわせて4人の剥奪取り消しを強く要求している。

中国外務省の趙立堅報道官は19日、あくまで中国の内政問題であり、他の国が口を出すべきではないと述べ、「(5カ国は)気をつけないと目玉をひきぬかれるだろう」と強く反発した。下卑た表現の意味はよく理解できないが、恫喝であることは間違いない。

香港返還時の中英共同宣言違反であることを重視する旧宗主国の英国は制裁を科す構えで、米国なども同様の措置をとる可能性がある。

各国はすでに、国家安全法が制定された後、中国への貿易優遇措置を見直すなどの制裁を科している。

控えめ、あいまいな日本の態度

今回、日本の対応をみると、加藤官房長官が「重大な懸念を強め状況を注視している。香港が民主的、安定的に発展していくことが重要だ。中国側にもさまざまな機会を通じて伝達している。関係国と連携し適切に対応したい」と述べたが、5カ国外相の共同声明に比べるといかにも控えめだ。具体的にどう「適切に対応」するのかも、あいまいだ。

「関係国と連携」というなら、環太平洋の主要国が名を連ねている共同声明に加わるべきはないのか。声明とりまとめにあたって日本側に参加の打診があったのか、なかったのか、あっても日本側が拒否したのかーなどは詳らかではないが、ここはむしろ、押しかけていくか、日本が主導して、中国に圧力を加えるべきだろう。

1989年の天安門事件で各国から制裁を科された後、中国の故銭其琛元外相が、最も姿勢の弱かった日本に働きかけ、天皇訪中(1992=平成4年)を実現させて包囲網を突破したーと回想していることをよもや忘れてはなるまい。

毒盛り事件にも当事者意識欠く

対中国に限らず、こと「人権」となれば、日本外交の反応はすべて敏感さを欠くというべきだろう。

対ロシアがいい例だ。

ロシアの野党指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏が同国情報機関の手で、神経剤「ノビチョク」を盛られ重体に陥った事件は記憶に新しい。英国、EU(欧州連合)などは犯行にかかわった政府高官を含む個人、団体に対し資産凍結、入国禁止など措置をとった。

日本では加藤官房長官が「化学兵器の使用は非人道的行為で決して許されない。早期に事実関係が解明されることを期待したい」と極めて簡単に政府の見解を説明しただけ。欧米各国とは対照的だった。

9月のG7外相会議声明がロシアに犯人の処罰を強く求めた際、日本の茂木敏充外相もくわわっていたのだから、こういうコメントは当事者意識にまったく欠けているといわれてもやむをえまい。

テロ黒幕を陛下に会見許す

もっと驚くのは2018年に起きたサウジのジャーナリスト暗殺事件への対応だ。

ジャマル・カショギ氏は米国に滞在して、母国サウジ政府に対する批判的な筆鋒をふるっていたが、2018年10月、結婚の手続きのために訪れたトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で消息を絶った。

トルコ当局などの捜査で、カショギ氏は館内で、サウジ本国から派遣された〝暗殺団〟によって生きたまま切断されたなどという恐るべき事実が明らかになった。サウジのムハンマド皇太子が〝黒幕〟と噂され、米英仏など各国は関与した情報機関員ら、それぞれ10数人に対して資産凍結など経済制裁を科した。

日本はと言えば、現首相の菅官房長官が「トルコにおいて捜査中なのでコメントは差し控えたい。早期の真相解明、公正で透明性のある解決を期待したい」と述べただけで、制裁などまったく触れずじまい。

「われ関せず」というべきか、被害者への同情、犯行への怒りなど、人間味がほとんど感じられないコメントだった。「報道の自由、人道的見地から事態の推移を注視していく」と述べたのがほんのわずかの救いだった。

ムハンマド皇太子は2019年6月、大阪で開かれたG20(20カ国・地域)首脳会議の際に来日。日本政府は、皇太子と天皇陛下の会見を許し、安倍首相(当時)も会談した。首相との会談はまだしも、陛下を訪問させる国賓なみの処遇というのだから、その無神経さには驚く。

強硬と宥和のバランスを

対中関係に話を戻せば、日本としては、中国が隣国、最大の貿易相手国だ。良好、悪化した状態にかかわらず、関係の維持は必要であり、米国や欧州とは置かれた状況が異なるのは理解せねばなるまい。コロナ禍の昨今、自動車や繊維などの輸出が比較的順調であることを考えれば、なおさらだ。

しかし、わが国は、中国が国家安全法導入を決めた2020年6月、秋葉剛男外務次官が中国の孔鉉佑駐日大使を外務省に呼びつけ、強い懸念を表明した事実もある。

対中強硬姿勢と宥和のバランスをとることは簡単なことではないが、毅然とした姿勢を忘れてはなるまい。

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