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「アマゾンのロゴを見るだけで吐き気が…」需要が増え続ける宅配業界の悲惨な実情とは 『ルポ トラックドライバー』より #1 - 刈屋 大輔

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「殿様商売にも程がある」という批判

 こうして顧客からの反感を買いながらも強引に推し進めた「総量規制」は、結果として成功を収めた。当初、ヤマトでは2018年3月期の取扱量を前期比で約8000万個(約4%)減らす方針を打ち出していた。最終的な着地は、前年同期比1.7%減(18億3668万個)と、目標値には届かなかったものの、全体のボリュームは抑制することができた。

 松本さんは当時をこう振り返る。

「ある通販関連のお客さんに荷物の引受量を制限することを伝えたら、『荷物をたくさん出してくださいと頼まれたから、ヤマトさんにお願いしてきたのに、今度は出すな、運ばないぞ、だなんて、殿様商売にも程がある』と怒り心頭だった。こちらとしても『ごもっとも』と思ったので、返す言葉がなかった」

賛否両論を呼んだサービスメニューの見直し

「総量規制」とともに、サービスメニューも見直した。例えば、注文を受けたその日のうちに商品を届ける「当日配達」サービスは一時的に中断することにした。

「当日配達」は、購入者による注文キャンセルの回避や商品在庫回転率の向上につながるため、とりわけ通販会社から好評だった。しかし、最前線のセールスドライバーたちにとっては厄介な存在にすぎなかった。通常サービスである「翌日配達」分の荷物と再配達分の荷物の配達に追われる夕方以降の時間帯に、新たに「当日配達」分の荷物の配達が加わり、業務負荷が一気に増すからだ。この「当日配達」を停止したのは、ドライバーたちの長時間労働を是正するのが目的だった。

「宅急便」の利便性を象徴するサービスともいえる「配達時間帯指定」にもメスを入れた。従来は時間帯の区分として、「午前中」「12~14時」「14~16時」「16~18時」「18~20時」「20~21時」の6区分を用意していたが、このうち「12~14時」を廃止。さらに、「20~21時」をなくし、「19~21時」という区分を新設した。ドライバーの昼休み時間をきちんと確保したり、夜間帯に行う配達業務の負荷を軽減したりするためだった。

 一連の「働き方改革」によって、現場で働くドライバーたちの労働環境は劇的に改善した。「総量規制」や「当日配達の停止」「時間帯指定区分の見直し」といった対策のほかにも、仕分けや積み込み作業に従事する補助スタッフの増員や、集荷・配達業務の外注化(協力運送会社への業務委託)拡大などを進めることで、ドライバーの労働時間は従来よりも大幅に短くなった。残業はゼロではないものの、過少に申告することを求められたりすることもなくなったという。

「とくに休憩時間の確保を徹底することは口酸っぱく指導されている。昼休み中は、たとえお客さんから連絡があっても、電話に出ないように、と言われている。勤務時間も正確かつ厳密に管理されるようになった」

「働き方改革」後の懐事情

 もっとも、ヤマトの「働き方改革」は、松本さんをはじめとするセールスドライバーたちにとって、手放しで喜べることでもなかったようだ。松本さん自身、一連の「働き方改革」によって、残業を含めた勤務時間が減り、その結果年収が15%程度ダウンしてしまったという。

 途中休憩をとらず、朝から晩まで荷物を抱えて走り回り、休日返上で出勤する。肉体的にも精神的にもハードな毎日だったが、体調を崩して倒れるまでには至らなかった。激務に身体が慣れていた。確かに仕事はたいへんだったが、それに見合うだけの報酬を得ていた実感があり、不満はなかった。

 子供の教育費など、これから出費が増えていくことを考えると、年収ダウンは家計にとって大きな痛手だ。サービス残業は言語道断だが、「きちんと加算される残業であれば、むしろあったほうが収入面では助かっていたのは事実」と松本さんは本音を漏らす。

副業を始めるドライバーたち

 松本さんの同僚たちの中には、「働き方改革」以降、減収分を補うため、副業を始めるドライバーも少なくない。しかもその副業は、同じ配達の仕事だという。“本業”の勤務日の定時終業後や休日の日中に、いつもと違うユニフォームに身を包んで、街中を走り回っている。

 実は、宅配便会社をはじめとするトラック運送会社では、ドライバーによる副業を認めていないケースが多い。とりわけドライバーが副業としてドライバー職に就くことを禁じている。

 その理由はほかでもない。疲労による体調不良が原因となって交通事故や災害を発生させることがないよう、トラックドライバーには乗務終了後、継続8時間以上の休息期間を確保することが法的(厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準=改善基準告示」)に求められている。本業での仕事を終えた後や休日に、副業としてハンドルを握ることは、このルールに抵触する恐れがあるからだ。

 それでも副業ドライバーは後を絶たない。「営業所の上司も他社で配達員の仕事に就いていることは薄々わかっている。しかし、働き方改革で収入が減っていることを承知しているから、見て見ぬふりをしているというのが実情だ」と松本さんは指摘する。

 違反のリスクを承知しながらも副業ドライバーの受け入れに積極的なトラック運送会社も存在する。通販商品の配達サービスなどを展開する、ある軽トラ運送会社もそのうちの一社だ。同社では、ヤマトのような大手宅配便会社に籍を置く副業ドライバーたちを、教育や研修をほとんど必要とせずに現場に投入できる「宅配便の業務ノウハウを身につけた即戦力」(同社経営幹部)として重宝している たとえ法的に問題があるとしても、需要がある以上、より多く稼ぐためにトラックドライバーたちが副業でもドライバーとしてハンドルを握るという流れはしばらく止めることができないだろう。

午前3時起床、週6日の勤務…大型トレーラー運転手として激務を送る30歳女性の日々に迫る へ続く

(刈屋 大輔)

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