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「アマゾンのロゴを見るだけで吐き気が…」需要が増え続ける宅配業界の悲惨な実情とは 『ルポ トラックドライバー』より #1 - 刈屋 大輔

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 インターネット通販の台頭や、コロナ禍による巣ごもり需要の増加を要因に、宅配業者の需要は増加の一途をたどっている。一方で、サービス残業の状態化が報道されるなど、現場からの疲弊を訴える声は後を絶たない。

 現場で働くドライバーたちは一体どのような心境で仕事にあたっているのか。刈屋大輔氏による取材を通じて得られた貴重な証言をまとめた書籍『ルポ トラックドライバー』より、その実情を紹介する。

◇◇◇

アマゾン対応で混乱した「宅急便」の現場

 宅配便最大手のヤマト運輸に勤務する松本さん(仮名)は2020年に入社8年目を迎えた。現在はセールスドライバーとして首都圏エリアで「宅急便」の集配業務を担当する。

 取材に応じてくれたのはまだ初夏の頃だった。にもかかわらず、新型コロナ対策として義務づけられたマスク着用の影響なのか、松本さんの額やユニフォームには汗が滲んでいる。

 街中を一日中走り回る「宅急便」の集配業務はただでさえハードなのに、コロナ元年となった2020年は例年以上に体力の消耗が激しいようだ。もともと細身で顔のまわりもすっきりとしている松本さんだが、少しだけ体重が落ちたという。

「4月以降、お客さんから荷物を受け取ったり、渡したりする対面時にはもちろん、台車を押しながら街中を移動する際にもマスクを着用している。マスクの影響で以前よりも仕事中に息が切れるようになったのは事実。でもコロナが落ち着くまでは仕方がない。確かに体力的に仕事はきつくなった。ただ、きつさという意味では、2015年から2017年あたりまでのほうがしんどかった」


©iStock.com

 松本さんが振り返る2015年から2017年にかけて、ヤマトでは「宅急便」の取扱個数が急増した。

 同社資料によれば、この期間の取扱個数は16億2204万個(2015年3月期)、17億3126万個(2016年3月期)、18億6756万個(2017年3月期)。年間に1億個超が積み上がっていく驚異的なペースで推移した。

市場シェアは維持・拡大できたが…

 大幅増が続いた背景には、ネット通販での需要拡大があった。とりわけ増加に寄与したのはアマゾンジャパンの荷物だった。

 日本に上陸して以降、アマゾンはサイトで販売した商品の配送に宅配便サービスを利用してきた。そのパートナー(委託先)は日本通運や佐川急便などを経て、2013年からはヤマト運輸がメーンとなった。

 アマゾンの配送を受託したことで、ヤマトの「宅急便」は一気に伸びた。90年代後半に宅配便事業に参入した佐川急便や、民営化後に日本通運の「ペリカン便」を飲み込んで攻勢をかけてきた日本郵便と、熾烈な荷物の奪い合いを繰り広げてきたヤマトにとって、アマゾンは市場シェアを維持、拡大していくうえで不可欠な顧客だった。

捌ききれない大量の荷物

 しかし、取扱個数を増やすことに成功する一方で、「宅急便」の現場は“アマゾン対応”で完全に疲弊してしまった。

 現有の戦力のみでは到底捌ききれないほどの大量の荷物が毎日のように営業所に届く。

 それらを当日中、しかも指定された時間帯に届けなければならない。届け先が不在の場合には、何度も繰り返し訪問する。当日の配達ノルマをこなすため、昼休みなど休憩時間は取らず、さらに夜遅くまで残業して街中を走り回る。常に人手が足りない状態が続き、休日出勤を強いられる日々が続いた。

 松本さんに限らず、ヤマトの現場で活躍するセールスドライバーたちは、アマゾンとの取引で「宅急便」の取扱個数が急増する裏側で、こうした過重労働を長期間にわたって余儀なくされてきた。「当時の勤務実態は尋常ではなかった。昼夜を問わず配り続けても営業所内やトラック内の荷物が一向に減らない。その原因はアマゾンの荷物だった。あまりにも忙しすぎて、段ボールにプリントされているアマゾンのロゴを見るだけで吐き気をもよおすこともあった」

常態化するサービス残業

 そんな過酷な労働環境の中、さらに現場で働くセールスドライバーたちを悩ませたのは所属先上司による“サービス残業?の強要だった。サービス残業とは、従業員に超過勤務時間を実際よりも少なく申告させて残業代をカットするというものだ。

 会社側は残業代の支払いが少なくて済む。これに対して、従業員側は本来受け取るべき収入が減ってしまう。サービス残業は雇用の継続や将来の昇格人事などを楯にして会社側が従業員に対応を迫る「悪しき慣習」にほかならないが、それが当時、ヤマトの社内では横行していた。

「サービス残業は本社や支社など上からの指示だったと聞いている。営業所としてのコスト抑制のノルマを達成したり、セールスドライバーの過重労働の実態を隠したりするための“協力?を求められた。具体的には、タイムカードをおさずに早朝の積み込み作業を行ったり、タイムカードをおしてから夜の退社前の事務作業をこなしたりして、トータルの勤務時間が短くなるよう調整させられた」

 しかし、こうした会社ぐるみの隠蔽工作は長続きしなかった。一部の従業員が残業代の未払いなどを告発したことで、社内に蔓延するサービス残業の実態が一気に表面化した。

 ヤマトでは、それを機に新設した「働き方改革室」を通じて、現場の労働実態を把握するための社内調査に乗り出した。その結果、全国の多くの現場でサービス残業が行われていることが判明した。

230億円の未払い残業代

 社内調査を終えた会社側は、最終的に、過去2年間分を遡るかたちで、未払い状態だった残業代を従業員たちに支払うことを決めた。未払い残業代は総額で230億円に上った。

 当初、ヤマトでは「サービス残業は一部の現場で行われていたこと」と主張していた。ところが、社内調査で蓋を開けてみると、“一部”どころではなかった。230億円という金額規模からしても、サービス残業が特定の現場での行為ではなく、全社的に常態化していたことは容易に想像できる。

前代未聞の「荷受け拒否」 

 その後、ヤマトでは、現場での過重労働を解消しようと、様々な対策を打ち出した。具体的にはまず、「宅急便」の引受量を制限する「総量規制」に踏み切った。

「総量規制」とは、集荷、幹線輸送、配達で形成する「宅急便」ネットワーク(インフラ)のキャパシティーを超えないよう、取り扱う荷物の量をコントロールするというものだ。前述した通り、営業所に捌ききれない荷物が溢れかえっている状態は明らかにキャパオーバーであり、それが現場スタッフの長時間労働や残業の温床になっているとの判断から、「宅急便」の取扱量そのものを一時的に減らすことにした。

 ヤマトでは「当分の間、一日当たりの発送量を20%程度減らしてほしい」といった具合に、日々の出荷量が多い大口顧客を中心に協力を要請した。ヤマトからの依頼に難色を示す顧客に対しては、全面的な取引中止も辞さないという強気の姿勢で交渉に臨んだ。この「総量規制」の実施は、従業員たちを守る立場にある労働組合からも強く要請されたことだった。

 荷物の受け入れを拒否するという前代未聞のヤマトの行動に、反発する顧客も少なくなかった。とりわけ強い憤りを示したのは通販会社だった。通販ビジネスはネット経由などで購入された商品を消費者に届けることで商取引が成立する。それだけに自分たちに代わって商品を配送してくれる宅配便は欠かせない機能だ。商品を運ぶことが拒否されれば、ビジネスそのものが立ち行かなくなってしまう。

 それでもヤマトは意に介さなかった。大手はもちろん、受け入れ拒否が死活問題になりかねない中小零細規模の通販会社に出荷制限を迫ることもあった。商品配送の大部分をヤマトに委ねてきた最大顧客であるアマゾンに対しても例外ではなかった。

 慌てたアマゾンは商品を安定的に供給する体制を維持するため、地域の軽トラ配送会社などを組織化した新たな配送ネットワークを構築した。「総量規制」以降は新ネットワークの活用比率を徐々に高めていくことで、ヤマトへの依存度を下げていった。

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