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「女子は弱い」「男子は偉い」という刷り込みは、いつから始まるのか

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弁護士の太田啓子さんは、仕事で関わった離婚やセクハラ・性暴力の案件などの中で、女性を下に見ないではいられない「有害な男らしさ」の呪縛にとらわれた男性を多く見てきました。なぜ彼らは、こうした呪縛から逃れられないのでしょうか。

※本稿は太田啓子『これからの男の子たちへ「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店)の一部を再編集したものです。

操り人形

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyPopov

男子の権力抗争は幼児期から始まっている

「有害な男らしさ」と「ホモソーシャル」、このふたつのキーワードを念頭に置くと、男の子の育ちにおけるさまざまな問題を、よりクリアに見ることができるようになります。

弁護士の太田啓子さん

弁護士の太田啓子さん(写真=本人提供)

片田孫(かただそん)朝日さんという、現在は灘中学校・高等学校の先生をされている方が、学童保育でのフィールドワークを通じて、低学年の子どもたちの遊び方やふるまいをつぶさに観察し分析した『男子の権力』(京都大学学術出版会)という本があります(この本については、『これからの男の子たちへ「男らしさ」から自由になるためのレッスン』で対談した小学校教師の星野俊樹さんに教えていただきました)。

そこから見えるのは、小学1、2年生、あるいは保育園・幼稚園の時代から、男の子のあいだには「有害な男らしさ」や「ホモソーシャル」の萌芽がすでにあるということです。集団の中で、男子どうしで勝ち負けを競って序列関係をつくったり、女子の遊びを邪魔したりといった行動を通じて「男子」としての優位性を築き上げ、互いの序列を確認するといったことが観察されています。

「女らしさ」「男らしさ」は自然に生まれるのか

片田孫さんの指摘で重要なのは、周囲の大人たちが、そうした男子たちの行動に対してとる態度についてです。子どもの個性を尊重し、主体性を支援するという「児童中心主義」は、教師からの「女らしさ」「男らしさ」の押しつけには抑制的であろうという姿勢をうながすので、基本的には望ましいものの、そこに落とし穴があるというのです。

『これからの男の子たちへ「男らしさ」から自由になるためのレッスン』より

『これからの男の子たちへ「男らしさ」から自由になるためのレッスン』より(イラスト=マシモユウ)

どんな落とし穴かというと、「子ども自身が早期から男女に関する知を学び、自発的に性別の仲間関係をつくり、ジェンダー化された遊びを行う場合に、保育者がこれを無批判に受容し、促進する傾向が考えられる。子ども自身がこだわりをもち、望んでいるようにみえるからだ」(同書30ページ)。つまり、子どもが自分の希望として大人に伝える内容が、すでに社会の中にある固定観念に影響されたものであるにもかかわらず、「児童の主体性」を尊重する教育の中ではそれも「子どもの主体的意思」と捉えられ、受容されてしまう傾向があるということですね。

たとえば男子集団が女子の遊びを邪魔するといった侵害行為は、男子集団による、女子への尊重と敬意を欠いた行動であるにもかかわらず、「生徒一人ひとり個人を見よう」という児童中心主義の保育の中では、個々の男子の「腕白さ」を「個人のもの」「その子自身の成長の問題」と捉えがちで、子どもたちの関係性の中にすでにあるジェンダー問題には関心が向かいません。

子どもたちの性差別的ふるまいには介入を

片田孫さんは、「ジェンダーの問題を、子どもの人権と公共性の観点から真剣に取り組もうとするならば、教育者や保育者は、子どもたちを『個人』としてだけ見るわけにいかない。というのも、子どもの現実は、大人が望もうが望むまいが、多かれ少なかれジェンダー化されているからであり、これがしばしば男女間に権力関係を生み出すからである。したがって、教育的な介入は避けられないだろう」(271ページ)と書いて、性差別的な価値観を是正していくためには、周囲の大人が積極的に介入する必要性を指摘しています。

これは、一見すると教師による「教え込み」を肯定し、子どもの自主性尊重から後退してしまうようにも見えるかもしれません。でも、片田孫さんはそうではなく、子どもの自主性を尊重することと、人権や多様性を否定する価値観に与しないことを、どのように両立すればいいかという問いかけをしているのです。

「女子は弱い」「男子のほうが偉い」という刷り込み

私もこの問題意識に深く頷きます。子どもたちは、ほうっておいてもメディアや周囲の大人の会話からジェンダー規範を受け取り、内面化していきます。「女子は弱い」「男子のほうが偉い」「泣き虫なんて男らしくない」などなど。それを子どもの「ありのまま」だと許容してしまうと、子どもたちはそれが「自然」だと思い込んだまま大人になってしまうかもしれません。

太田啓子『これからの男の子たちへ「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店)

太田啓子『これからの男の子たちへ「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店)

性差別がある社会に生まれ落ちた子どもたちは、ただそのままのびのびとさせていれば自由に生きられるとは限らない、ということなのでしょう。むしろ、社会がかぶせてくる固定観念を、大人の適切な手助けや介入によって相対化し、学び落とすことができてこそ、より自由に生きることができるのであって、それこそがほんとうに児童の主体性を尊重するということではないか、と深く納得させられる本でした。

その適切な介入の方法をこそ、まわりにいる大人が意識的に身につけなくてはいけないと強く思います。私が知りたいのはその方法だと、この本を通じてはっきり認識させられたのですが、しかし具体的にどうすればいいのかは、私もまだ日々試行錯誤の渦中です。

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