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焦点:「疑似MMT」実践する主要国、問われる長期リスク管理能力


森佳子

[東京 20日 ロイター] - 新型コロナウイルスのパンデミックのもと、主要国は積極的な金融財政支援策に踏み込み、昨年議論を呼んだ「現代貨幣理論(MMT)」を結果的に実践しつつある。コロナ不安が一段落した際に、各国当局は市場に混乱を与えず出口戦略を実行できるのか、中長期的なリスク管理能力が問われている。

<金融政策は財政政策の一環に>

世界の主要国では大規模なコロナ対策が取られ、財政赤字が拡大しているが、中央銀行による莫大な国債買い入れによって、金利は低位に抑えられている。

米大統領選では、財政拡張路線のバイデン氏が勝利宣言した後、米国の長期金利が過去半年の中心レンジを上抜けて一時1%に迫ったが、米財務省と米連邦準備理事会(FRB)が一体となった「国債管理政策」が長期金利の上昇を抑えるとの見方が広がり、金利急騰は一過性のものとなった。

市場では「米国に限らず、コロナ後は特に各国の金融政策が財政政策の一環となって援護射撃をする役割を担っている」(国内銀エコノミスト)との指摘が聞かれる。

SMBC日興証券のチーフ為替・外債ストラテジスト、野地慎氏は「FRBは無制限緩和の看板を下ろしてもなお、月間800億ドルと巨額の国債を買い入れている。金利の上昇が経済や株式市場を冷やすとFRBが判断すれば、月間購入額を調整したり、イールドカーブコントロールを示唆するなどで金利上昇を抑制する」と予想する。

実際、米国の公債発行残高は年初の17兆1600億ドルから21兆1600億ドルまで増えたが、この間にFRBの米国債保有残高も2.3兆ドルから4.6兆ドルまで拡大し、米国債市場が供給過多に陥るのを防いだ。さらに、FRBが米国債の買い入れを拡大した3月半ば以降、米10年債利回りは大幅に押し下げられている。

<疑似MMT>

財政赤字を気にせず国債を発行して景気対策に使える世界―─。

これはニューヨーク州立大学教授・ステファニー・ケルトン教授らが提唱したMMTに酷似する。MMTは、自国通貨を発行する政府は、通貨を限度なく発行できるので、デフォルトの心配なく政府債務の膨張が可能で、財政赤字がいくら増えても問題ないと説く。

MMTの実践例となっているのは日本だ。日本では既に財政危機が進み、その再建が歴代内閣で問われながらも、政府債務残高の対GDP比は230%を超え、先進7カ国の中でも突出している。この財政危機を日銀の異次元緩和によってカバーしてきた。

欧州中央銀行(ECB)もコロナ支援策として発行された共同債を購入することで、資産買い入れがこれまでよりも容易になった。

グローバルエコノミストの斎藤満氏は「厳密には、現在主要国がやっていることはMMTとは異なるが、中央銀行が支援して政府が財政赤字を拡大する形は、事実上のMMTに近いものだ。中央銀行が刷った紙幣を直接政府が使うのではなく、政府が発行した国債を中央銀行が買い取り、資金を供給しているので『疑似MMT』と言える」と指摘する。

日銀は国債を直接引き受けずに、市場メカニズム介して市場(金融機関)から国債を購入しているので、MMTとは異なるとの見方もあるが、「市場に占める日銀の存在感が過去と比べて格段に大きくなっている今、市場を介することでディシプリンが保てるとは言えない」と三菱UFJリサーチ&コンサルティングの主席研究員、廉了氏は言う。

純粋MMTでは、中央銀行が紙幣を刷って国債という借金を消しているが、疑似MMTでは、政府が大きな公的債務を抱え、中央銀行が巨額の国債を保有する形でバランスしている。政府と中銀のバランスシートを統合させれば債権債務が相殺されるが、単体としてはそれぞれが大きな債務と資産を抱えた形になる。

「こうした債務が相殺されない限り、将来的に債務を減らす『出口策』が意識される。それをどうさばくかが、財政金融当局に課せられた大きな課題となる」と斎藤氏は言う。

国際決済銀行(BIS)は7月末、世界の中央銀行に対して、新型コロナウイルス対策として実施している大規模な金融緩和の「出口戦略」の概要を策定するよう求めた。

BISのカルステンス支配人は「今のうちに中銀は、経済の正常化が始まった場合に緩和措置を巻き戻せるように、市場に布石を打っておく必要がある」と強調した。

<統合政府の債務のぜい弱性>

これまでのところ、中銀が国債を購入した代金は市場に出ずに中銀の当座勘定に超過準備として留まっているので、モノやサービスに対して貨幣が過剰になりインフレになるリスクは小さい。

ただ、民間金融機関はいつでも超過準備を現金に換えて引き出すことができるため、短期間に大量の現金が市中に流出すると物価が急上昇する可能性がある。

中銀がそうした事態を望まない場合、現金の引き出し需要が高まった時点で超過準備の金利を十分に引き上げ、国債の売りオペをするなどの対応が必要となるが、金利上昇は中銀が保有する国債価値の棄損にもつながる。

異次元緩和以前の日本では、統合政府のバランスシートの負債のほとんどは償還期間数年超の固定利付債で占められていたが、異次元緩和以降は統合政府の負債の多くが超過準備(超短期・変動利付)に置き換わった。

突発的な取り付けに対して脆弱な構造に変貌した統合政府の債務をどう建て直すか。カルステン氏は「出口戦略は難しい議論ではあるが、検討しなければならない」と早期の取り組みを促す。

(森佳子 編集:石田仁志)

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