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『MEDIA MAKERS〜社会が動く「影響力」の正体』の第2章を無料公開

今日は事前プロモーションとして11月12日発売の拙著『MEDIA MAKERS~社会が動く「影響力」の正体』の第2章を公開させて貰います。

なぜ、一般のビジネスパーソンにもメディアの知識が必要な時代になりつつあるのか?について説明しましょう。(「まえがき」から2章までをまとめてPDFで読みたい方はコチラからどうぞ
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第2章 一般ビジネスパーソンもメディアの知識が必要な時代
 

Ⅰ メディアとファイナンスの共通点

 第1章で私は、「一般のビジネスパーソンもメディアについて知ることが、重要になってきている」とお話しました。この章ではその理由を説明していきます。

私は、メディアの業界で働きながら、個人的に株式投資が趣味(高く付く趣味ですが・・・)で、ファイナンス的なモノの見方にずっと興味があるのですが、「メディア」と「ファイナンス」には、構造的に共通点が多いと思ってきました。

まず、第一に両者とも社会において、大変「特殊な」ファンクションを果たしている、ということです。「特別」というと、なんだかエリート思想・選民思想みたいになってイヤなので、特別ではなく特殊と言わせてもらいますが。

では、どこが特殊なのでしょうか。それは両者とも実体がない、情報という無形物を扱っているということ。そして、「対象への信頼」というものが鍵になっている、ということです。ファイナンスの世界においても、別に紙幣や株券そのものには、本質的には特別の意味や付加価値があるわけではありません。メディアにおいても、たとえば物理的な「新聞紙」そのものに意味があるわけではないです。

 下世話な言い方をすれば、メディアやファイナンスという業界は、実力とハッタリの区別に線を引くことが極めて難しい世界なのです。自動車メーカーならば、消費者はモデルルームで、ドアに手をかけた瞬間に、締まり具合で直感的にそのクルマの「仕上げの美しさ」や「ボディ剛性」をかなりの程度まで見抜けます。しかし、ファイナンスやメディアにおいては、「手で触って価値を直感的に感じる」ことは、そもそも不可能なのです。たとえば、一般人のお客にとってはレクサスのショウルームで、ドアに手をかけ、クルマの出来を直感的に把握するのと同じような意味で、野村証券のカウンターで刷り上がったばかりの新規上場ベンチャー企業の株券を撫で回しても仕方がありませんし、刷り上がったばかりの読売新聞のインクの匂いを印刷所で嗅いでみても意味がありません。

ハッタリと実力の区別が難しい、ということを別の角度から言いますと、あるいは、メディアやファイナンスという領域は、「予言が自己実現する」世界であるとも言えます。


 健全なビジネスをしてキャッシュ・フローが出ている会社に高い株価がつく。これが、教科書的な理解です。別に間違っているとは言いませんが、現実においては順序が逆のケースもあり得るわけです。たとえばネットバブルのようなブームの中で、あまり実体がない会社が、CEOのハッタリ・トークに吊られ、高い株価が一時的についてしまった。しかし、その高株価によって、イケてる会社だとメディアに紹介され、競合を有利な条件で買収し、さらに株価が好調だから、いい人材も集まって来たりする可能性も大いにあるわけです。結果的には、元々は微妙な感じの会社だったものが、本当に当該領域においてナンバーワンの「いい会社」になってしまうということもあり得ます。こうなってしまえば、事後的に、実力とハッタリの境目を第三者が区別することなどほぼ不可能です。

 ポンド危機でイングランド銀行を打ち負かしたことで有名な投資家であるジョージ・ソロスは、こういう現象を「再帰性」と言いました。ファンダメンタル(実体あるいは事実)が、価格(価値の数値あるいはメディア上の表象イメージ)に反映されるという因果の矢印は、決して一方通行ではなく、価格(やメディア上で表象されるイメージそのもの)が、逆向きにファンダメンタルや事実の方にフィードバックされることもある、ということなのです。

 たとえば、東スポが「ソニー倒産か?」と書いたら、笑い話で終わるかもしれません。しかし粉飾スキャンダルが発覚した直後の、オリンパスや、2012年9月現在のシャープくらいシビアな状況の会社について、日経新聞が「明日にも倒産か?」と報じたら、その記事によって、生死が五分五分だった状況の会社でも、本当に倒産してしまいかねないのです。

 メディアが「予言を自己実現する力」については、4章で詳述しますが、「報道」されたことで自己実現的に、場合によっては企業の息の根を止め、個人の生命すら奪ってしまうことが有り得る、それがメディアの恐ろしさです。

Ⅱ 「キャッシュ」から「タレント」と「アテンション」の時代へ

 リーマン・ショック直後にAppleやGoogle、Youtubeなどに初期から投資をしてきたことでも有名な超一流のベンチャー・キャピタルであるセコイア・キャピタルが投資先のCEOら幹部たちを集めてプレゼンを行いました。その内容は「Rest in peace Good Times」(良い時代よ、安らかに眠れ。) つまり、これから、大変な時代になりますよ。ムダなお金を使わずにシートベルトをしっかり締めて嵐の時代に立ち向かえ、というものでした。

 そうやって投資先に喝を入れた後に何が起こったでしょうか?リーマン・ショックからしばらくの後、フェイスブック、ジンガ、グル―ポン。伝統的なベンチャー・キャピタルの介添えなしに世に出るネット企業がどんどんと増えました。いまや、クラウドの恩恵もあって、特にネット分野で起業することに、費用はそれほどかかりません。また、ソーシャルメディアを経由して、イケてるサービスはあっという間にバイラルで紹介されまくるので、2000年前後の第一次のネットバブルの頃のように、ユーザー獲得のためにスーパーボウルにテレビCMを打つようなことも必要なくなりました。起業にお金が不要になると、ベンチャー・キャピタルと起業家との力関係も当然に変化します。その結果として、セコイアやKPCBといった超一流のベンチャー・キャピタルですら、気がつくと時代遅れとなり、中抜きされる対象となってしまっていたのです。

 これが表すことは何か。これまで経営資源は「人・モノ・金」といわれてきましたが、今や「お金・キャッシュ」がボトルネックにならなくなっているということです。つまり、キャッシュが最も重要な経営資源だった時代は終わっているということなのです。

 たとえば今、フェイスブックの時価総額の2倍の10兆円くらいをポンとお金だけ渡されて、「3年以内にフェイスブックを超える会社をつくれ」あるいは「グーグルを超える検索エンジンをつくれ」と言われても、おそらく、私を含めてほとんどの人には不可能に近い難題ではないでしょうか。でも超絶的にもの凄くイケてる人材を集めて、24時間365日馬車馬のように凄いモチベーションで働いてくれるなら、元手の資金は、100万円もあれば、3年か5年くらいでフェイスブックやグーグルを超える会社をつくれるかも…? という気がしなくもありません。

 「ウォー・フォー・タレント(才能をめぐる戦争)」という本もありますが、どれくらい、優秀な人材を社員候補として集めてこられるか、がこれからの企業組織にとっては、決定的に最重要です。また、アメリカの社会学者Michael H. Goldhaberが提唱した「アテンション・エコノミー」という概念がありますが、これは、いまや人々の「アテンション(=関心・注目)」がそれ自体に大きな経済価値が生まれているという考えです。実際に、アップルの新製品発表のやり方が典型ですが、今や、コンシューマーのアテンション(注意)を自社の製品やサービスに向けてどのように集めてくることができるか、そういうためのフックがあるかどうかは、マーケティング・コミュニケーションにおいても、大変に重要な要素になってきています。

 つまり「タレントとアテンションをどうやって集めるか」こそが、これからの企業の競争軸になっていくのだと思います。

Ⅲ アテンションをつかさどり、タレントをモチベートするメディア

 これからの企業にとって、キャッシュよりも大事になるタレントとアテンション。その奪い合いにおいて、重要な役割を果たすツール、それが「メディア」です。

たとえばBtoBの業界内メディアで、自社の製品やサービス、企業文化などについて、よく書かれたら、特に始まったばかりのスタートアップ企業にとっては、タレント、つまり優秀な人材を獲得する上で非常に有利に働きます。

 米国のインターネットベンチャーに関する専門メディアである「テッククランチ」が典型でしょう。実際にシリコンバレーにおいては、「テッククランチ」でサービスが褒められると、いい人材が集まる。それによって出資希望のベンチャー・キャピタルもその会社に集まる。人もお金も集まるわけですから、サービスはますます良くなります。「テッククランチ」の記事がキッカケとなって、このような好循環スパイラルが生まれます。

 アテンションをつかさどり、タレントをモチベートする機能を持っているのがメディアです。だからこそ、私は、これからは、何のビジネスをするのでも、メディアについてある程度の理解をしておくことがビジネスパーソンには重要だと強く思います。ある程度以上のクラスになったマネージャーの人が「僕はファイナンスや会計のこと、分からないので…。減価償却って何ですか?」とは、恥ずかしくて言えないですよね。それと同じように、デジタルを含むメディア全般について、その利用と読解のリテラシーがない、という人は、ビジネスパーソンとして、かなり「イケてない」感じになるのではないでしょうか。(まあ、これは、メディア業界人である私の我田引水的なところもあるかもしれません。そこら辺を割り引いて受け取ることも、あなたのメディア・リテラシーです。)

 次の章からは、私がこれからのビジネスパーソンが知っておくべき基礎リテラシーと考える「メディア」の重要な基本概念について説明していきます。

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