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「客が値札を見ない」トヨタやユニクロにないが、ワークマンにある非常に珍しい強みとは

ワークマン大成功の仕掛け人といわれる土屋哲雄さん。還暦直前だった2012年に常務取締役として同社に入社したとき、まずは会社を隅々まで観察することにしたと言います。観察し、分析することで見えたワークマンの真の強みとは――。

※本稿は、土屋哲雄『ワークマン式「しない経営」 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

ワークマンは「しない会社」である

私はしばらくワークマンを観察することにした。

この観察によって個人向け作業服というブルーオーシャンを悠々と泳ぐ魚に、成長の限界が迫っていることがわかるのだが、それはもう少しあとの話になる。

ワークマンプラス路面店の内観。値札を見ずに買い物をする人が多いという。

ワークマンプラス路面店の内観。値札を見ずに買い物をする人が多いという。 - 写真提供=ワークマン

私はこれまで多くのビジネスに携わってきたので、企業がどんな戦い方をしているのか、どのように競争相手に対して優位性をつくりあげているのかを分析するのが習慣になっていた。なにしろ還暦直前でワークマンに入社した新参者だ。勉強することは山ほどある。

現場に行って何人もの社員に話を聞き、加盟店を回り、店長にもじっくり話を聞いた。

最初に、どんな市場で、誰を相手にしてきたのかを考えた。

マーケティングであれ、新規事業展開であれ、市場を細分化し、どこをターゲットとするかという選択は、重要な戦略的意思決定になる。

最初に思ったのは、ワークマンは「しない会社」だということだ。

経営戦略の古典として名高い『新訂 競争の戦略』(土岐 坤、中辻 萬治、服部 照夫訳、ダイヤモンド社、1995年)で「ファイブフォース分析」を提唱したマイケル・E・ポーターは、「戦略とは捨てること」と言った。

経営資源には限りがあるため、何かを選んだら何かを捨てなくてはならない。

ファイブフォースのすべてを満たす珍しい企業

私は「ファイブフォース」でワークマンの強みを客観的に分析した。

1 作業服市場に業界外からの新規参入の脅威はほとんどない
2 作業服の買い手の交渉力は個人なので法人ほど強くない
3 作業服の代替品の脅威はほとんどない
4 作業服の供給者(売り手)の交渉力はワークマンに比べて強くない
5 作業服市場では個人向け製品の競争がほとんどない

このように「ファイブフォース」をすべて満たす企業はまれだ。とりわけ業界内の競争がほとんどないことに驚いた。

天下のトヨタでもユニクロでも世界的には強い競争相手がいる。トヨタにはフォルクスワーゲン、ゼネラルモーターズなどから、テスラや中国の上海蔚来汽車(NIO)などの新規参入もある。ユニクロには、インディテックス(ZARA)やH&Mがいる。しかし、ワークマンは競争相手のいない市場にいた。

分析

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

あえて「大きな市場」を捨てる

市場での戦い方は大きく2つある。市場を広くとらえて浅く進むか、市場を狭くとらえて深く進むかだ。

ワークマンは後者だ。作業服の市場規模は約4600億円。内訳は、法人相手が6割、個人相手が4割と、規模だけを見れば法人のほうが大きい。

しかし、大きな市場には競争相手も多い。そこへあえて行かないのがワークマンだ。「舌切り雀」のお爺さんは土産に出された大小2つのつづらの小さいほうを選んだが、ワークマンも最初から大きい市場を「捨て」て、個人向けにフォーカスした。

たしかに大企業と契約できれば、一つの工場でも数千人分の作業着の販売が継続的に期待でき、おいしい商売に思える。だがよく考えると、アポ取りして商談を重ね、見積もりを出し、交渉で値引きも必要になるだろう。成約後も社員一人ひとりの体格に応じた作業服の調達と在庫管理も必要だ。日常業務を想像すると「追加」で1着注文が入り、1着届けるという毎日。人手も時間もかかる。

そういう仕事はすべて「しない」と考えるのがワークマンだ。

「製品が良ければお客様は自然にくる」
「お客様が自然にこないような製品は出さない」

そうした考えで大きな市場を捨て、小さな市場で高いシェアを取る。作業服の法人需要を捨て、個人向けの店売りに特化する。はなから競争しないと決め、絶対に勝てるポジション取りをした。

業界を見渡すと、法人向けには大手販売業者が複数いるが、個人向け店舗は零細業者が多く、ワークマンの独壇場だ。社内には法人営業部員が3人だけいるが、これは大手法人客の情報取集がおもな仕事だ。そこで勝負する気はそもそもない。

なぜワークマンで買い物をする人は値札を見ないのか

次に、価格やコストについて考えた。

あるとき、店舗でお客様が製品を購入する様子を見ていた。しばらくすると、どこか違和感を覚えるようになった。お客様が製品を見つけてからレジに到着するまでが早い。さらに観察を続けると、お客様が値札をまったく見ていないことに気づいた。

土屋哲雄『ワークマン式「しない経営」 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』(ダイヤモンド社)

土屋哲雄『ワークマン式「しない経営」 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』(ダイヤモンド社)

何かを購入するとき、価格は大事な選択肢だ。値札を見て思い直し、別の製品を選んだり、別の店に足を運んだりすることもある。

ところがワークマンのお客様は、機能やサイズはタグで確認しているが、値札は見ないでレジまで製品を持っていく。レジでは価格が表示されるが、高いとも安いとも言わず、そのままさっと支払って店を出る。これは大変な信頼感だと思った。

ワークマンの製品は、他社製品に比べて機能がよく、安いことをお客様が確信している。

じつは製品価格は値札を見なくてもお客様にわかるよう規則性を持たせていた。

●普通の防寒ブルゾン 1900円(税込)
●耐久撥水防寒ブルゾン 2900円(税込)
●完全防水ブルゾン 3900円(税込)

と機能で価格がわかるしくみだ。それが「値札を見ずに買う」につながっている。

「作業服ならワークマン」と認識されている

ワークマンは作業服という小さな土俵で、高機能な製品を安く提供してきた。

ワークマンの作業服は1500円(税込)でも伸縮性や通気性などにすぐれ、高機能だ。競合メーカーは低価格帯で同レベルの製品を個人向けにつくれず、一つ上の3000円台の価格帯に移行していた。

どの業界にも言えることだが、他に先駆けて行動を起こすと競争優位に立てる。

消費財を製造しているメーカーが製品を先に出し、消費者から「あの製品ならあの会社」というイメージを定着させてしまう。「お酢のミツカン」「マヨネーズのキユーピー」などがいい例だ。

早くから個人向け作業服の旗手として事業を行ってきたために、お客様に「作業服ならワークマン」と認識されている。そのため後発企業が同じポジションを獲得しようとしたら、莫大な投資が必要だ。新規参入は非常に難しい。

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土屋 哲雄(つちや・てつお)
ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。
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