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23年前の薬理学の教科書をながめてみた。

会社で雑談をしている時に、上司と大学時代の薬理学の授業の話になりました。

「どんな薬を習ってたか」なんて話題になると、「あの薬はまだ出てなかったよな」「この薬もまだ出てたなかったな」なんて言葉が止まりません。私が大学で薬理学の授業を受けたのは1990年くらい。20年前には、今、世の中でごく普通に使われている薬は、ほとんど世に出てなかったんだなぁ、と実感しました。

家に帰って、大学時代使ってた薬理学の教科書を引っ張りだし、パラパラとめくってみます。教科書は、1989年に発行された「NEW薬理学」の初版(今は、第6版まで出てるようですね)。薬理学の教授が「すごくいい教科書が出たんだ」とベタ褒めしてたのが懐かしいです。

23年前の教科書を見てみると、こんな感じ。この20年でいかに華々しく新薬が登場してきたか、がわかります(というか、ほとんどが1990年代の成果なのですが)。

一番変化を感じるのは糖尿病治療薬の項です。教科書の掲載されているのは、インスリンとSU剤(スルホニルウレア剤)しか紹介されていません。現在、糖尿病治療薬の選択肢は、チアゾリジン系誘導体、αグルコシダーゼ阻害剤、DPP4阻害剤、GLP1アゴニストがあり、23年前とは全く治療の幅が異なっていることがわかります。

抗うつ薬の項には、抗うつ薬の世界に革命を起こしたSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は掲載されていません。代表的SSRIであるフルオキセチン(商品名プロザック)がアメリカで発売されたのは、1988年です。抗うつ薬といえば、三環系・四環系抗うつ薬とMAO(モノアミン酸化酵素)阻害薬の時代でした。

アルツハイマー病治療薬の項には、ドネペジル(商品名アリセプト)に代表されるコリンエステラーゼ阻害薬は掲載されていません。わずかに、コリンエステラーゼ阻害薬であるフィゾスチグミンについて「フィゾスチグミンの投与が試みられてたが、効果が不定であることや副作用により実用化されていない」との記述があります。ちなみにドネペジルは、アメリカで1996年に承認されました。

高血圧治療薬には、現在最もよく使われているARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)は掲載されていません。世界で製品化されたARBは、アメリカで1995年に承認されたロサルタン。ARB登場前の主役であったACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬については、一番最後にちょこっと紹介されているだけです。

抗止血薬(コレステロール低下薬)には、あまりにも有名なHMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)が登場していません。世界で初めて製品化されたスタチンは、1987年アメリカで承認されたロバスタチン。ぎりぎり教科書に間に合わなかった、、という感じでしょうか。

胃酸分泌抑制薬には、PPI(プロトンポンプ阻害薬)がまだ登場していません。世界で初めて製品化されたPPIは、1987年、欧州で承認されたオメプラゾール。教科書の中では、H2ブロッカー(ヒスタミンH2受容体拮抗薬)が紹介されています。

リウマチ治療薬に関しては、現在のスタンダード治療薬であるメトトレキサートおよび抗体医薬(抗TNF抗体など)などは登場していません。メトトレキサートは急性リンパ性白血病治療薬として、抗腫瘍薬の項で紹介されています。抗体医薬にいたっては、抗体を医薬品として使用するという概念自体が紹介されていません。同様に、分子標的薬という概念も、影も形もありません。

ざっと見ただけでこんな感じ。私が大学で薬理を勉強し研究職についた時には、今現役で活躍している薬たち(古い教科書には紹介されていなかった薬たち)が続々と市場に出てきました。こんな薬が、いつかは自分にも作れるんだろうな、なんていう甘い(本当に甘い)夢を持っていたものです。

23年間の進歩はすごいな、と思うと同時に、「手が付けられそうなところはほとんど手がついてしまったのだな」という感じもします。新薬がなかなか世の中に出ない、死の谷に迷い込んだようなこの10年、はたして光はどこにあるのか。手探りの日々がまだまだ続きそうです。

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