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国際男性デーに考える、「もうやめたほうがいい」男の子の育て方3つ

11月19日は「国際男性デー」。男性の健康や生き方を見つめる目的で始まり、最近は日本でも取り上げられるようになりました。日本の男性はなぜ生きづらさを感じがちなのか、そうした大人にしないために親が知っておくべきこととは──。男性学の第一人者、田中俊之先生が解説します。

子どもと手をつなぎ、一緒に歩く両親

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RyanKing999

競争心や男らしさは本当に必要か

日本では2010年代以降、男性の生き方を問い直す動きが進んでいます。働き方改革や女性活躍推進、「#Me Too」運動などもそのひとつ。つい最近では、弁護士で自身も男の子の母親である太田啓子さんの著書『これからの男の子たちへ』も大きな話題になりました。

この本には、ジェンダー不平等の社会で男の子が育ってしまうことの問題点が実践的に書かれていて、僕も息子を持つ親の一人として、深く共感しながら読みました。日本では、男の子は「競争に勝つ」ことや「男らしさ」を重視して育てられがちです。僕は、こうした育て方は、大人になってからの生きづらさにつながるのではないかと考えています。

大学でも、性別分業やジェンダー不平等を、まったく悪気なく「そういうものだ」と思ってきた学生は少なくありません。例えば、ある男子学生は高校時代、部室の掃除は女子部員の仕事だったと話してくれました。大学でジェンダーの問題を学んで初めてそれはおかしいと気づき、もっと早くにそうした視点を持ちたかったと語っていました。

これは本人の元々の特性ではなく、「男の子らしく」育てられた結果とも言えます。しかし、今後の社会でますます多様化が進んでいくことを考えると、旧来の男らしさや性別分業意識は、むしろ変えるべきものとして考える必要があります。そのためにも、僕は次の3つの育て方はもうやめたほうがいいと思っています。

これからの親が避けるべき育て方とは

第一に、「競争に勝つ」ことに重きを置くのはやめるべきだと思います。例えば、息子が友達とのケンカに負けたり、スポーツの試合で活躍できなかったりすると「男の子なのに情けない」と言ってしまう。

親は、負ける子になってほしくないという思いからついこう言ってしまいがちですが、他者に勝つことで評価され続け、そこに執着する人間になると、将来さまざまな問題が起きる可能性があります。

息子をしかる母親

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

今、社会は合格や昇進などの勝敗ではなく、その人の個性や成長度を評価する方向に変わりつつあります。企業も、受験や出世競争を勝ち抜いてきたかどうかより、その人独自の力、例えばコミュニケーション力やマネジメント力などで社員を評価するようになってきています。

こうした組織の中では、他者に勝つことが自分の価値証明だと思っている人は通用しません。他者に勝ちたい、つまり人より先に昇進したいと熱望しても評価されず、昇進できないわけですから、本人は挫折感の中で働き続けることになってしまいます。

「男だから仕方がない」は通用しない

第二に、「男らしくあれ」と育てるのも終わりにしたいものです。男らしさや女らしさにとらわれたままでは性別分業意識が強くなりがちですし、男は大黒柱であるべきというプレッシャーは生きづらさの原因にもなります。

第三に、「男の子は多少乱暴でもいい」という従来の意識も変える必要があります。粗暴、不真面目、大ざっぱといった性質は、本来なら欠点と考えるべきものですが、日本では「男だから仕方がない」と許されてきました。

しかし、多様性が進んだ社会では、性別ではなく個々人の特性が評価の対象になります。男女問わず乱暴な人は敬遠され、優しさやきめ細かさを持った人が評価されるようになるでしょう。

そのため、欠点があっても「男の子だから」と許されて育った人は、今後の社会で通用しなくなるかもしれません。では、そんな大人にしないためにはどう育てればいいのでしょうか。

幼い頃から生活力を育てる必要性がある

まず「競争に勝つ」は、他者との比較で勝ち負けを決める考え方です。今後はこうした相対評価はやめて、その子なりの成長に注目する「絶対評価」を心がけてほしいと思います。

例えばひらがなを書くのでも、まだできないうちから「○○ちゃんはもう書けるのに」と言うのではなく、その子が書けるようになったら初めてその成長をほめるのです。

絶対評価や個別対応は組織マネジメントにおいても重要で、管理職が部下を育てる際に求められる資質でもあります。その意味で、相対評価しか知らずに育った人は「できない上司」になってしまう可能性が高いと思います。

また「男らしくあれ」はやめて、男の子にも家事の手伝いをさせるなど、性別分業を意識させないように育てたいものです。今後、フルタイム共働き家庭がますます増えていけば、家事育児は女性の役割だと思い込んでいるような男性は通用しなくなります。

加えて、今後は生涯未婚のままでいる人も増えていくと予想されています。その時に家事力がゼロだったら、困るのは本人です。現状では、娘には家事の手伝いを頼むけれど、息子には頼まないという家庭も少なくないようです。実際、授業でも女子学生から「兄や弟はお手伝いをせず自分だけがしていて、それを当たり前だと思っていた」という体験談をよく聞きます。

今後は、男女ともに幼い頃から家事を含めた生活力を育て、同時に「男は大黒柱として女性を養うべき」という古い思い込みも正していかなければなりません。旧来の男らしさや女らしさにとらわれず、誰もが自分の望む生き方を選択できる──こうした社会が実現すれば、生きづらさを感じる人も減っていくように思います。

すでに大人になった人を変えるのは手遅れ

そして、粗暴さなどの欠点も、気づいた時に指摘していきたいもの。男の子はふざけて相手を叩いたり、女の子のスカートをめくったりといった行動をしがちです。これも「元気がいい」で済まさず、いけないことはいけないと言い聞かせるべきです。たとえおふざけでも、相手が痛がる行動や性暴力につながる行動はNGだという意識は、育ってからでは変えにくいのです。

しつけにかかわらず、すでに大人になってしまった人の意識を変えるのは難しいものです。ですから、今、子育て中の人には、ぜひ性別にとらわれない教育を心がけていただきたいと思います。過剰な競争意識は挫折感のもとになりやすく、また性別分業意識はジェンダー不平等への鈍感さを生み出してしまいます。

そのまま大人になった時、つらさを感じるのは本人です。社会はどんどん多様化しており、この流れが逆行することはおそらくないでしょう。将来、多様化した社会で通用する人間になってもらうためにも、その子の性別にとらわれず、個性を尊重する育て方を心がけていただきたいと思います。

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田中 俊之(たなか・としゆき)
大正大学心理社会学部人間科学科准教授
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。著書に、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など。
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(大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中 俊之 構成=辻村 洋子)

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