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「小学校でのあだ名禁止」が引き起こす"いじめ"より深刻な大問題

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いじめ防止の観点から、校則であだ名を禁止する小学校が増えている。東京学芸大学附属世田谷小学校の沼田晶弘教諭は「『あだ名を禁止すれば、いじめがなくなる』と決めつける考え方が、子供をめぐる問題の本質を見誤らせる危険性をはらんでいる」という――。

東京学芸大学附属世田谷小学校の沼田晶弘教諭

撮影=林ユバ

1つのポイントは「本人があだ名をどう受け止めるか」

10月末、テレビのニュース番組をきっかけに、小学校での「あだ名禁止」が話題になりました。いじめにつながる、という理由であだ名を禁止する学校が増えているそうなのです。

ボクは、違和感を覚えました。あだ名だけを禁止すれば、すべてのいじめをなくせるのか。仮に禁止したとしても教師の目の届かない場はどうするのか。そもそも、あだ名は、いじめの原因になるのか、と。

ボクが勤務する東京学芸大学付属世田谷小学校では、あだ名は禁止されていません。いままで受け持ってきたクラスにも、あだ名で呼ばれる子もたくさんいますが、みんな親しみを持って使っていると思います。

それに、ボクらの学校ではあだ名で呼ばれる教師もいます。もちろんTPOをわきまえ、いつでもあだ名で呼んでいいわけではないことも教えていますが。ちなみにボクは「ぬまっち」。ある時期、学校で末尾に「ち」をつけるブームが起きたのです。また、クラスに「いりょう」と呼ばれている子がいます。名字と名前の短縮でそのあだ名がつきました。本人も気に入っているようで、クラスに広まっています。

本人があだ名をどう受け止めるか。彼は「いりょう」というあだ名が気に入ったから受け入れた。あだ名について考えていく上で、そこが1つのポイントになるのではないかと思います。

「あだ名禁止」が話題になった当初、ボクが担任するクラスの朝の会で、4年生の子どもたちに聞いてみました。

「ニュースで『あだ名禁止』の学校があると言っているけど、うちのクラスはどうする?」

「あだ名」とは親しみを込めた呼び方である

すぐさま「いまのままでいいんじゃないの?」「ありえない。なんであだ名で呼んじゃいけないの?」という反応のほか「オレのこと『雑魚』って呼んで」とふざける男子生徒もいました。ボクが「毎日、『雑魚』と呼ばれて、怒らない自信があるのなら先生はそれでもいいぞ」と問い返すと、彼は少し考えてから「いや、やっぱり怒るかも……」と答えました。

東京学芸大学附属世田谷小学校の沼田晶弘教諭

撮影=林ユバ

そんなやり取りをしているさなか〈あだ名〉を辞書で調べた生徒がこんな話をしました。

「あだ名には〈他人を親しんで本名以外につける名〉という意味があるらしいよ」

明鏡国語辞典を厳密に引用すれば、〈他人を親しんで(または、あざけって)本名以外につける名〉ですが、子どもたちは友だちを親しんで呼ぶニックネームとして受け止めているようでした。そのせいでしょう。結局「雑魚」は、あだ名として定着しませんでした。子どもたちが親しみを感じなかっただけでなく、「雑魚」と呼べば、彼が腹を立てるのが分かったからです。生徒たちが相手の気持ちを想像できることがうれしかったし、あだ名についてこういう話し合いを持てたことが彼らにとっていい学びになったと思いました。

呼ばれた相手がイヤがらない。それが、あだ名で呼ぶ最低限のルールといえるのではないかと思います。相手がイヤがる呼び名を言い続けるのは、あだ名ではなく、ただの悪口です。

あだ名で一躍クラスの人気者に

納得できない呼び名で呼ばれれば、その子は怒ったり、不愉快な表情になったりする。それを面白がって、周りがはやし立てる。やがて本人は学校に行きたくなくなってしまう……。そんな負のスパイラルは確かに存在します。そう考えると、あだ名がいじめに発展するリスクになるのなら禁止すべきでは、と結論づけたくなる気持ちも理解できます。

しかし本当にそうでしょうか。子どもにとって、あだ名がプラスに働くきっかけになる場合もあるのです。過去に、「鉄道ダリン」というあだ名をつけた子がいました。

ある日、クラスの女の子が「ぬまっち、これ面白いよ」と録音を聴かせてくれました。それは、クラスの男子が電車の車内アナウンスを耳コピし、披露する音声でした。あまりの完成度の高さに衝撃を受けたボクは、すぐさま彼を呼んで、実演してもらいました。お世辞を抜きに、本当に凄い才能だと感じました。いまも講演会に彼が遊びにくるとみんなの前で披露してもらったり、本人に許可をとって「鉄道ダリン動画」を使用させてもらったりするほどです。

クラスで紹介すると、彼はみんなに絶賛されました。実は、彼は車内アナウンスが大好きで、いつでもブツブツと練習していたり、友だち同士でコミュニケーションが少し苦手だったりしたせいで、うまくいっていなかった時期がありました。しかし特技の披露をきっかけに、「鉄道ダリン」は、クラスの人気者になりました。何事にも積極的に取り組むようになり、全国の自信を持てない子に読んでもらえる本を書きたいと実際に執筆を始めたようです。

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