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《アルカイダとの戦いは続いていた》米国によるNo.2暗殺の裏側と、バイデン政権の“不安すぎる中東外交” - 飯山 陽

 11月13日、「ニューヨーク・タイムズ」紙は「アルカイダ」のナンバー2であるアブ・ムハンド・マスリが今年8月7日にイランでイスラエルのエージェントによって殺害されたと報じた。後日AP通信は、4人の米当局者から殺害の事実を確認したと報じている。

【画像】世界最強の情報機関「モサド」の正体とは

 マスリ暗殺を最初に報じた「ニューヨーク・タイムズ」は、米政府は長年、イランでマスリやその他のアルカイダ・メンバーの追跡を行なってきたと報じた。AP通信によると、暗殺を実行したのは米政府から情報提供を受けたイスラエルの諜報機関「モサド」の暗殺部隊「キドン」だという。

世界最強と名高い諜報機関モサドと暗殺部隊キドン

 モサドはイスラエル諜報特務庁の通称であり、世界最強の情報機関とも言われる。キドンはモサドの工作部隊のひとつであり、特定の人物の暗殺を実行する。2016年からモサド長官を務めるヨシ・コーエンは2018年、モサドのエージェントはイラン国内でも活動していると示唆した。

 アメリカもイスラエルも当局はマスリ暗殺を公式には認めていない。だが事実が報道の通りだとすると、トランプ政権は「イスラム国」指導者バグダーディー、イランの革命防衛隊司令官ソレイマニに続き、アルカイダのナンバー2も“仕留めた”ことになる。

 そして11月13日には、ビンラディンの衣鉢を継ぐアルカイダの最高指導者アイマン・ザワーヒリーも実は1カ月前にカタールのドーハで死亡したという情報が流れている。ザワーヒリーは以前から病気を患っているとされていた。

 日本ではアルカイダについてのニュースが報じられなくなって久しい。しかしそれはアルカイダが消滅したからでも、弱体化したからでもない。アルカイダは今も世界中にネットワークを張り巡らせ、イスラム教による世界征服という目標実現のために活動している。


アフガニスタンで撮影されたビンラディン(左)とザワーヒリー ©getty

変わらず「世界征服」を進めていたアルカイダ

 アルカイダは1988年、サウジアラビアの富豪の息子であるオサマ・ビンラディンを中心に結成された組織だ。

 ビンラディンは2001年9月11日の米同時多発テロの首謀者とされ、事件後、アルカイダの名は一躍世界に知れ渡ることになった。米政府はテロとの戦いを宣言。「タリバン」によってアルカイダが匿われていたアフガニスタンへの軍事攻撃を開始した。

 その攻撃は苛烈を極めた。

 10月にアメリカはイギリス軍との有志連合で、カブールのタリバン政権中枢やアルカイダの訓練所などへの空爆を開始した。投下された爆弾は約1万トン。第2次世界大戦中にドイツ軍がロンドン大空襲で投下した爆弾の半分に相当すると言われている。

 反タリバンの「北部同盟」や有志連合の地上部隊も攻勢に出て、首都カブールやタリバンの本拠カンダハールを攻略。戦闘開始から約2カ月でタリバン政権は崩壊した。その後、ビンラディンはタリバンの最高指導者ムハンマド・オマルと逃亡したが、2011年に米軍の作戦によってビンラディンも死亡した。

2代目指導者の座についたエジプト人医師

 その後、イスラム国の台頭などもあり、日本ではアルカイダの名前は徐々に耳にしなくなっていった。しかし実際には前出のエジプト人の医師・ザワーヒリーが2代目指導者に就任。その後も、アルカイダは変わらず活動を継続している。

 米国の対アルカイダ作戦も、最初の空爆から約19年に渡って続いていたが、2020年2月、米政府とタリバンはアフガニスタンからの米軍撤退で合意。米軍撤退の条件のひとつには、タリバンがアルカイダなどの国際テロ組織と協力しないことが挙げられ、タリバンも表面的にはこれを了承した。

 しかし同年5月、国連がタリバンは今もアルカイダと協力関係にあるという報告書を公開したのだ。これによると、アフガニスタンには数百人のアルカイダ戦闘員がおり、タリバン兵とともに軍事活動を続けているという。

アルカイダを支援し続ける複数国家の存在

 アルカイダの支部はアジアからアフリカまで各地に点在する。米政府はシリア、イエメン、ソマリアなどでも対アルカイダ作戦を展開している。2020年9月にはシリアのアルカイダ系組織フッラースッディーンの幹部をドローン攻撃により殺害したと発表した。

 フランスも主に西アフリカで対アルカイダ作戦を展開している。2020年6月にはマグリブのアルカイダの指導者を殺害したと当局が発表。9月に仏紙シャルリー・エブドが預言者ムハンマドの風刺画を再掲すると、アルカイダが再度の攻撃を警告する文書を公開した。2015年にシャルリー・エブドの事務所を攻撃したアルジェリア系イスラム教徒のクアシ兄弟は、アルカイダのメンバーだった。

 今回殺害されたと報じられたマスリは、1998年のケニアとタンザニアの米大使館爆破テロの首謀者とされる。そのマスリがイランで暗殺されたという事実もまた、アルカイダが世界に広く支援者を持っていることの証だ。

 そしてイランは、1990年代からアルカイダを支援していると言われてきた。

イランとアルカイダの“密”な関係

 今回、マスリと共に娘のマルヤムも暗殺された。マルヤムはビンラディンの息子ハムザ(2019年に死亡)の妻だった。2人の結婚式が挙げられたのもイランだとされる。マスリも2003年からイランに逗留、他にもアルカイダ指導部メンバーが複数潜伏しているとされる。

 アルカイダがいまもイランと協力関係にあるというのは、アメリカやイスラエル当局にとっては“周知の事実”なのだ。

 今年8月7日にアルカイダのナンバー2であるマスリが殺害された際、イラン・メディアは「レバノン人歴史研究者が銃殺された」と報じた。マスリは2015年からは名前と身分を与えられ、テヘラン郊外で自由気ままに暮らしていたと伝えられる。マスリ暗殺が報じられると、イラン当局はただちに「我が国にはテロリストなど一人もいない」と事実を否定した。

 イランはイスラム教シーア派を奉じる反米イスラム国家だ。対してアルカイダはイスラム教スンニ派の武装組織である。しかしシーア派とスンニ派は敵対関係にあるという表面的な理解は正しくない。むしろ両者は共通の敵を前に手を組むのが一般的だ。

バイデン政権による「世界の治安リスク増大」

 イランに対し「最大の圧力」政策で経済制裁を強化するトランプ大統領とは異なり、トランプと次期大統領の座を争う民主党のバイデンはイランに対し融和策をとり、イラン核合意にも復帰する可能性を示唆している。

 イランが支援しているのはアルカイダだけではない。パレスチナ自治区ガザのハマスとイスラミックジハード、レバノンのヒズボラ、イエメンのアンサールッラー(フーシー派)など、中東各国の「代理組織」と言われる武装組織を支援し、これが中東不安定化の最大要因となっている。

 トランプ政権が「世界最大のテロ支援国家」と呼ぶ所以だ。

 次期大統領がイランへの制裁を解除する方向へと舵を切れば、それは即、中東のさらなる不安定化と世界の治安リスク増大につながる可能性がある。

 日本のメディアがイスラム過激派について報じないからといって、「もうイスラム過激派なんていない」と我々日本人が油断すれば、イスラム過激派の思う壷だ。彼らが日本も日本人もターゲットにしていることを、決して忘れてはならない。

(飯山 陽/Webオリジナル(特集班))

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