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「法曹一元」論が果たした役割と結末

今回の司法改革以前にも、日弁連・弁護士会が法曹人口増員の必要性を認めていたという事実があります。それは、弁護士会の悲願である法曹一元との関係においてでありました。1964年に意見書を発表した臨時司法制度調査会の議論で、法曹一元の実現には、法曹人口の不足が指摘され、その実現の条件として突きつけられる形となった弁護士会側は、「法曹の質の低下を招かない特別の考慮」を求めながらも、「特に弁護士人口を増加させる必要がある」という立場に立ったのでした(1967年「臨司意見書批判」)。

 つまり、弁護士から裁判官を採用するという法曹一元を実現させるためには、その給源としての数の確保は、当時から弁護士側の課題として受けとめる素地があったということになります。この法曹一元と法曹人口増員の親和性ともいえる関係は、実は今回の弁護士会内の「改革」論議での法曹一元の実現というテーマの登場と密接に関係していると考えられます。

 それは、弁護士会が一丸となってこの「改革」推進に回る過程で強調された法曹一元実現の悲願達成は、1990年代に会内に多数いた、それこそ臨司以来の会内で有力な法曹一元論者を、増員を含めたこの「改革」路線に動員する役割を果たしたようにもみえるからです。つまりは、これも内向きの会内合意形成の手段として使われた可能性です。

 ところが、その先の現実はどうなったのか――。法曹人口増員が法曹一元実現への道として主張されながらも、現実は正反対なることは、実は明白だったのではないか、という論を武本夕香子弁護士が展開しています(「司法改革の失敗」『弁護士人口論の原理と法文化』)。

  「なぜなら、もともと検察庁も最高裁判所も法曹一元を実現する意思はなく、その上、弁護士の収入が激減し、優秀な人材が集まりにくくなった弁護士から経歴・年齢及び成績至上主義の最高裁判所や検察庁が任官者を採用することはあり得ないばかりか、三百代言の跳梁跋扈による弁護士への社会的信頼が失墜することによりかえって法曹一元から遠ざかるからである」
  「今では、法曹一元が長年の悲願であった日弁連でさえ、法曹一元について以前ほど言及することはない。実証的にも法曹一元と法曹人口の激増が相反することが立証されたと言える」

 以前にも、弁護士会が掲げた法曹一元が弁護士任官というテーマにすげ替えられる形で、遠ざかってしまっている現実について書きました(「弁護士任官と法曹一元の距離」)。結局、弁護士会は法曹一元というテーマの前に、激増政策を受け入れたものの、弁護士任官という形で、その実現のはしごは外されている。しかも、激増政策そのものものも弁護士・会を正反対の方向に導いた、という話。つまり、両者とも、法曹一元実現への「条件整備」にも「一里塚」にもならなかった、ということになります。

 多くの弁護士が、このことを認識し、確信的にこれに突っ込んでいったとは思えませんし、その証拠もありません。期待感をもって進めた政策の「夢」から覚めるときが来た、ということなのかもしれません。ただ、この結末を想像していた、あるいは知っていたうえで、弁護士会の方向を促した人間たちがいなかったという証拠もありません。仮にそれを想定するならば、この結果を望ましい結論ととらえているのは一体誰なのか、ということからたどったところに、あるいは、その人間がいるのかもしれません。

 増員という状況は、さらに修習期間の短縮とともに、弁護士志望者に司法修習どころではない就職活動を強いる結果を招き、一方で、裁判所・検察庁も、もはや司法修習よりも、任官後訓練にシフトし始め、事実上、戦前の分離修習に近づきはじめていることも、武本弁護士は指摘しています。法曹一元どころか、これもまた戦前の弁護士の悲願であった統一修習までが崩れ出しているという話です。

 法曹人口激増政策の先に、何が想定され、何が存在しなかったのか――。その作業のなかで、問われるべきテーマの一つであるように思います。

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