記事

警視庁外事部門の組織改編 背景に高まる中国への警戒感

10月上旬、警視庁が2021年春に向けて「公安部外事部門の組織改編」を進めていることが伝えられた。報道によると、この組織改編によって現状の全3課体制から「ロシア担当の第1課、中国担当の第2課、朝鮮半島担当の第3課、国際テロリズム担当の第4課」という体制に移行するという。現状は第2課が中国及び朝鮮半島を担当しているが、来春からは課として中国と朝鮮半島をそれぞれ専門に担当することになる。

BLOGOS編集部

警視庁公安部外事部門の組織改編が行われるのは、19年ぶりであり、当時の改編の背景には、国際テロリズムに対する危機感の高まりによるものがあった。一方で今回の組織改編の背景には、中国に対する警戒感の高まりがあると言えそうだ。まず、外事警察及び警視庁公安部外事部門について概括し、今次改編に関する報道を確認し、その背景について考えたい。

北朝鮮、中国、ロシアを主な監視対象とする外事警察

外事警察とは、端的に「主に露中朝の対日有害活動を取り締まるための警察活動」である。警察白書の外事情勢に関する箇所を確認すると「北朝鮮、中国及びロシアは、様々な形で対日有害活動を行っており、警察では、平素からその動向を注視し、情報収集・分析等を行っている」という導入に始まり、北朝鮮、中国、ロシアの動向について記載されており、その3国を外事警察が監視対象としていることがわかる。

外事警察の具体的な任務については、平成30年に発行された立花書房の『新警備用語辞典〔増補版〕』の解説が簡潔で当を得ている。同書には「スパイ活動の取締り、大量破壊兵器関連物資等不正輸出の取締り、国際テロの取締り並びに出入国管理及び難民認定法に規定する犯罪の取締りなど」とある。全国の外事担当捜査員は、北朝鮮、中国、ロシアによる対日有害活動を無害化・無力化に向けた任務遂行のため情報収集及び事件捜査を行っている。

警視庁の外事部門は、1957年に組織改編が行われた際、公安第三課の外事担当が独立する形で公安部の「外事課」として新設された。その後、1962年の組織改編で外事課は外事第一課(ソ連担当)と同二課(中国、北朝鮮担当)に分割し、機能強化が図られた。2002年には、国際テロリズムの脅威の高まりを受け、外事第一課の国際テロリズム担当を独立させ、外事第三課が設置された。そして、2021年の春、19年ぶりの外事部門の組織改編が予定されている。

写真AC

今回の組織改編をめぐっては、NHKと産経新聞が10月9日に報じている。NHKは、改編の背景に中国及び北朝鮮の脅威の高まりにあると指摘し、作家の麻生幾氏及び聖学院大学教授の宮本悟氏のコメントをもとに中国及び北朝鮮の脅威の高まりを強調している。

産経新聞も同様に「中国と北朝鮮に対し、担当課がそれぞれ特化して対応できることとなり、情報収集の強化などが見込まれる」としている。大筋で誤っていないが、ミスリードしかねない記述として「北朝鮮関連事案の捜査に専従で当たる課を設ける」という部分がある。この点については、「これまでの第2課を分割し、中国担当と朝鮮半島担当をそれぞれに専従で当たれるようにする」といった表現がより実情に即していると言えるだろう。

警察庁から中国の工作への対策強化が指示

NHKと産経新聞の報道を見る限りだと、組織改編の背景は、中国と北朝鮮の脅威が高まっているという理解になると思われる。しかしながら、北朝鮮に対する脅威認識について特段の変化は少ないはずである。

朝鮮半島を担当する警察庁職員の人員は横ばいで推移している一方で、2015年頃から警察庁警備局(外事情報部外事課)における中国担当が増員傾向となり、警察庁として中国による対日工作への取り組みを強化しているとされる。こうした警察庁の方針に従い、地方警察においても中国担当の増強がここ数年で行われていたと聞く。

AP

中国担当経験者である某県警幹部は、北朝鮮の脅威を強調したメディア報道について、「決まり文句のようなもの」であるとし、北朝鮮の脅威は朝鮮民主主義人民共和国が建国されてから常にあり、警察として常にウォッチし続けなければならないものだと説明する。

今回の改編の背景は中国に対する監視の強化であることは間違いない。新冷戦という言葉が使われ始めたころから警察庁で中国による対日諸工作への対策強化が叫ばれていた。

課長以下幹部が中国に専念することができれば、決裁スピードが格段に上がる。警察庁と警視庁は、情報共有をしていないケースもままあるが、警察庁からの情報要求があった際の連絡スピードは速くなる。何を意味するかといえば、アメリカとの情報共有ということである。警視庁以外の道府県警においても中国担当の存在感が大きくなることを願う。

朝鮮半島担当は規模縮小との見方も

今回の警視庁の動きについて、ソウル駐在経験のある元外事捜査員は、韓国の治安当局筋の見方を参考に「韓国側は警視庁が中国に本腰を入れたと見ている。また、朝鮮半島情勢について日韓で情報共有がスムーズになりそうだとも考えているようだ」と説明する。

その上で、報道について「中国と朝鮮半島に特化させるということで、体制拡充というように見えるが、新たにできる第3課(朝鮮半島担当)はやや縮小する可能性も気になるところだ」と指摘する。この人物も北朝鮮の脅威についての警察内での認識は「横ばい」とし、「半島担当が減員となった所属もあるようだ」と内情を明かす。

「北朝鮮による脅威」の裏にある中国への警戒感

変化する中国の立場について、令和元年の警察白書では次のような記述が見られる。

中国は、諸外国において活発に情報収集活動を行っており、我が国においても、先端技術保有企業、防衛関連企業、研究機関等に研究者、技術者、留学生等を派遣するなどして、巧妙かつ多様な手段で各種情報収集活動を行っているほか、政財官学等の関係者に対して積極的に働き掛けを行っているものとみられる。警察では、我が国の国益が損なわれることのないよう、平素からその動向を注視し、情報収集・分析等に努めるとともに、違法行為に対して厳正な取締りを行うこととしている。

2010年から中国の名目GDPは、日本を追い抜き世界第2位となっており、その経済成長の一助となっているのが警察白書にあるような情報収集活動によって入手している日本が保有する先端技術とみられる。

中国の名目GDPが世界第2位になって以降、中国による西側諸国におけるスパイ工作に関する研究をまとめた著書の刊行も目立っている。デイヴィッド・ワイズの『中国スパイ秘録 米中情報戦の真実』(原書房、2012年)、ウィリアム・ハンナスらによる共著『中国の産業スパイ網』(草思社、2015年)、ダニエル・ゴールデンの『盗まれる大学 中国スパイと機密漏洩』(原書房、2017年)、クライブ・ハミルトンの『目に見えぬ侵略中国のオーストラリア支配計画』(飛鳥新社、2020年)といった中国によるスパイ工作の手法を垣間見ることのできる書籍は日本でも刊行され、捜査に関する参考資料として活用されているところである。

こうした状況について、中国担当の経験を持つ外事捜査員は「(これらの著書と)同様のことが日本でも間違いなく行われている。警察庁はここ数年で中国重視にシフトしている」と語った。中国のスパイ関連本の刊行や新冷戦といった世界的潮流が日本の外事警察にも波及している状況がうかがえる。

警視庁公安部外事部門の組織改編が行われるということは、外事警察にとって非常に大きな出来事である。今回の組織改編の背景は、北朝鮮による脅威の高まりがあるという見方もあるが、関係者のコメントからもわかるように中国による脅威の高まりによるものと言えそうだ。米中冷戦が熾烈化すれば、日本で収集できる中国関連情報の重要性も高まり、中国による対日工作も活発化する。この改編が(道府県警察にも波及し、中国担当が増強され)中国による対日有害活動を打ち砕くべく進むことに期待したい。

あわせて読みたい

「中国」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    GoTo見直し 協力体制みえず幻滅

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    医療崩壊を煽る報道に医師が怒り

    名月論

  3. 3

    みんなで隠蔽した近藤真彦の不倫

    渡邉裕二

  4. 4

    松本人志のGoTo巡る案に賛同続々

    女性自身

  5. 5

    宮迫&中田&手越共演で「TV崩壊」

    かさこ

  6. 6

    欧州の学者 日本と差は「民度」

    WEDGE Infinity

  7. 7

    コロナ禍で缶コーヒー離れが加速

    文春オンライン

  8. 8

    政府の問題先送り まるで戦時中

    猪野 亨

  9. 9

    対案出さない野党「追及で十分」

    PRESIDENT Online

  10. 10

    ジリ貧の書店 サービス不足原因?

    吉田喜貴

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。