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当事者が語る、ほとんどの人が知らない「共働き不妊治療」のお金以外の大問題

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菅政権の発足後、総理肝いりの政策として不妊治療への保険適用の拡大が議論されていることが報じられた。助成金制度についても所得制限の撤廃が検討されるなど、不妊治療の費用負担の改善にむけて大きく舵が切られたことは間違いない。ただ、不妊治療のハードルは、費用面だけではない。治療と仕事をどう両立するかは、多くの不妊治療当事者にとっての共通の課題である。不妊体験者によるサポートグループを運営するNPO法人Fineの松本亜樹子さんに伺った。

歩道橋を歩くビジネスウーマンの後ろ姿
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

保険適用のゴールはどこにあるのか

不妊治療は比較的新しい医療分野で、検査や治療法の研究も日進月歩で進んでいます。そして先進的な治療までを保険適用にするのは難しいと言われています。歯科医療のように、保険診療と自由診療を組み合わせた「混合診療」が認められれば良いのですが、それがかなわず、万が一、現状の高いレベルの不妊治療が受けられないなどということになってしまった場合、患者にとって最も肝心な「妊娠・出産が遠のく」という事態にもつながりかねません。

不妊治療がめざすゴールは、子どもを望む夫婦が1日も早くわが子を胸に抱けること。そのサポートのために経済的支援としての保険適用なら、どんな制度が必要なのか、ゴールを見誤らずに議論をしてほしいと願っています。

ガイドラインやチェック機構がない、日本の不妊治療

そもそも、現在、日本の不妊治療には治療におけるガイドラインがありません。これは、ひとくちに不妊症と言ってもその原因はさまざまで、くまなく検査をしても原因不明と診断される夫婦が多いことも関係しています。そのため、患者一人ひとりに合わせた「オーダーメイドの医療」が求められるのです。

ただ、その一方で標準治療がなく、クリニックごとに治療方針が違うことは、不妊治療を分かりにくくしている原因のひとつです。クリニックごとの治療成績を比べる手段がないことから、治療に対して不透明感を抱く患者も少なくありません。いざ治療を受けようと思っても、どの施設がいいのかを選ぶ情報があまりに乏しい。結局、口コミや人気度でクリニックを選ぶほかない、というのもよく聞かれる声です。

治療成績を公表している施設もありますが、どの時点で妊娠とするか、採卵した卵の数に対しての妊娠率なのか、移植に至った胚の妊娠率なのかなど、クリニックごとにデータの条件はまちまち。また、治療を受けた患者の年齢や不妊治療歴などもバラバラであるため、たとえ妊娠率の分母と分子を統一したとしても、一律にクリニックの成績を比べにくく、ましてや専門知識のない人が、これらの数字を読み解いて比較するのは非常に難しいと言わざるを得ません。

さらにもう一つ大切なのは、患者が本当に知りたいのは「妊娠率」ではなく「出産率」であるということです。往々にして妊娠率のみが取り沙汰されがちですが、患者の願いは「出産」であることも忘れてはならない重要な要素であると思います。

海外に目を移すと、たとえばアメリカやイギリスでは体外受精の治療成績の公表が義務付けられています。日本でもこのような整備を行い、医療施設に対してガイドラインをきちんと策定することが急務。保険適用の議論と同時並行で進められるべきだと思います。

目に見えない「不妊退職」の損失2083億円

経済的負担もさることながら、仕事との両立の難しさから退職という決断をする女性が少なくないことも不妊治療の大きな問題です。2018年に厚生労働省が行った調査によると、仕事をしながら不妊治療を経験した女性のうち、仕事との両立が困難なことから退職をした人は23%。不妊治療をしている女性の4〜5人に1人が退職を余儀なくされている、という衝撃的な実態が明らかになりました。NPO法人Fineの試算では、不妊退職の社会的・経済的損失は約1345億円、新たな人材を獲得するための採用コスト等を含めれば約2083億円に上ります。

こうした実態を企業の経営層にお話すると、皆さま口をそろえて「確かに大変な問題ですね。まあ、ウチには(不妊治療をしている人は)いないんだけどね」とおっしゃる。けれども、5組に1組の夫婦が不妊治療を受けていると言われる時代です。いないのではなく、言えないだけ。知らない間に、優秀な人材が辞めているかもしれない、ということにもっと危機意識を持っていただきたい、と強く感じます。

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