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ママうみ座談会 第4回 千葉の漁港を訪ねて 漁業関係者からの声

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大野一敏さん
株式会社「大平丸」社長
船橋市漁業協同組合組合長も務めた、江戸時代から代々続く東京湾の漁師。
家号「大平」は明治34年からで、今も巻網漁業を営む。
巻網漁は船橋浦においては、江戸末期に六人網として発展。
船橋大神宮境内には今も、六人網元衆の碑が有る。
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花岡和佳男
グリーンピース・ジャパン 海洋生態系担当
フロリダ州工科大学で海洋環境学専攻。
マナティーやウミガメの保護や、マングローブ林を伐採しないタイガープローンの養殖事業の立ち上げに取り組んだのち、2007年よりグリーンピースの海洋生態系問題を担当。
過剰漁業問題に対する活動や、放射能汚染の海洋や魚介類への影響調査活動の指揮を執り、政府や主要スーパーなどとの交渉に取り組んでいる。

江戸時代から代々続く東京湾の漁師で、船橋市漁業協同組合組合長も務めた大野一敏さんを訪ねに、東京都心から電車で30分ほどの船橋漁港に行ってきました。

福島第一原発の事故から1年8カ月以上が経ち、生産者の生活はどんな変化を迎えているのか。
東京湾での漁業の歴史、現状、そして放射能問題への取り組みなど色々とお話を伺いました。

ママうみ座談会 第4回「守りたいのは漁業。」


東京湾の生態系の破壊

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花岡:  大野さんとは、2010年7月に開催された「海の生物多様性を考える 魚が食べられなくなる? ~漁業と流通、消費を問い直す~」のシンポジウムでご一緒した以来ですね。グリーンピースは、日本の食の中核を成す魚介類の安全性と持続可能性を追求していますが、大野さんの会社はホントに長い間、この船橋で漁業を営んできていますよね?

大野さん:  '大平'の屋号がついたのは明治。家業として江戸時代から続いています。

花岡:  すごい長い歴史ですね。ここ船橋は日本一のスズキの水揚げ港とのことですが、まずは、東京湾の漁業についてお聞かせください。昔と比べてどのように変わりましたか?

大野さん:  ここらへんは以前、干潟でした。そこに航路を掘って港を作ったんです。埋め立てが盛んに行われたのは昭和30年代に入ってから。どんどん地形が変わり、漁業の形、そして生態系が変わりました。

花岡:  どのように生態系が変わったのですか?

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大野さん:  今の港は、満潮時と干潮時に垂直に水が上下するだけなんですが、干潟は満潮時と干潮時に瀬が変わります。そこに残る有機質を小動物が食べます。それが自然の浄化作用でした。植物も干潟の方がよく育ちます。干潟の時はアマモもたくさん生息していましたね。

花岡:  その干潟が埋め立てられたんですか?

大野さん:  そうですね。埋め立てで海底が腐り、川にはダムができ、海表面の流れが緩慢になり、そこからおかしくなっていったんです。

花岡:  どのように?

大野さん:  湾の面積が激減し貧酸素水界が年々拡大発生し、その為に年に1~2度、青潮が出現します。青潮の正体は海底の一部から発生する硫化水素(H₂S)が原因です。海面に浮上したH₂Sは空気中の酸素(O₂)と反応し水(H₂O)と硫黄(S)になり、硫黄の結晶が太陽光を受けてエメラルドグリーンに輝きます。これを青潮と言っています。それが東京湾の資源を減らす原因となりました。

花岡:  開発により環境が大きく変化し、生態系が崩れ、漁業資源にも大きな影響を与えたのですね。

生態系が崩れた東京湾

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大野さん:  まずは赤貝など底ものが減り始めましたね。スズキは江戸時代の料理本(黒白精味集)にも載っていましたよ。当時は相撲番付表のように魚番付表(※)があり、上魚はタイ、スズキ、コイ。中魚はボラ・ナマコ、ウナギ。下魚は、マグロ・イワシ・サバ・コハダですね。
※魚のランク付けのことで、上魚(じようざかな)、中魚(ちゆうざかな)、下魚(げさかな)と値段が安くなっていく。

花岡:  いまは高級魚のマグロが下魚だったんですか?

大野さん:  魚は鮮度が一番。マグロなどは生きたまま持って帰ってこれなかったから、安かったんですよ。逆に上魚とされていた魚は、海水が循環する魚槽へ入れて、活魚として新鮮な状態で水揚げをしていました。

花岡:  今は冷凍技術も発達しましたし、ソナー等を使って見つけた魚の群れを網で獲るから、漁業の効率化も進みましたね。それに伴って市場の需要もかわっていったのですね。

大野さん:  環境は人間が作るもの。手作業が機械に、網がナイロンに、船はエンジン搭載に。あとは、漁師の数が激減したことですかね。船橋漁港には昭和48年頃は組合員が1200名いましたが、今は準組合員をいれて、150人くらい。

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花岡:  日本の漁業者は激減していますよね。しかもその過半数が60歳以上で跡取りがいないなど、問題は山積みです。船橋で漁師が減った理由は?

大野さん:  やはり、埋め立て事業ですね。国力回復に外貨を稼ぐためIMF(国際通貨基金)から資金提供をうけ、石油コンビナートを作り、工業化していく中で漁業者の数が減っていきました。

花岡:  工業化で漁業が衰退したということですか?

大野さん:  日本近海は世界の三大漁場でした。九州から北海道まで、埋め立てで、稚魚の産卵の場がなくなりました。海が狭くなり魚種が減りました。工業団地へ人は流れ、漁師をやめたいという人も増えていきました。日本全国にあった良い漁場を陸地化したことが、漁師減につながった一因です。しかしうちの船は、20代30代がたくさん乗って元気に働いていますよ。

花岡:  漁業や魚食の歴史を次世代に継いで持続可能性を追求するには、やはり若い担い手が必要ですよね。素晴らしいと思います。さて、海の埋め立て、生態系の破壊、そして工業化が原因で漁業が衰退してく中、福島原発事故が起きて大量の放射線物質が海洋に流れ出し漁業の持続可能性を脅かしていますが、ここら辺の港の様子は?

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大野さん:  ここは3.11震災ですぐに被害が出ました。液状化、電柱も傾き、地面の陥没、2.5mの津波、船2隻も沈んで、そして次にきたのが原発事故による風評被害でした。東京都葛飾区にある金町浄水場からヨウ素が検出されたと報道されました。その配水地区が千葉県の「市川・船橋」と出たものだから、大騒ぎになりました。そして関西の大手スーパーが千葉県から北の魚は買わないと伝達があり、それまで取引があったのに、突然切られました。

花岡:  その後は、どのような対応を?

大野さん: そのあとNHKが「東京湾が汚染される」と報道し、こっちは仰天しましたよ。江戸前が終わってしまうって、子孫まで悔いが残るってそう思って国交省、文科省、環境省、農水省に陳情に行きました。川のホットスポットを取り除いて、東京湾への影響を止めてほしいと頼みました。江戸川も荒川も国交省の管理なので、土をさらってくれるように頼みこみました。国交省は泥をさらうのは、うちの担当だが、汚染は環境省の管轄だと言われました。環境省は、汚染された泥の処理法が決まっていないから出来ないと。さらに農林水産省からは、「被害が出たら補償します」と言われました。

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花岡:  私たちも震災以来、このことで政府と交渉を続けてきましたが、全く同様の対応でした。海や魚介類への放射能汚染の被害を最小限に抑えようとか、漁業者や消費者の不安を解消しようとか、そういう根本的な対応をしようとしていませんよね?

大野さん:  そうです。そんな悠長なことは言ってられませんよ。文科省は「モニタリングする」とだけ。それがなんなんだと思いました。

花岡:  縦割りの中、やれと言われている範囲だけをやるって感じで、政府としてとても頼りないですね。政府がそんなんだから、スーパーも先程大野さんがおっしゃられたような対応をするしかなく、それが消費者に誤った不安を根付かせ、それが漁業者に被害を押し付けるという形になっていますよね。政府がもっと中心となって、水揚げ港での魚介類の放射能調査を強化して、汚染されているものと、されていないものを分別し、汚染されているものはどの程度汚染されているのかを消費者に公表するシステム作りが必要なのだと思います。

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