記事

安藤優子が「34年のフジ生放送生活」を終えて気づいた“押しつけがましさ” 「文藝春秋」12月号「巻頭随筆」より - 安藤 優子

 フジテレビでの生放送生活にこの9月でピリオドを打った。今は亡き逸見政孝さんとコンビを組んだ夕方のニュース「スーパータイム」から、木村太郎さんと一緒に立ち上げた夜のニュース「ニュースJAPAN」、そしてまた夕方に戻っての「スーパーニュース」を卒業して、お昼の情報番組「直撃ライブ・グッディ」まで、なんと34年もフジテレビに通い、毎日生放送に臨んだ。


安藤優子さん ©文藝春秋

 その日常のルーティンがぼかっと無くなり、私にとってまさに「新しい日常」が始まったばかり。そんなある日の早朝急にダンナを職場まで送らなくてはならない事情ができて、我が家の犬2匹も乗せて、3週間ぶりにフジテレビのあるお台場に行った。犬を連れて行ったのは、ついでに近くの公園で朝散歩を済ませてしまうためである。誰かを送りにお台場に行く、という状況がやたら新しく、しかも犬連れ、不思議な感じだった。ガラガラの「お台場海浜公園」の駐車場に車を入れ、犬を降ろして散歩をした。

「あの建物の中で」髪の毛振り乱して生放送をしていた自分

 人影もまばらなお台場の公園、ランニングウエアでさっそうと朝ランする女性、ご夫婦らしき年配の男女がゆっくりとウォーキング、海に向かってストレッチをする若めの男性、などなど、それぞれの時間をそれぞれに過ごしている。ものすごく平和。とても静か。で、見上げれば大きな球体を戴いたフジテレビの社屋が。

 あの建物の中では今このときもすさまじい勢いで人が動き、走り、怒鳴り、叫び、生放送を送り出していると思うと、そのすぐ足元の公園の風景は別世界である。ほんの少し前までは「あの建物の中で」髪の毛振り乱して生放送をしていた自分は、「あの建物の外」の営みの空気にどれほど気づいていたのだろうか。

ニュースをお伝えする仕事をし始めて40年

 ニュースをお伝えする仕事をし始めて40年が経った。何を伝えるべきか、どう伝えるのか、毎日それなりに悪戦苦闘してやってきた。戦争があり、災害があり、飛行機事故が起き、政治が動いた。理不尽としか言いようのない無差別殺人があり、たくさんの命が一瞬で奪われる事件も多々起きた。毎日ニュースの発生しない日はなく、刻刻と変わる情勢に目を凝らし、どこよりも早く、しかも正確であることを心掛けた。かなり必死だった。

 でもどうだろうか。犬と散歩しながらふと目にした「あの建物の中で」実は一人「ニュース祭り」をしていただけではなかろうか、とそんな気がしたのだ。「これは大変なことになった」と意気込んでニュース速報をお伝えするとき、それがどれほど「建物の外」の人たちにとって重要なのか、どれほど意味があることなのか、私は思い及んでいたのだろうか。「建物の外」には、静かに流れる時間があり、変わらぬ個々人の営みがある。

「たった今入ったニュースです」と勢いこんで速報を入れても「それがどーした」という反応の世界の存在に気づかされた朝だった。ニュースのリードと呼ばれる短い前説部分に時折「驚くべき〇〇」という文言が使われることがある。「べき」などとはなんと押しつけがましいことか。と思って「べき」表現が原稿に出て来るとそっと削除していたのだけれど、「今入ったニュースです!」も同じくらいある意味押しつけがましかったかも、と思った。

私の日常は「ケツかっちん」のラッシュアワー

 業界用語に「ケツかっちん」という表現がある。「ケツ」は「お尻」で、「かっちん」は「ぴったり」くらいの意味で、合わせて「ケツかっちん」は、「ぴったり時間に終わらせる」ことを指す。こうやって書くとあんまりお上品な言葉ではないが、生放送はこの「ケツかっちん」の連続だ。

 何時何分何秒までにこのニュースを終わらせなくてはならない、の場合、「〇時〇分〇秒ケツかっちんで~す」と指示が入る。そして生放送を毎日やることは常に一日の行動に「ケツかっちん」があるわけで、毎日〇時〇分までには局なり現場なりに居て、〇時〇分〇秒ぴったりに放送を始めなければならない。だから勢い放送開始までの段取りがすべて逆算方式で「ケツかっちん」になってしまう。

 私の日常はそんな「ケツかっちん」のラッシュアワーみたいなもんだった。「新しい日常」はだから「ケツかっちん」の無い時間の流れのなかで、しばらく立ち止まって、よくよくあたりを見回して、自分なりにテレビとニュース、ちょっと偉そうに言えばテレビのジャーナリズムを、考えてみたい。

◆ ◆ ◆

 安藤優子さんの寄稿「ケツかっちんの無い日々」は、「文藝春秋」12月号の「巻頭随筆」と「文藝春秋digital」に掲載されています。

(安藤 優子/文藝春秋 2020年12月号)

あわせて読みたい

「フジテレビ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    医療崩壊を煽る報道に医師が怒り

    名月論

  2. 2

    欧州の学者 日本と差は「民度」

    WEDGE Infinity

  3. 3

    宮迫&中田&手越共演で「TV崩壊」

    かさこ

  4. 4

    みんなで隠蔽した近藤真彦の不倫

    渡邉裕二

  5. 5

    松本人志のGoTo巡る案に賛同続々

    女性自身

  6. 6

    検査少ない東京 実際の感染者は

    ktdisk

  7. 7

    ジリ貧の書店 サービス不足原因?

    吉田喜貴

  8. 8

    対案出さない野党「追及で十分」

    PRESIDENT Online

  9. 9

    香港民主派の周庭さんら3人収監

    ABEMA TIMES

  10. 10

    自民党も評価 公正だった民主党

    非国民通信

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。