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特集:トランプ劇場は終わらない〜米大統領選総括

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4年に1度、米大統領選挙が終わるたびに「自分はこんなことも知らなかったのか!」と驚くことが出てきます。2020年選挙は、まだ全ての結果が出たわけではありませんが、いつもと同じような余韻を感じているところです。

トランプ大統領は「選挙結果を認めない」と言っています。これはお得意の「プロレス」の一種でありましょう。事態は収束に向かいつつあり、事前に予想されていた中でも最良に近いコースを歩んでいます。そのことは株価の上昇にも表れているようです。

一方で議会選挙の状況も併せてみると、意外な風景が浮かび上がってきます。そして結論は、上のタイトルに掲げた通りということになります。

●しみじみ感じる米国選挙の伝統の重

あらためて感じるのだが、米国社会は敗者に対して冷たいのである。負けた人の周囲からはどんどん人が減っていく。今のトランプ大統領がまさにその状態で、あの白人至上主義団体「プラウド・ボーイズ」も鳴りを潜めている1。心配されていた暴動も、幸いなことに起きていない。

ワシントンDCでは、商店街が防御用のべニア板を外し始めた。それ自体は結構なことなのだが、ちょっとうら寂しい光景でもある。

勝者が讃えられるかたわらで、敗者はどこか見えないところへ行ってしまう。だからこそ「何事にも中間がなく、二つの勢力が白黒決着をつける」という米国社会が成立する。アル・ゴア副大統領やジョン・マッケイン上院議員も、大統領選挙に負けた直後は気の毒であった。選挙直後のワシントンDCで、筆者は「マッケイン/ペイリンに投票した僕を責めないで」バッジを見かけたものである。一般投票で46%を得ていたにもかかわらず!である。

12度目のTV討論会で”Standback,standby.”(引き下がって待機していろ)と告げたが、トランプ大統領は彼らのボスであるわけではなく、プラウド・ボーイズがその指示に従う義理もないのである。

米国社会が分断されていて、ほとんど内戦に近い状態だ、とは何度も言われてきたことである。しかし分断は、米国の歴史においては何度も繰り返されてきた。合衆国の建国時点では、「州権か、連邦か」という対立があった。19世紀には奴隷制の存続をめぐって、国全体が南北に別れて戦った。20世紀以降は保守とリベラルという対立軸ができて、それが近年ではいよいよ抜き差しならなくなってきた。それでも勝負がついたら、負けた側がしばらくはおとなしくなる。歴史上、何度も繰り返されてきたように。

そのトランプ氏は、「選挙結果を認めない!」と頑張っている。しかし、さすがに「詰んでいる」ようだ。本誌の10月2日号「米大統領選混乱の収拾策~19世紀に学ぶ」では、憲法修正12条による下院決選投票(1824年シナリオ)や、不明朗なディールの可能性(1876年シナリオ)をご紹介した。ところがそんな逆転劇の可能性はほぼ消えてしまった。

仮に米国が中央集権国家であって、選挙制度も全米共通のルールがあるのなら話は別である。訴訟を起こして最高裁に持ち込んで、「この選挙はトランプの勝ちであった」と宣告してもらえばいい。(もちろん実際の最高裁はそんなに簡単ではなく、彼らは全く別の論理で動いている。トランプ氏自身は、そこを甘く考えていたようだが)。

米国は州の権限が強くて、大統領選挙の投票ルールも各州が独自に定めている。合衆国憲法もそれを是としている。つまり地方分権型なのである。仮にトランプ氏が訴訟を起こすにしても、同時にいろんな州で裁判を争わねばならない。そのためには手間もカネも時間もかかるし、もちろん全部の州で勝てるはずがない。まるでブロックチェーンの原理のように、中央管理よりも分散型の方がいざという時のリスクは低いのである。

トランプ陣営が、僅差となった州で要請しているリカウント(再集計)も、12月第1週にはちゃんと間に合うらしい。だったら12月14日の選挙人投票日の投票日の6日前、いわゆる「セーフハーバー」の12月8日までには終わっているだろう。これでは、やはりトランプ陣営は「詰んでいる」。足掛け4世紀の使用に耐えてきた米大統領選システムは、一見危うく見えても実は強靭なのである。

負けた候補者は敗北宣言を出す、というのがこれまでの米国選挙の伝統であった。どうやら今回はそれがなさそうである。思えばトランプ氏は、米大統領として数々の「お約束」(Norms)を破ってきた。「選挙結果を認めない!」というのも、エピソード集に加えられる新たな1ページとなりそうだ。もっともその程度では、誰も驚いてはくれない。善くも悪くも、皆が「トランプ流」に慣れてしまっているからだ。

現役の大統領としては、いくつかの「意趣返し」(嫌がらせ)をする手段が残されている。国防長官のクビを切るくらいは序の口で、もっとも心配なのは「引継ぎをしない」ことである。特にコロナ関連で、ワクチン開発で行われてきた官民協力の内容をバイデン氏の政権移行委員会に教えてくれないのでは、人命にかかわる事態ともなりかねない。

来年1月20日の大統領候補就任式に、「現職大統領が出席しない」という事態も考えられる。「バイデン新大統領就任式中に、トランプ氏がフロリダでゴルフをしている」というのも、いかにもありそうな「絵」ではないだろうか。

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