- 2020年11月14日 17:30 (配信日時 11月13日 09:15)
「LGBTQへの差別は死後も続く」タブー視されてきたお墓と戒名の大問題
1/2欧米に比べて、LGBTQ(性的少数者)に対する法整備や社会保証制度が遅れている日本。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「仏教は性差にかかわらず誰もが救いの道が開かれていると説いていますが、現実的には同性愛の夫婦は一族の墓に入ることが難しい。仏教界では最近、こうした矛盾に関して議論が活発化し、LGBTQを積極的に受け入れる寺院や僧侶も現れた」と指摘する——。
LGBTQの人への差別は「死後」も続いている
仏教界でにわかにLGBTQ(性的少数者)をめぐる議論が活発化してきている。
11月5日、59の宗派などで構成する伝統仏教界の連合組織・公益財団法人全日本仏教会は、公開シンポジウム「〈仏教とSDGs〉現代社会における仏教の平等性とは 〜LGBTQの視点から考える〜」を開催した。
全日本仏教会のシンポジウムのチラシ - 写真=全日本仏教会公開シンポジウムより
SDGsの具現化を目指し、企業や自治体のLGBTQへの社会的な取組みを背景にして、保守的な日本仏教界が重い腰を上げた形だ。だが、家墓の承継や戒名など、江戸時代から続く慣習を変えていくのは一筋縄ではいかないのも事実だ。
日本は欧米各国に比べて、LGBTQに対する法整備や社会保証制度が遅れている。同性婚は法律上まだ認められておらず、財産相続をはじめ、さまざまな障壁が立ちはだかっているのが現状である。
「今」のことだけではない。LGBTQの人への差別は「死後」も続いているのだ。
「人間社会が始まってから、常に同性愛はありました。仏教は性差、社会的地位、制度などにかかわらず、誰もが救いの道が開かれると説いています。しかし、仏教界ではLGBTQについて、これまで(タブー視して)公には語ってきませんでした。平等であるべき仏教界の教えと、実際のあり方が違っているのです」
全日本仏教会の戸松義晴理事長はシンポジウムでこう語りかけた。日本仏教の連合組織のトップが仏教界のLGBTQ問題について公に言及し、これまでの仏教的慣習を問い直すのは珍しいことだ。
ここで少し歴史をさかのぼって問題点を整理してみよう。
仏教の教えには、そもそも性の差別は存在しないが……
古代インドで仏教をひらいたお釈迦さまは、身分にかかわらず、誰でも悟りの境地に達することができると説いた。お釈迦さまは女性の修行僧も認めていた。そもそも仏教の教えには、性の差別は存在しないのだ。
しかし6世紀、仏教が日本に入ってくると、状況が変わる。土着的な神道と、外来の仏教とが混じり合う(神仏習合)ことが契機になり、性による区別を始める。比叡山や高野山など仏教聖地で女人禁制が敷かれるようになった。
江戸時代に入り、檀家制度が導入されると庶民への弔いが一般化する。そこでは、性の区別がより明確化されていく。
例えば戒名。戒名(位号)は基本的には男女分けだ。宗派にもよるが浄土宗の場合、男性なら「信士」「居士」など、女性なら「信女」「大姉」などだ。LGBTQを考慮した戒名はない。
檀家制度の下では、「イエ」を単位として、弔いが継承されていく。つまり「先祖供養」である。男系長子が菩提寺の檀家になり、墓や仏壇を継承していく。祭祀の男系長子継承の慣習は今でも続いている。
LGBTQの割合は8.9%、うち35%がカミングアウト
近年まで、現場の寺院でLGBTQの話題が持ち出されることはまずなかった。ところが近年、SNSの普及なども相まって、LGBTQの権利が社会で共有されはじめると、仏教界にも変化の兆しが表れる。
オンラインシンポジウムに登壇した4人。左上から時計回りに、西村宏堂さん(浄土宗僧侶、メイクアップアーティスト)、川上全龍さん(臨済宗妙心寺派僧侶)、戸松義晴さん(全日本仏教会理事長)、杉山文野さん(ニューキャンバス代表取締役、NPO法人東京レインボー) - 写真=全日本仏教会公開シンポジウムより
近年、同性やトランスジェンダー同士の婚姻を承認し、独自の証明書を発行する自治体独自の「パートナーシップ宣誓制度」が広がり始めている。2015年11月に東京都渋谷区と世田谷区で同時に施行されたことがきっかけだ。私が住む京都市では本年9月から始まった。今月5日には群馬県が茨城、大阪に続き、3例目の導入を発表している。
企業などでも、LGBTQへのガイドライン策定が進むなど、理解を深める取り組みが広がりをみせている。
電通ダイバーシティ・ラボによれば、LGBTQの割合は8.9%。これは、ほぼ左利きの人口に匹敵する。うち35%がカミングアウト(実名で自分のセクシュアリティを他人に伝えること)しているという。つまり、僧侶や檀信徒の中には一定数LGBTQが存在する。
仏教界のLGBTQへの対応は「待ったなし」といえる。
「同性愛者でも(僧侶として)大丈夫でしょうか」
シンポジウムにはLGBTQの啓発活動に関わる3人が登壇した。
そのひとり、浄土宗僧侶の西村宏堂さんはメイクアップアーティストとしても国際的に活躍している人物だ。まさに西村さんはLGBTQの当事者でもある。
メイクアップアーティストとして活躍する西村さん - 写真=全日本仏教会公開シンポジウムより
西村さんはシンポジウムで、自分自身のセクシュアリティに苦しみながら修行に入ったことや、修行仲間からLGBTQを蔑むような発言を受けたことなどを赤裸々に明かした。
「僧侶の戒の中には、装飾品や化粧をつけてはいけない、という内容のものもあります。私が僧侶になることで仏教の秩序が崩れるのではないか、と悩みました」
西村さんは修行中、ある高僧に「同性愛者でも(僧侶として)大丈夫でしょうか」「メイクもハイヒールも好きなのですが……」と打ち明けたという。
すると、「同性愛者でも問題ないですよ。教えが正しく伝わるなら、キラキラするものをつけても問題はないでしょう。みんなが平等に救われることのメッセージを伝えていってほしい」と促されたことで、救われたと明かす。西村さんは修行を終えた後は、僧侶兼メイクアップアーティストとして精力的に活動している。
西村さんのように、LGBTQの僧侶は決して少なくない。しかし、多くがカミングアウトできずに「我慢して」きたと思われる。
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