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バイデン氏とイギリス首相の関係に溝? アメリカ大統領選の影響を英米識者はどう読み解いたのか

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米大統領選でジョー・バイデン元副大統領が当選確実となったことを受けて、英メディアはこれを祝福する報道を一斉に開始した。

ほとんどがバイデン氏に好意的な論調だった。これは同氏の政治姿勢や特定の公約を支持したというよりも、アメリカ社会の分断を象徴するトランプ現大統領の退出がほぼ確実となったことで、「ほっとした」という安ど感に根差しているようだ。

一方、EU離脱をめぐる政治姿勢などで反対方向を向くバイデン氏とジョンソン英首相。イギリスからは今後の英米関係を懸念する声も上がっている。

イギリス最大野党党首「アメリカは不誠実さではなく品位を選択した」

バイデン氏の当選確実を報じる、英各紙(8日付)(撮影筆者)

勝利が確実視された翌日(11月8日)の英各紙はほとんどがバイデン氏を「アメリカを一つにする」、「癒やしてくれる」政治家として報じている。

イギリス最大野党労働党のキア・スターマー党首は8日付オブザーバー紙への寄稿記事の中で、75年前の第2次世界大戦で、イギリスがアメリカとともに連合国側で戦ったことに関し、以下のように言及した。

2つの国は「『自由、協力、民主主義、法の支配』という共通の価値観の下で戦い」、「その重要性は今も変わらない」。バイデン氏の勝利は、「このパートナーシップを再設定し、世界が現在直面する新たな挑戦にとりかかる機会になる」。

また、有権者がバイデン氏と副大統領候補カマラ・ハリス氏を選んだことで、アメリカは「より良い、より前向きの将来を、分断ではなく結束を、恐怖ではなく希望を、不誠実さではなく品位を選択した」と綴った。

スターマー氏の論考はイギリス社会、特に知識層の間の共通のトランプ観を代表する見方である。

アメリカの分断を深化させた大統領

ガーディアン紙による、特集の裏面。トランプ大統領の失策をイラストと数字で表した(撮影筆者)

振り返ってみると、トランプ大統領は過去4年間、「アメリカ第一」を掲げ、それまでは常識と思われていた国際社会の様々なルールを度外視してきた。

ニューヨーク・タイムズやCNNなどアメリカの主要メディアを「フェイクニュース」と呼び、女性蔑視あるいは人種差別的と解釈されるようなツイートを発信。熱狂的な支持層を得て2016年の大統領選挙では勝利したものの、アメリカの分断を深化させた大統領という見方が広く共有されている。

イギリスのニュース週刊誌「エコノミスト」は10月29日付の記事で、トランプ氏が1期目を通じて「世界の導き手としてのアメリカ」の価値観や慣習を荒廃させたという点で深い損害を生じさせたと批判した。

しかし同誌は、新型コロナウイルスの拡大がなかったら、トランプ氏が「2期目を確実にする可能性があった」とも指摘する。

所得税の減税や規制緩和などで経済が活性化され、貧困層の所得額は年率4・7%増加。中小企業の景況感も大幅に上昇する中で、移民制限策も保守派の国民に歓迎されていただろう、と続ける。

一方、少数派だがトランプ氏の功績を高く評価した論評もあった。

タイムズ紙のコラムニスト、マシュー・パリス氏は「トランプは多くの点で正しかった」と題するコラム(11月7日付)の中で、その業績の1つとして「共産主義国家中国による西欧社会への脅威」に警鐘を鳴らしたことを挙げている。

しかし、残念なのは保守層の有権者の選択肢がトランプ大統領のような「嫌なポピュリズム(大衆迎合)的政治家」だけになる傾向だという。パリス氏は「知的な、保守中道の政治勢力」の不在を嘆いた。

バイデン氏は「トランプではない人」という理由で選ばれたのか

英リベラル系新聞ガーディアンは、9日付でバイデン氏の勝利特集を別冊で作った(撮影筆者)

アメリカを結束させ、癒やす政治家として期待されるバイデン次期大統領だが、米作家ナオミ・クライン氏は、トランプ氏に勝ったこと自体は偉業ではあるものの、「多くの有権者は反トランプとしてバイデン氏に票を投じた」と分析する(ガーディアン紙、電子版8日付)。トランプ氏が再選すれば「恐ろしい」と思ったからだという。

フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、サイモン・クーパー氏は10月29日付のコラムで「わくわくするような大統領の後には退屈な大統領が就任する」という持論を展開。

ロナルド・レーガン大統領の後にはジョージ・H・W・ブッシュ大統領、イギリスのマーガレット・サッチャー首相の後にはジョン・メイジャー首相、弾劾寸前まで行ったリチャード・ニクソン大統領の後にはジェラルド・フォード元副大統領が就任した例を挙げた。

コラム執筆時点では大統領選の結果は出ていなかったが、クーパー氏は、もしバイデン氏が勝利すれば、バイデン氏は「まるでフォード大統領だ」という。つまり、「まともな人物だが、国家的危機(今はコロナ危機)に対処できない政治家」になりそうだ、と予測した。

二つに割れたアメリカ トランプ大統領の退場後は

Getty Images

トランプ政権時代は、支持者と非支持者の間でアメリカが二つに割れた時でもあった。

「トランピズム(Trumpism)」という言葉もできた。これは、トランプ大統領が掲げる政策のことで、既存の政治エスタブリッシュメントを拒否し、アメリカの国益を最優先することが基本となる。また、トランプ氏の発言を指す場合もある。

この分断は単に特定の政治家を支持するか・しないかに限るものではなかった。

ガーディアン紙の電子版が8日付の記事で伝えた、米シンクタンク「ニスカネン・センター」のディレクター、ジェフリー・カバサービス氏の言葉によれば、「2016年の大統領選の時点でトランプ氏は、1980年代以降のアメリカ国民の間に生じている、住む場所や社会的階級による分断を認識していた」。

この「分断」はほかの多くの先進国でも発生しており、「都市圏に住み、グローバル化した経済の恩恵を享受する知識層」と「農村部や産業が荒廃した地域に住む、保守的で大学教育を受けていない層」とに分かれていた。

2007-8年の世界金融危機から、前者は比較的早く立ち直ったが、厳しい状況に陥った後者の「失業、絶望、家族の分裂」をオバマ政権(2008-16年)や主要メディアは見過ごしてきた、とカバサービス氏は指摘する。そして、後者を政治利用したのがトランプ氏だった。

トランプ大統領が退場後、トランピズムは消えるのだろうか?分断は収まるのか?

カバサービス氏によると、それはバイデン民主党政権が今後の4年間で何を成し遂げられるかによるという。もし新政権がトランプ氏の支持層となった経済的困窮に苦しむ労働者層の生活改善に取り組まず、合法な滞在許可を持たない移民の流入や犯罪を増やしてしまったら、トランピズムの大統領が再来するかもしれない、と結論付けている。

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