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人権侵害制裁法制定に前進

JAPC第3回会合 ⒸJapan In-depth編集部

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・人権侵害に対し制裁を科す「日本版マグニツキー法」制定の動き、超党派で。

・香港での民主派に対する人権侵害が念頭にある。

・与野党各々協議し、年明け通常国会での成立目指す。

マグニツキー法」という法律をご存知だろうか?もし聞いたことがあるなら、かなりの「人権問題」通だ。今、そのマグニツキー法の日本版を作ろうという気運が、超党派議員の間で高まっている。

この「マグニツキー法」、どういう法律かというと、「人権侵害を行った個人・団体を制裁対象とし、ビザ規制や資産凍結などを行う経済制裁法」である。

法律の名前となったセルゲイ・マグニツキー氏とは、ロシアの弁護士で、同国税務当局を巡る巨額横領事件を告発後、拘留され、37歳の若さで獄中死した人物だ。

▲写真 セルゲイ・マグニツキー氏 出典:VOA

この事件の後2012年、アメリカで関係者の資産凍結などを行う「マグニツキー法」が制定された。同様な法律は、既にイギリス、カナダ、エストニア、リトアニア、ラトビア、ジブラルタル(英)、ジャージー(英)、コソボ共和国などが制定済みとなっている。さらに、オーストラリアや、EUも制定に向けて検討を開始している。

では、何故今「日本版マグニツキー法」の制定が急がれているのか。理由は言わずと知れた、香港における人権侵害だ。

▲写真 逃亡犯引き渡し条例に抗議する香港市民 2019年6月 出典:flickr:Studio Incendo

これまでもJapan In-depthは、民主派が大勝した2018年の香港区議会選挙を現地で取材したり(参考記事:「対中政策で超党派銀連盟発足」「香港、民主派逮捕相次ぐ 国会議員ら抗議の緊急会見」)、民主活動家である周庭(アグネス・チョウ)氏をJapan In-depthチャンネル「ローズ・アイ」に招いたりしてきた。

▲写真 香港民主活動家周庭(Agnes Chow)氏 出典:Honcques Laus

その後2020年夏に香港で「国家安全法」が成立、民主派議員の資格はく奪や、民主活動家の逮捕などが相次いでいる。彼らに対する人権侵害は激しくなる一方で、日本でも、香港、そして中国当局に対する批判が高まっていた。

11月9日、国会内で開催された「対中政策に関する国会議員連盟(Japanese Parliamentary Association on China:JPAC)の第3回会合では、「日本版マグニツキ―法」制定に向け、担当省庁からヒアリングを行った。すなわち、現行法上どのような制裁を課すことができるのか、についてだ。

法務省出入国在留管理庁、財務省、経産省、外務省の担当職員がそれぞれ発言したが、驚いたことにどの省庁も人権侵害を理由に制裁を科した例はないとのことだった。これでは「日本は人権侵害に甘い国」というレッテルを国際社会から張られてもおかしくない状況だ。

この日は、衆議院法制局から「日本版マグニツキ―法(案)」について説明があった。

当日配布された「特定人権侵害問題への対処に関する法律案の概要(案)」によると、趣旨として、同法律は「莫大な国際人権法違反行為その他の我が国として看過できない特定の人権侵害問題(以下、特定人権侵害問題」という)への対処について必要な事項を定めるものとする」としている。

次に、「各議院等による特定人権侵害問題に係る調査の要求」として、国会は特定人権侵害問題の発生の疑いがあると認められる場合において、政府に対し、我が国の対処の在り方について調査を行い、結果を報告するよう求めることができる、とした。

また、「特定人権侵害問題への対処のための措置」では、人権侵害が発生していると認められるときには、様々な措置を講ずるものになっている。さらに、政府は、被害者の保護および支援に必要な措置を講じることや、その措置の国会への報告が必要となっている。

▲写真 JPAC共同代表の長谷元衆議院議員(左)と、山尾志桜里衆議院議員(右) ⒸJapan In-depth編集部

出席した議員からは、「対象国が中国だけでなく、ロシアはどうなんだ?という声が出たときはどうするのか?」などのいわゆる「ダブルスタンダード問題」への対応を問う声のほか、「特定人権侵害を定義付けしておいた方がいいのでは?また、誰がそれを決めるのか?」、「制裁発動要件のハードルはどうするのか?」などの質問が出た。

今回出た課題は各党に持ち帰り、各党の了承を得られたら、来年の通常国会に議員立法として提案したい、と、JPACは意気込みを見せた。

発足後3回目で法案のたたき台まで作ったことは評価できるが、まだ議論は端緒についたばかり。法案が成立するにはまだしばらく時間がかかりそうだ。

こうしている間にも、香港の民主主義は確実に蝕まれている。この法律が成立するかどうか、日本の人権問題への覚悟が試されているといえよう。

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