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アメリカ大統領選と、法廷でトランプ礼賛を続けた植松死刑囚。の巻 - 雨宮処凛

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 アメリカ大統領選が終わった。

 バイデン次期大統領の誕生が決まり、4年間にわたる分断と対立と憎悪と差別を煽るトランプ政治が終わることに今、ひとまず胸を撫で下ろしている。

 「私は分断ではなく結束を目指す大統領になると誓います」「対抗する人を敵扱いするのをやめましょう」「人種差別を根絶します」、そして「私に投票しなかった人のためにも働きます」。

 このような「マトモな」言葉を聞いて、この4年間、随分異常な言葉に慣らされてきたのだということに気づいた。そうして思い出したのは、相模原事件の植松死刑囚のことだ。

 この連載でも相模原事件の裁判に通ってきたことは書いてきた。7月には、傍聴記録をまとめた『相模原事件・裁判傍聴記 「役に立ちたい」と「障害者ヘイト」のあいだ』を出版もした。そんな横浜地裁の法廷で、植松はトランプ氏の名前を何度も口にした。

 例えば初めての被告人質問(1月24日)では、突然トランプ氏の礼賛を始めている。

 「とても立派な人。今も当時もそう思います」

 弁護士に「どこが?」と聞かれると、「勇気を持って真実を話しているところです。メキシコ国境に壁を作るとか」。「それはいいこと? 悪いこと?」と弁護士に問われると、「わかりませんが、メキシコマフィアが怖いのは事実です」。

 その後も植松は続けた。

 「トランプ大統領はカッコ良く生きてるな、生き方すべてがカッコいいと思いました」
 「見た目も内面もカッコいい」
 「カッコいいからお金持ちなんだと思いました」

 そんなトランプ大統領からの影響を聞かれた植松は、言った。

 「真実をこれからは言っていいんだと思いました。重度障害者を殺した方がいいと」

 トランプ氏は「障害者を殺せ」などと一言も言っていないのだが、植松はそう「受信」したのであろうか。

 また、事件前、植松は多くの友人たちに事件の計画について話しているのだが、その際、以下のように述べている。

 「知ってるか、世界でいくら無駄な税金が使われているか。世界に障害者が〇〇人いて、そのために〇〇円も税金が無駄になっている」「殺せば世界平和に繋がる。トランプ大統領は殺せば大絶賛する」「トランプを尊敬している。自分が障害者を殺せば、アメリカも同意するはず」

 なぜ、凄惨な事件を起こすことでトランプ氏が「評価」してくれると確信していたのか。

 事件を起こす5ヶ月前、植松は衆院議長に「障害者470人を殺せる」などと書いた手紙を出したことで措置入院となるのだが、退院数日後にも異様な行動をとっている。友人の結婚式の二次会に、植松は「トランプをイメージした」という服装で現れ、人目を気にせず大麻を吸い、「障害者はいらない」と話し続けて友人たちをドン引きさせたのだ。

 ちなみに「トランプをイメージした」格好とは、髪は金髪、黒いスーツに真っ赤なネクタイという姿。事件直前、植松はTwitterに同じような姿の自身の写真とともに「世界が平和になりますように beautiful Japan!!!!!!」と投稿しているが、あの姿はトランプ大統領のコスプレなのだ。

 また、事件が起きたのは2016年7月だが、植松は裁判で、アメリカの大統領選がその年の11月に行われたことに触れ、その後に自分が事件を起こすと「トランプみたいな人が大統領になったからこんな事件が起きたと言われるのでは」と思ったので、その前に事件を起こしたとも述べている。日本で起きた障害者殺傷事件を「トランプが大統領になったからだ」と考える人などいないと思うのだが、植松は、自らが事件を起こすことが「トランプに迷惑をかける」と思い込んでいた。見る人が見れば、「この事件の犯人はトランプの影響を受けたのだろう」と気づくと思っていたのである。

 あの事件がトランプ氏のせいで起きたなどと言うつもりは毛頭ない。しかし、トランプ氏の「剥き出しの、暴力的な本音」とも言える発言は、何かのタガを外したのは事実だと思う。「綺麗事や建前を言ってた奴らが何かしてくれたか?」と理想を語る人を陳腐化し、連帯ではなく分断の種をばらまき続けた4年間。

 友人や元カノの証言によると、植松は16年頃からトランプだけでなく、イスラム国やドゥテルテ・フィリピン大統領に関心を持つようになったという。イスラム国に関しては、「恐ろしい世界があるなと思いました」と否定的に見ている様子だ。一方、トランプやドゥテルテ大統領のことは高く評価している。ドゥテルテ大統領については、裁判で「覚せい剤を根絶するのは大変な仕事だと思いました」と話している(そのせいで、無実の人が大勢殺されているのだが)。

 両者に共通するのは、賛否が分かれながらも支持する人々は「誰も言えなかった、できなかったことをやった」と熱烈に支持する点だろう。排外主義で、「敵」を設定して憎悪を煽るやり方も似ている。

 そんなふうに事件前、世界情勢に興味を持ち始めていた植松は、ヤフーニュース等のコメント欄にたくさんの書き込みをしていたことは有名だ。「イイネしかできないSNSと比べてワルイネ(BAD)が新鮮」だったという(『開けられたパンドラの箱』より)。

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