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“鉄の女”が尊敬する“信念の男”とは? 上川陽子法相は“日本版ハリス”になれるか はんこ廃止、犯罪被害者支援…夫は東大時代のクラスメート - 平野 太鳳

近年は「テッパン法務大臣」とも呼ばれる上川氏

 婚姻届や離婚届の押印は廃止する――。これまで「婚姻届(離婚届)に、はんこを押させる」という文言は、男女の駆け引きとして日本の慣習にそぐう常套句だった。しかし、そんな文化もなくなることになりそうだ。

【画像】法務官僚が「ダントツで素晴らしい大臣」と評する人物は

 そうした方針を10月9日に示したのが、上川陽子法務大臣(67)だ。2018年、2回目の法務大臣在任中にオウム真理教事件の死刑囚13人への死刑執行命令を出すという「大役」を果たしており、日本犯罪史上の大事件だったオウムの死刑を執行をした法務大臣として歴史に名を刻んだ。一方で、国会答弁や報道対応で示してきた安定感が菅新政権での3度目の法務大臣就任につながった。近年は「テッパン(鉄板)法務大臣」と言われ、目立たないまでも存在感がある。「鉄の女」の異名もふさわしい。


上川陽子法務大臣 ©時事通信社

婚姻届や離婚届などのオンライン化も

「はんこ廃止方針」の記者会見で、上川氏は「行政手続きの見直しを強力に推進する政府方針に沿って、現在は廃止する方向で検討をしている」と発言した。河野太郎行政改革担当大臣が9月24日、全省庁に行政手続きで印鑑を使用しないよう求めたことに関連した対応だが、市民生活に直接関わる話だけにインパクトは大きい。

 上川氏は10月13日の記者会見で再度、この件に触れ「(押印は廃止するが)署名は引き続き維持する。戸籍の届け出は、人生の大きな節目の手続き。丁寧に検討を進める」とも語った。さらに、婚姻届や離婚届など、戸籍の届け出のオンライン化についても「制度上可能だ」と指摘し、届け出を受理する市区町村に対応を要望した。

 上川氏は1953年、静岡市生まれ。カトリック系女子中高一貫校である静岡雙葉中学校・高等学校に通った。10月13日には、同校新聞部から取材を受けたとして、ツイッターのタイムラインで「テーマは女性活躍について。質問し答を聞きながらメモを取る後輩達の姿は誇らしく。雙葉の6年間は将来の基盤を作る重要な時期であったことを強く感じたひと時でした。常に問題意識をもって自らの人生を切り拓いていかれますよう期待しています」とエールを送っている。

米上院議員の政策立案スタッフを経験、大統領選にも参加

 カトリックは死刑廃止を掲げるが、上川氏は「法務大臣の職にありながら、個人の思想・心情で死刑の手続きをしないのは、職務の放棄」との見解を示している。公私を切り分け、確固たる信念を持つ「鉄の女」と言われる由縁だ。

 高校卒業後は東京大学に進学し、「国際関係論」を専門とした。その後、シンクタンクの三菱総合研究所研究員を経て、米ハーバード大学大学院へ留学し、政治行政学修士を取得している。その武器を生かし、米国上院議員の政策立案スタッフを経験、米大統領選挙運動にも参加している。帰国後、政策コンサルティング会社を設立。2000年の衆院選で初当選を果たし、04年に自由民主党女性局長、05年に総務大臣政務官に就任している。

 07年には、第1次安倍改造内閣で内閣府特命担当大臣(少子化対策、男女共同参画、食育、青少年育成)として初入閣。13年に総務副大臣、14年に1回目の法務大臣になっている。安倍前首相から信頼を受け、その下で官房長官を務めてきた菅首相のお眼鏡にもかなったのだろう。華やかなキャリア、順風満帆な政治家人生だ。

夫は東大同級生でエリート銀行員。選挙にも献身的に協力

 上川氏の夫は東大時代のクラスメートという。エリート銀行員として勤めながら、上川氏の選挙運動にも献身的に協力してきたようだ。夫婦の間には、2人の娘がおり、上の娘さんが30代後半、下の娘さんは20代前半と年は離れているが、夫と同じく上川氏の選挙を手伝うなど、政治家である母の良き理解者のようだ。「女性活躍」を掲げて、自身も精力的に活動する上川氏を家族で支える、いわば理想的な家族のあり方が上川氏の活躍の基盤にあると言える。両親も孫の面倒を見るなど、一致結束した家庭環境が上川氏が政治家として勇躍する重要な要素になっているようだ。

 愛読書は司馬遼太郎の著書。趣味は「合気道、日本舞踊、ラジオ体操、合唱、グラウンドゴルフ、ターゲットバードゴルフなどのニュースポーツ」と多彩だ。教養や武道に根ざした精神性、政治家によくある「目立ちたがり屋」でもなく、堅実な仕事ぶりに法務官僚の評価は高い。

失言続きで安定性に欠いた森まさこ前法相

 近年は公職選挙法違反事件で逮捕・起訴された河井克行元法相といい、失言続きで安定性に欠いた森まさこ前法相といい、「困ったトップが多かった」という。ある法務官僚は「自民党政権復帰後で言えば、谷垣禎一さんはダントツで素晴らしい大臣だった。上川さんは谷垣さんと同レベルの安定感はある」と語る。

上川氏の信念を反映した施策とは?

 そんな上川氏が今回、こだわってきた信念を反映したと言っていい施策を打ち出した。死刑執行の事実を被害者遺族にいち早く知らせる制度だ。上川氏は元々、犯罪被害者への支援・保護が不十分だとの意識が高く、04年の犯罪被害者等基本法制定にも深く関わっている。国会議員として犯罪被害者や支援団体の集会にも出席して、あいさつをする機会も多く、被害者側からも被害者支援・保護に最も理解のある国会議員の一人として信頼されてきた。

 ちなみに、日本と同様に死刑制度が残る外国では、死刑囚の死刑執行に当該事件の被害者遺族が立ち会う権利を認めているケースもある。しかし、日本の場合、マスコミからの取材で初めて、身内を殺害された遺族が加害者の死刑執行を知るというケースも多く、不満の声が大きかった。

「情実の間を踏み切って、ものの見事にやりぬける」

 上川氏は今回打ち出した被害者遺族への通知制度に関し、10月23日の記者会見で「かねてから、被害者や親族の方々から、死刑が執行された際に法務省からその事実を知らせてほしいという要望を随時いただいていた。(新制度を)適切に運用していきたい」と述べた。3年前に上川氏が執行を指示したオウム事件の死刑の際は、「特例」扱いで、個別の遺族らの要望に添う形で報道発表前に関係者に連絡する対応を取っており、今回その仕組みが事実上、恒久化されることになった。

 尊敬するのは、明治維新三傑の一人「大久保利通」という上川氏。大久保と言えば、勝海舟をして「情実の間を踏み切って、ものの見事にやりぬけるのは、大久保だろうよ」と言わしめた信念の政治家だ。女性人材に事欠く自民党で、上川氏は「日本版カマラ・ハリス」になれるか。

(平野 太鳳/Webオリジナル(特集班))

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