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Appleには常に二人のジョブズがいる(上)〜 政治家はパフォーマンスに秀でていなければならない(3)

政治的な能力に必須のものとしてパフォーマンス能力と行政手腕の二つがあり、情報化が進展している今日ではパフォーマンス能力が必須=必要条件であることを、このブログで指摘してきた。そのうち実は前者、つまりパフォーマンス能力こそが必要条件で、行政手腕はむしろ十分条件に属すると、一般とは逆の指摘もしておいた。メディアによる情報がものを言う時代には、かつてと異なり先ず求められるのはパフォーマンス能力なのだ。

そして、こういった能力は政治を担う人間のみに必要とされるとものではない。一般的な組織、システム構築の際にも必須なものでもある。ただし、こんな優れた能力を持ち合わせた人間、めったにいるものではない。それゆえ組織やシステムが構築される際には、しばしばこの二つの機能は異なった人間によって分有されることになる。

今回はAppleの成功が前回のディズニーと同様、スティーブ・ジョブズ(以下ジョブズ)一人によるものではないことについて必要条件=パフォーマンス能力=ジョブス、十分条件=その他の実務能力=パートナーと言うことで考えてみたい。

初期Appleには「二人のスティーブ」がいた。

Appleが立ち上がったのは76年。よく知られているように、これを立ち上げたのは二人のスティーブだった。一人はジョブズ、もう一人はスティーブ・ウォズニアック(以下ウォズ)。二人は最初、無料で電話をかけられるようにするマシン、ブルーボックスを製作するが、後にこれで得た資金を元にApple社を設立、AppleⅠを開発・販売した。だがジョブズはプログラムを書くことができない。つまりコンピューターテクノロジーについての技術を持っていなかった。これを担ったのがプログラムの天才ウォズだった。じゃあジョブズは何をやったのか。ジョブズはパソコンのスタイル、つまりディスプレイ+本体+キーボード+ディスケットの構成によるコンピューターのアイデア(つまり、今日のスタイル)を考え、これを卓越したパフォーマンスをもって、コンピューター・ナードではなく、一般人を対象に売り込んだのだ。つまり必要条件=ジョブズ、十分条件=ウォズという図式。もし、ジョブズがいなければ、ウォズの技術がこの世に出ることも、そしてパソコンが現在普及しているスタイルになることもなかった。しかし、ウォズの技術がなければ同様にパソコンは誕生しなかったのである。つまりウォズは「技術のジョブズ」だった。

財務のジョブズをヘッドハンティング

80年代、ジョブズはAppleの拡大に伴いウォズ以外の開発者も抱えAppleⅡを売り出すことになる。しかし、Appleの規模が巨大化したとき大きな問題にぶち当たる。もう、財政的なこと、つまり企業の管理がジョブズのような素人では不可能になったのだ。そこで83年、財務能力を専門家に任せるため、ペプシコーラの会長だったジョン・スカリーをヘッドハンティングする。スカリーはコーラのトップシェアをコカコーラから奪ったことで世に名を馳せていた(このアメリカビジネス界トップの存在をジョブズは「このまま砂糖水を売り続けるのか、それとも世界を変えるのか」という殺し文句で口説き落としたエピソードは有名。ここでもジョブズの卓越したパフォーマンス能力が生かされている)。こうなるとジョブズ=必要条件=パフォーマンス能力+アイデア、スカリー=十分条件=財務能力といったかたちでシステム・組織を形成する条件が整った。スカリーは「財務のジョブズ」だった。

当初、二人は「ダイナミック・デュオ」と呼ばれるほどの最強コンビとみなされていた。ところが、互いの主張が強すぎたため、まもなく亀裂が生じる。というよりも、ジョブズはスカリーをウォズのように手なずけられると思っていたが、超一流のビジネスマン・スカリーはそうではなかったところが完全な誤算だった。ジョブズのやり方がビジネス・モデルとして不適切と考えればスカリーはこれを撥ね付けたのだ。スカリーにはジョブズという若造がビジネスのことなど何も知らない「ひよっこ」に思えたのだ。そこで85年、ジョブズはスカリーの排除に出たのだが……排除されたのはビジネス手腕の劣るジョブズの方だった。ジョブズは自らが作った企業からはじき飛ばされてしまったのだ。

さまようApple、さまようジョブズ

その後、Appleはスカリーの一人舞台となる。ただし、スカリーはパフォーマーではない。あくまでビジネスのエキスパートだ。ジョブズのようなパフォーマンス力、アイデア力はない(現在のiPhone、iPadのプロトタイプ的な製品”Newton Messagepad”をリリースしたりもしているが、完全に時代を読み誤っていた)。それゆえスカリーはその販売に当たって、既存のパソコンメーカーと同じ戦略を展開した。ラインナップの多様化、価格の低廉化がそれだ。だが、それはジョブズのパフォーマンス力・アイデア力に満ちていた製品=Macintoshから次々のその魅力を削ぎ落とし、製品のイメージを曖昧にしていく過程だった。Appleはどんどんとそのシェアを低下させ、最後にはOSをサードパーティにライセンスするまでになっていく。スカリーが辞め、次いでマイケル・スピンドラー、ギル・アメリオがCEOになった時には、Appleは「余命90日」と呼ばれるまでに衰退していた(スピンドラーのCEOとしての仕事は「どこにAppleを売却するか」だった)。

一方、ジョブズの方も同じだった。Appleから追放された後、ジョブズは自らコンピューター会社NeXTを立ち上げる。ジョブズのアイデアをふんだんに詰め込んだマシンは、その後、史上初のインターネットブラウザ”World Wide Web”が搭載されるほどの先進性をもった、そしてデザインとしても実に先進的なものだった。しかしジョブズはビジネスの素人。価格設定はべらぼうに高くて一般人が手を出せるようなものではなく(ビジネス・教育ユースをベースにし、ワークステーションが構築出来るところをウリにしていた)、販売網も手薄(日本ではキャノンが請け負っていた)。それゆえ生産すればするほど赤字という状態になり、最終的にはハードウェアの製造を断念。OSであるNeXTSTEPを企業向けに提供する企業に成り下がる。パフォーマンスとアイデアだけでは、やはりダメだったのだ。

しかしAppleはその後、ジョブズの復帰によってV字回復を成し遂げる。そして、この時にも二つの条件が備わっていた。(続く)

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