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焦点:舌禍が招いたアント上場延期、ジャック・マー氏の大誤算


[シンガポール/香港/北京 5日 ロイター] - 中国電子商取引最大手アリババグループ<BABA.N><9988.HK>創業者の馬雲(ジャック・マー)氏にとって、まさに「口は災いのもと」を痛感すべき結果になった。

中国の起業家として最も華やかな存在である馬氏は10月24日、銀行界の大物や金融監督当局や政府の要人が出席した上海の会合で、監督当局や銀行を公然と批判。国内の金融規制が技術革新の足を引っ張っており、経済成長を高めるなら改革がなされねばならないと主張。中国の銀行はまるで「質屋」程度の感覚で営業していると率直に意見した。

だが、この発言がきっかけとなり、最終的にはアリババ傘下の電子決済サービス「アリペイ」を運営するアント・グループの上場が一時延期される事態へと発展したと、ロイターが取材した政府当局者や企業幹部、投資家らは口をそろえる。

それによると、馬氏が批判を浴びせた金融監督当局や共産党幹部らは感情を害し、同氏が一代で築き上げた「金融帝国」の頭を抑える作業に乗り出した。そのハイライトが3日発表されたアントの上場延期だった。予定ではアントは5日に上海と香港で新規株式公開(IPO)を実施し、370億ドル(約3兆8300億円)を調達することになっていた。

馬氏は自分の言葉がどんな影響を及ぼし得るかきちんと認識していなかったかもしれないが、2人の関係者の話では、馬氏に近い人々は用意されたスピーチの内容を事前に知って困惑し、金融監督当局のお偉方が来場する以上、もっと穏当な内容にすべきだと提案していた。ところが馬氏はそれを断り、自分は言いたいことを言えるはずだと信じている様子だったという。

関係者の1人は「ジャックはジャックだ。思いの丈を口にしたかっただけだ」と話して馬氏の気持ちを代弁した。

しかし、これは馬氏の計算違いだった。そして、とんでもなく大きな代償が同氏を待ち受けていた。

複数の当局高官は馬氏の批判に憤激し、「顔面をひっぱたかれた」ような発言だったという怒りの声もあったという。

関係者2人によると、規制当局は、アントがオンライン融資サービス「花唄(Huabei)」を含むデジタル金融商品を使って、若者や貧困層に借金の拡大を促してきたなどと記した報告書の作成に着手した。一方で国務院弁公庁は、馬氏の発言に対する「一般国民の見方」を報告書にまとめ、習近平国家主席ら政治指導部に提出した。その中には馬氏と彼の発言に世論は否定的だとした報告もあったという。

政治指導部は、この問題への関与を強め、アントの事業活動を徹底調査するよう指示した。これがIPO延期につながったというのだ。

関係者6人によると、アントのIPO手続きが近く再開される可能性は低い。規制当局が同社の監視強化を狙っているためだという。関係者2人は、少なくとも2-3カ月は上場実施は見通せないとした。

<馬氏の事業に厳しい視線>

IPOで純資産が最低でも270億ドル増えるはずだった馬氏にとって、こうした事態は予想もしないつまずきだった。

大方の規制当局は長い間、馬氏の自由な行動を容認してきた。関係者5人によれば、それは同氏が一部の政府高官と親しいからだが、また同氏の成功を中国が世界に誇れるという面もあった。

およそ5年前、中国人民銀行(中央銀行)がアントの決済サービスとウエルス・マネジメント事業を規制しようとした際、馬氏は人民銀などとの話し合いでらちが明かないとみるや、彼らの頭越しに中央政府に直談判。人民銀は結局、規制計画を取り下げた。

しかし規制当局筋は、今年10月24日の発言に関して、馬氏が政府の優先順位が変わったことを正しく判断できておらず、金融監督当局に異議を唱えても中央政府が後ろ盾になってくれるとまだ信じていたと指摘する。

たしかに、より大きな構図でいえば、今年になって同国政府は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)でシステミックリスクが発生するのを予防するため、中国の金融セクターをてこ入れし規制も厳格化することを主要目標の一つにしていた。

実は、今回の馬氏発言が物議をかもす前から、アントがコストのかかる銀行規制を免れながら一連の金融サービスを幅広く展開していることに、当局が徐々に厳しい視線を向けるようになっていた。特にアントの収益源の1つで、急成長を続ける消費者向けオンライン融資事業への警戒感が高まっていた。

<当局、行動に移る>

そして今回の発言を受け、監視の目はさらに強まった。政府高官は人民銀や銀行保険監督管理委員会などに、アントの事業を洗いざらい調べるよう促した。馬氏が手広く展開したフィンテックサービスを抑制したがっていた当局は、習近平氏が信頼を寄せる経済助言役の劉鶴副首相らの書面の指令を受けて、すぐさま行動を起こしたという。

当局は今月2日、オンライン経由の小口融資事業、つまりアントに直接影響する部分の規制強化をねらった文書を急ぎ公表した。同事業を手掛ける企業に対し、銀行との共同融資額の最低3割分は自ら資金を出すよう義務付ける内容だ。アントのIPO目論見書では、同社が手掛ける融資は6月末時点で、そのわずか2%しかバランスシートに計上されていなかった。

関係者2人によると、アントや同社と競合するフィンテック企業の陸金所(ルーファックス)も含む中国の業界大手は、市中協議文書公表の何週間か前に、規制案の詳細を知っていた。

ルーファックスは10月末にニューヨーク市場で上場を果たし、24億ドルの調達に成功したが、これに先立って投資家には、中国の規制当局からオンライン融資規制強化の通達があったことを説明していた。

対照的にアントは、先週に行われた2回の海外投資家向け説明の場では、こうした規制強化の可能性に言及していなかった。同社広報担当者は、2日に市中協議文書が公表されるまで規制強化案の詳しい内容は把握していなかったと述べている。

<消えた尊大さ>

この市中協議文書公表後、馬氏とアントの幹部2人に呼び出しが掛かった。そして4つの規制当局が参加する異例の会合が開かれた。その場で、アントには、とりわけ消費者金融事業にとっては資本基準やレバレッジ比率といった事項で監視が厳しくなることが伝えられた。

当局は8月下旬以降に届け出られたIPO関連書類で、アントの融資事業の詳細が分かり、その規模やリスクの大きさに驚がくしたようだ。花唄や、個人向け短期無担保融資サービス「借唄」などを含むこの部門は、今年上半期のアント全体の収入の40%近くを占めた。

くだんの会合の翌日、上海証券取引所がアントのIPO延期を発表。理由として規制環境の「重大な変化」を挙げ、同社に対し香港上場も先送りするよう促した。

続いて中国証券監督管理委員会が、最近の規制変更がアントの事業構造と利益モデルに「重大な影響」を及ぼす可能性があると表明し、IPO延期は投資家と市場双方に対しての責任ある措置だと述べた。

IPO延期は、近年次第に悪化していった馬氏と規制当局の関係が究極まで冷え込んだことを物語る。

それでもアントは、規制を受け入れると約束する声明を公表した。

ガベカル・リサーチのアナリスト、アンドリュー・バストン氏は今週のリポートで「アントとしてはそうするほかに手はない」と述べ、あれほど尊大だった馬氏が今、謙虚な態度に変わってきているとの見方を示した。

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